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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-16】天翔ける白百合

 2132年7月17日――。

リリーの人生において最も長くなるであろう一日がやって来た。

今日、彼女は妹サレナや仲間たちには内緒で実母ライラック・ラヴェンツァリとの決闘に臨む。

自分たち姉妹の人生を狂わせ、世界の敵となった女を自らの手で討つために……!

「90、95、100――8番カタパルト、電圧グリーンゾーン」

「フライトデッキよりフルールドゥリス、8番カタパルトへ移動せよ」

「こちらフルールドゥリス、了解」

発着艦を管制しているフライトデッキによる指示を受け、作業員の誘導に従いながら愛機フルールドゥリスを右舷側最後部の8番カタパルトへと微速前進させるリリー。

「通信装置、電気系統、E-OS(イーオス)ドライヴ、操縦システム、姿勢制御システム、火器管制システム――オールグリーン」

その間に彼女はチェックリストの全項目を確認し、機体とカタパルトの接続作業に掛かる僅かな時間さえ無駄にしない。

技術者として高い能力を持つロサノヴァが準備してくれただけあって、今日のフルールドゥリスは物凄く調子が良さそうだ。

「珍しいですね、リリーさんが一人で機体のテストをするって」

「えへへ、修理ついでに追加された新装備が待ち遠しくってね」

管制官からの言及を萌えキャラのような笑い方でかわしつつ、リリーはその新装備――ワイヤーアンカー用に追加された操縦桿のボタンに中指を添える。

「8番カタパルト、セット完了!」

「フルールドゥリス、スタンバイ完了!」

そうこうしている間に機体とカタパルトの接続作業が完了し、コックピットから合図を送ることで作業員たちを退避させるリリー。

周囲の安全を確認したところで彼女はスロットルペダルを踏み込み、発艦後の加速を良くするために(あらかじ)めメインスラスターを噴かしておく。

「リリー・ラヴェンツァリ、フルールドゥリス……発艦します!」

カタパルトの脇に埋め込まれているLEDライトが赤から緑へ変わった瞬間、強烈な加速Gと共に純白のMFは星の海へ飛び立つのであった。


「(フライトプランで申請した宙域には無事辿り着けたわね。決戦の舞台に指定されたコロニーはもう少し先か……)」

フライトレコーダーの開示を求められた際に言い訳できるよう、まずは予定通り「演習宙域」へと向かうリリー。

この辺りはスペースデブリが漂着しやすい暗礁宙域となっており、消息を絶つには絶好の場所だ。

「(サレナちゃん、みんな……組織の一員なのに勝手に動いてごめんなさい。だけど、この戦いだけは独断専行と言われようとも一人で臨みたいの。母親との決着は自らの手で付けたいから……!)」

妹やスターライガの仲間たちに向けて心の中で精一杯謝りつつ、リリーはHISから詳細設定画面にアクセスしIFF(敵味方識別装置)を含む全ての通信システムをシャットダウンする。

これにより母艦や味方との交信は完全に途絶され、スターライガの戦術データリンクから自機を切り離すことができる。

今頃スカーレット・ワルキューレ艦内では「フルールドゥリスをロストした」と大騒ぎになり、対応が早ければ哨戒任務中の仲間が急遽捜索に回されるだろう。

その場合、位置座標が確認できた最終地点――つまりこの「演習宙域」へ真っ先にやって来ることは間違い無い。

「(あの女は必ず討たなければいけない。たとえ、それが相討ちであったとしても……)」

仲間に捕まって追及される事態を避けるため、リリーのフルールドゥリスはスペースデブリの間を軽やかな動きで翔け抜けていく。

暗礁宙域を無事に抜けると、決戦の舞台となるスペースコロニー「桃源郷」はすぐ近くにまで迫っていた。


「何ですって!?」

フルールドゥリスの位置座標をロストしたというオペレーターからの報告を受け、異変を察したミッコは直ちに緊急対応へ取り掛かる。

「キョウカ、すぐに動ける子は!?」

「ライガさんとサレナさんが哨戒任務中です! 二人と通信回線を繋ぎます!」

何かしらのトラブルに巻き込まれた可能性を考慮し、彼女はたまたま哨戒任務に出ていたライガたちを捜索隊として先行させることを決断する。

「ライガ、サレナ! 緊急事態よ!」

キョウカが通信回線を繋ぐと同時にヘッドセットマイクのスイッチを入れ、ライガとサレナに緊急事態が発生したことを伝えるミッコ。

冷静沈着なベテラン艦長である彼女がここまで焦燥感に駆られるのは非常に珍しい。

「リリーがらしくない理由を作って発艦した後、そのまま行方を眩ました――緊急事態はこれで間違い無いな、艦長?」

しかし、緊急事態を告げられたライガはやけに落ち着いているばかりか、リリーの身に何が起こったのかについて誰よりも正確に把握していた。

「え……もしかして知っていたの!?」

「アイツがフライトプランを提出して自発的に機体のテストに臨むなんて、普通なら少し考えにくいですから」

彼は幼馴染がどういう性格なのかよく知っている。

リリーは積極的にテストへ取り組む努力家タイプではないため、自らフライトプランを提出し「試験飛行」に臨むことなど一度も無かったからだ。

「ロサノヴァが白状してくれたんですよ。母さん――ライラック・ラヴェンツァリから果たし状を送り付けられ、因縁に終止符を打つべく一人で躍起になっていると……」

そして、サレナたちが事情を知ることになったのは、リリーと秘密を共有していたはずのロサノヴァが内部告発してくれたからであった。


「艦長、リリーの目的地はおそらく『桃源郷』です。俺とサレナが先にコロニーへ向かうので、艦長たちは状況が確認でき次第合流してください」

ロサノヴァから粗方の事情を聞いていたライガは向かうべき場所の名前を告げ、スターライガの「リーダー」としてミッコ艦長に指示を出す。

「了解、こちらは第2戦闘配置で警戒態勢を敷いておくわ。あなたたちの実力なら心配無用だと思うけど……一応気を付けてね」

「ええ、あのバカを必ず連れ帰ってやりますよ」

ミッコとの通信を終えたら回線を切り替え、今度は行動を共にしているサレナへ個人的に話を振るライガ。

「……よし、俺たちは急ごうぜ。リリーの実力じゃライラック博士には勝てないと思うからな」

「先日の小型宇宙艇に乗っていた人たち、やはり研究機関に擬装したバイオロイドの使者だったみたいね」

彼らがロサノヴァの暴露を受けたのは小型宇宙艇の一件が起きた翌日のこと。

その時点できな臭さを感じたライガは独自調査に乗り出し、本来ならばラヴェンツァリ姉妹を引き連れて「桃源郷」の探索に赴くつもりだったのだ。

「ロサノヴァから話を聞いた時点で怪しいと思ってたんだよ。それでリリカさんに研究機関のデータベースを調べてもらったんだが、宇宙艇の乗員の氏名は確認できなかった。もっとも、リリーが一人で飛び出すことは想定外だったがな……あのおてんば娘め!」

彼はその計画に基づいたフライトプランの作成にも取り掛かっていたのだが、結局はリリーの独断専行のせいでお蔵入りとなってしまった。

この時点で既に多数の人間に迷惑を掛けているが、場合によっては更に増えてしまうかもしれない。

「逆に母さんはそこまで計算済みだったのかもしれないわね。姉さんとの一騎討ちなら勝てると踏んだのでしょう。あの人は分の悪い賭けは好まないもの」

そして、一連の状況を把握したサレナは一つの結論に至る。

姉さんは用意周到な罠に誘い込まれたのだ――と。


 一方その頃、ここは建造途中で放棄されたスペースコロニー「桃源郷」内部のリ・マカオ区画。

元々は日本を筆頭とするアジア諸国が国際事業として建造を進めていた観光用コロニーであったが、開戦に伴う非常事態宣言の発令により全ての工事作業が中断され、戦略的価値に乏しいことから現在は作業中断時のまま手付かずの状態となっている。

地球圏全体がルナサリアンとの戦争により多かれ少なかれ影響を受けている中、このコロニーだけは4か月前から時間が止まっているようであった。

「(ホンコン、マカオ――私たちの『世界』が現れた際の余波で壊滅した都市国家。このコロニーの建設計画を主導した人物は、ホンコンからニッポンへ逃げ延びた華人の子孫だと聞く。時が未来に進んでも自らの中に流れる血は消えない――というわけかしら)」

かつて地球上に存在した都市国家「マカオ」を再現する予定の区画に機体を隠し、遅めの昼食を取っていたライラックはスマートフォンで現在時刻を確認する。

「(15時を過ぎたか……もうそろそろ機体の準備に取り掛からないといけないわね)」

決戦まであと1時間――。

朝食の余り物を利用したお手製サンドイッチを食べ終え、口直しの紅茶を飲みながら愛機エクスカリバー・アヴァロンに被せていたビニールカバーを外すライラック。

「(リリー、母親として私が最後の試練になってあげる。ここで『覚醒』しなければあなたは死ぬことになるわよ)」

一度は完膚なきまでに叩きのめした娘の成長に期待しつつ、場合によっては引導を渡すことも考慮しながら彼女はコンバットスーツに着替え始めるのであった。

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