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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-15】母親からの果たし状

 ルナサリアンとの直接会談を終えたスターライガは近場のスペースコロニーで半舷休息を取った後、最近投入された新型機のテストを再開するため手頃な宙域へと向かっていた。

しかし、その道中で彼女らはちょっとしたハプニングに遭遇してしまう。

「艦長、本艦の針路上に小型宇宙艇がいます。退避するよう通告しますか?」

操舵席でくつろいでいたラウラは針路上に浮かぶ漂流物――白い小型宇宙艇を発見し、自動操縦を解除しながらミッコ艦長へ指示を仰ぐ。

手動操縦が可能になった時点ですぐに(ふね)を減速させたため、十分な余裕を持って停止することができた。

「こっちは戦艦だから小回りが利かないわ。ここはあちらに回避運動をしてもらいましょう。キョウカ、相手への呼び掛けをお願い」

スターライガの母艦スカーレット・ワルキューレは全長332mの大型艦であり、ラウラが舵を切って実際に曲がり始めるまで若干のタイムラグが生じる。

一方、民間用に普及している小型宇宙艇は操縦性が重要視されており、少なくとも戦艦よりは臨機応変に動くことができる。

それらの点を考慮した結果、ミッコは相手の小型宇宙艇に回避運動を取ってもらえるよう、優秀なオペレーターであるキョウカの話術に期待を寄せるのだった。


「了解、ええっと……本艦の針路上の小型宇宙艇に告ぐ。このままでは接触する可能性が高いため、速やかに回避運動を――」

指示を受けたキョウカはオープンチャンネルの通信回線を開き、動く気配が無い小型宇宙艇に対し回避運動を取るよう呼び掛ける。

スターライガはオリエント連邦政府との協定により不審船へ強硬手段を取ることが認められているが、できればその権利を行使するのは避けたいところだ。

「――ええ? それは困りましたね……」

しかし、通信に応じた乗員から「回避運動ができない事情」を聞かされ、困惑気味の表情を浮かべるキョウカ。

「どうかしたの?」

「はぁ……あの宇宙艇、エンジントラブルで上手く動けないみたいです。識別信号はオリエント連邦籍の民間船舶のようですし……助けてあげてもいいんじゃないですか?」

彼女は小型宇宙艇がエンジントラブルにより漂流しそうな要救助者であることを説明し、手を差し伸べるべきだとミッコに向かって進言する。

「このご時世で自家用宇宙艇が暢気にクルージングとはね……まあいいわ」

事情を聞いたミッコはいつルナサリアンに遭遇するか分からない中、無用心に航行していた小型宇宙艇の存在を訝しみつつも、ここはキョウカの提案を受け入れ救助活動に移ることを決めるのであった。

「全乗組員に通達! これより民間船舶に対する救助活動を開始する! 甲板上の人員は現在行っている作業を中止し、至急小型宇宙艇の受け入れ準備を整えよ!」


 トラブル発生から約15分後――。

「わざわざありがとうございます。エンジントラブルで漂流寸前だった我々を助けていただき、しかも宇宙艇の修理まで面倒を見てもらえるとは」

スカーレット・ワルキューレの飛行甲板上に係留された小型宇宙艇から降りてきたのは、白衣を身に纏った二人組の女性科学者たち。

研究に必要なサンプルの収集中に宇宙艇がトラブルを起こし、危うく漂流しそうになっていたらしい。

「いえ、お気になさらず。星の海で困っている者がいたら手を差し伸べる――それは船乗りの常識ですから」

彼女たちを穏やかな笑顔で迎え入れ、修理が終わるまでの間待機してもらう部屋へと自ら案内するミッコ。

軍艦に準じた設計を持つ船舶へ乗り込む以上、勝手に動き回られると都合が悪いからだ。

ミッコは女性科学者たちが「要救助者を装ったスパイ」である可能性を危惧していた。

「ん? それがさっき艦内放送で言っていた漂流船かい?」

一方、ほぼ同じタイミングで休憩のため飛行甲板に上がってきたロサノヴァは、ちょうど宇宙艇の修理作業に取り掛かろうとしていた作業員たちへ声を掛ける。

「あ、ロサノヴァさん。そうなんですけど……エンジントラブルを抱えているとのことなので、ちょうど僕たちが応急修理を施そうと思っていたところなんですよ」

「現状だと自力航行すらできないの? どれ、ちょっと見せてみな」

公私共に機械いじりが好きな彼女は作業員から懐中電灯を借りると、光量を最大まで上げながらエンジンノズルの内部を明るく照らす。

「(奥の方に何か挟まってる? これは取り外してみないと分からないな……)」

ここでロサノヴァは早くもトラブルの原因を発見し、結構大掛かりな作業となることを覚悟するのだった。


「お前たち、このエンジンを外すのを手伝ってくれ」

「外すんですか?」

「ああ、トラブルの原因は奥の方にあるみたいだ。エンジン自体を外さないと対処できないぞ」

懐中電灯を返しながら作業員たちに指示を出すと、自ら上着を脱いで作業を手伝い始めるロサノヴァ。

仕事として義務的に作業へ入ったというよりも、単に個人的な興味から付き合ってあげていると見るべきだろう。

「ふむ……なるほど、こいつが挟まって内部機構に干渉していたんだ。ったく、FOD(航空機に危険を及ぼす異物)には細心の注意を払えって教わるはずなんだけどな」

作業員たちと一緒に小型宇宙艇のエンジンユニットを取り外してみたところ、ロサノヴァの予想通り明らかにエンジン部品ではない異物が挟まっていた。

「しかも、整備マニュアルを紛失するなんて始末書じゃ済まないかもしれないね」

内部機構に干渉しエンジンの動作を妨げていた異物の正体は、この宇宙艇の整備マニュアルを兼ねた取扱説明書であった。

おそらく、整備作業中に何かしらの不注意で挟まったまま放置されたのだろうが、あまりにも初歩的なヒューマンエラーにロサノヴァは苦笑いするしかない。

「(!? この整備マニュアル、カバーを付けただけのハリボテじゃないか! しかも……)」

ところが、その整備マニュアルを興味本位でめくってみた瞬間、彼女の表情から笑顔が消える。

確かにカバーは正規品その物であるが、中身は同じサイズの適当な本だったからだ。

そのうえ、わざとらしく白紙にされているページに記されていた文章は……。

「ロサノヴァさん? どうしたんですか?」

「あ……いや、何でもない。整備マニュアルを落としたメカニックの情けなさに呆れてただけだよ」

心配げに声を掛けてきた作業員を適当に誤魔化しつつ、ロサノヴァは例の整備マニュアルを上着の内ポケットへと滑り込ませる。

「(これ……リリーさんたちに知らせた方がいいのかな……)」

ミッコ艦長やレガリアではなく、真っ先にリリーへ知らせるべき「文章」とは一体……?


「(『覚醒』と『加速』で敵陣中央に位置取りをして、次に『愛』を掛けてマップ攻撃を撃ち込めば資金と経験値を大量ゲット……っと。うーん、気分爽快!)」

非番の時のリリーは基本的にゲームをしているかイラストを描いているかのどちらかであり、自室にいることが多い。

今日は幸いにも自室で先日発売されたばかりの新作ゲーム「ハイパーロボット大戦XM」を楽しんでいたため、広い艦内を歩き回って探す手間が省けた。

「リリーさん、入ってもいいですか?」

作業員たちに後を任せたロサノヴァは居住区画へと足を運び、リリーの自室のドアをノックして入室許可を求める。

「ロサノヴァちゃん? 今ゲームをしてて忙しいけど……入ってもいいよ」

「失礼します」

忙しいと言っているわりには余裕がありそうなリリーの返事を受け、軽く会釈をしながら彼女の部屋に入るロサノヴァ。

戦闘時に散乱しないよう片付けられているとはいえ、それでも足の踏み場が十分確保されているとは言い難い有り様だ。

地球上では同じ家に住んでいるサレナの気苦労が窺い知れる。

「君が非番の時に来るなんて珍しいね。まあ、散らかってるけどゆっくりしていってよ」

ゲームコントローラーを机の上に置き、マンガの束を退かすことで何とか一人分のスペースを確保するリリー。

「冥王が覚醒しそうな曲が聞こえてきたから気になって――というのは冗談で、じつはリリーさんにどうしても見てほしいものがあるんです」

テレビから流れているゲームBGMに因んだ冗談を述べつつ、ロサノヴァは先ほど入手した「整備マニュアル」を上着の内ポケットから取り出す。

「……かなり真面目な話みたいね」

事の重大さを察したリリーはテレビの電源を切り、普段の雰囲気からは想像できないほど引き締まった表情で「整備マニュアル」の表紙をめくるのだった。


母娘の縁を切り、落とし前を付けるための決闘を望む。

2132年7月17日16時00分、建造途中で放棄されたスペースコロニー「桃源郷」のリ・マカオ区画にて待つ。

-Lilac Laventsari-


「(決戦は4日後……か)」

母親直筆の果たし状を受け取ったリリーの答えは明白だ。

「ねえ、ロサノヴァちゃん。お願いがあるの」

「何でしょうか……?」

彼女に突然手を握り締められ、困惑しながらも「お願い」とは何なのか聞き返すロサノヴァ。

「これは私と君だけの秘密にしてもらえないかしら。ライラック・ラヴェンツァリの娘として、あの女との決着は自らの手で付けないといけない」

「……」

母娘の問題は当事者間でケリを付けたいから、スターライガの仲間たちには黙っておいてほしい――。

それが偶然にも果たし状の内容を見てしまったロサノヴァに対する「お願い」であった。

「17日の午後に『火器管制システムの実戦的なテスト』という名目でフライトプランを申請すれば、規約上は合法的にフル装備の機体を持ち出せるはずよ」

もちろん、如何なる理由であっても無断で機体を持ち出すわけにはいかないし、そもそも正規の手続きを経なければ燃料弾薬の使用許可が下りないのだ。

「それでね、事が大きくならないよう機体の準備は君一人に頼みたいの。本当は私も手伝うべきなんだろうけど……多分、当日は戦いのことで頭が一杯だと思うから」

だから、フライトプランによって愛機フルールドゥリスが必要な理由を作りつつ、機体の準備は秘密を共有しているロサノヴァに一任する。

これで少なくとも出撃直後までの時間稼ぎはできるはずだが……。


「……本当に一人で戦いに臨むつもりなんですか? それならば同じ血を分けたサレナさんだって……!」

しかし、バイオロイド事件に端を発するラヴェンツァリ親子の確執を知っているロサノヴァは、リリーの覚悟は理解しつつも首を縦に振らなかった。

血縁関係を戦う理由とするのならば、リリーの双子の妹であるサレナにも「知る権利」を与えるべきだと感じたからだ。

たった一人の妹を巻き込みたくないという気持ちは分かるが、それでもロサノヴァは「せめてサレナにはこの事を伝えるべきでは?」と再考を促す。

「……あの子には親殺しの罪を背負ってほしくないの。母親の返り血を浴びるのは私一人だけで十分だから」

だが、あくまでも一人で決着を付けたいと語るリリーの表情は強い決意に満たされており、ロサノヴァの言葉だけで考えを改めさせることは叶わなかった。

「分かりました……若輩者ではありますが、できる限り善処いたします」

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