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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-14】ルナ・ダイアル計画

 記憶が途切れた時、最後に見えていたのは蒼い光の剣が自分を切り裂こうとする光景――。

「う……うぅ……」

少しの間意識を失っていたのだろうか。

呻き声を上げながら高橋が目を開けると、戦闘宙域は静かな星の海に戻っていた。

地球やスペースコロニーの姿が遠くに見えているので、どうやら死後の世界というわけではないらしい。

「(あいつ……俺にトドメを刺さず見逃したのか……ナメられたものだな)」

シートベルトを外し、痛む身体を引きずり出すようにコックピットから立ち上がる高橋。

彼の搭乗機である晴嵐22型甲は腰部を無惨に切り裂かれ、上半身と下半身が真っ二つに分かれてしまっていた。

脚部を構成する下半身はすぐ近くを漂っており、味方艦隊が来てくれれば何とか回収できそうだ。

そして、コックピットブロックのある上半身が大破せず、高橋自身に致命傷が無いことは不幸中の幸いであった。

「(ルナサリアンのエースめ、次は必ず……!)」

情けを掛けられたのは、実力不足で殺すほどの価値も無いと見做されたから――。

明日に繋がる今日を生き延びられたことには安堵しつつも、プライドを傷付けられたとも感じた彼は38万キロ先に浮かぶ月の姿をその手で握り潰す。

月からやって来た実力者たちと互角の力を身に付け、今度こそリベンジを果たすことを願いながら……。


 作戦を終えたアキヅキ姉妹は戦闘中にかいた汗を洗い流すため、ヤクサイカヅチ艦内に設けられている専用浴場でリラックスタイムを過ごしていた。

ちなみに、姉妹で一緒に入浴しているのは先に入ったオリヒメが「順番待ちする必要は無いんじゃない?」という理由で妹を連れ込んだためであり、それ以上の深い意味は無い。

「姉さん」

「何?」

「スターライガの連中は後方での観戦に徹していたな。やはり、奴らに我々の同志になれと言うのは無理なのではないか?」

ポニーテールが解かれた美しい銀髪を洗いつつ、浴槽内でくつろいでいる姉に対し自らの意見を述べるユキヒメ。

武人である彼女は政治に口出しすることは好きではないが、それでも「スターライガを何とかしてこちら側に引き込みたい」という姉の奇策だけはどうしても納得できなかった。

「そうかしら? 私たちの実力が予想以上だったから出番が無かっただけだと思うけど」

一方、オリヒメは今回の件について妹よりも悠長に捉えており、余裕の表れなのか呑気に白いタオルでウサギを作って遊んでいる。

そのウサギを頭に乗せて笑っている彼女が、まさか「月の絶対君主」だとは誰も思わないだろう。

「冷酷非情な独裁者」というイメージは地球側が作ったプロパガンダにすぎない。

素のアキヅキ・オリヒメは実年齢よりも遥かに若く見られる、どちらかと言えばお茶目な女性であった。


「それよりも……気になるのは日本艦隊が今回の会談を嗅ぎつけていたことよ。この広い宇宙で簡単に見つかるとはおかしな話よね」

もちろん、指導者として締めるべきタイミングもオリヒメは(わきま)えている。

彼女はスターライガ云々よりも日本艦隊との「遭遇」の方が懸念事項だと考えているらしい。

確かに、広大な宇宙空間においてピンポイントで座標を特定できるというのは、偶然にしては少々幸運過ぎるのではないだろうか。

「考えられるのは情報漏洩だが……我々の対策は完璧だったはずだ。そして、認めたくはないがスターライガは義理堅い人間の集まりに見える。奴らが意図的に情報を漏らしたとも考えにくいな」

身体を洗いながらユキヒメはこう指摘する。

まず、今回の直接会談について予め把握していたのは自分たちを含むごく一部の関係者だけであり、信頼度を基準に選び抜いたそれらの人間が不埒を働くとは考えにくい。

また、直前になって任務を知らされた一般将兵たちが情報を漏らすことは難しく、ここからの漏洩はあり得ないと断言できる。

そのうえで、プロ意識が高く会談の準備に尽力していたスターライガが、これまでの努力を無駄にするような愚を犯すとも思えなかった。

「ええ、日本艦隊の警告射撃は明らかにスターライガをも狙っていた。地球人の内輪揉めも来るところまで来たのかもしれないわ」

「……無粋だな、全く」

結局のところ、事の真相はこれから調査を行わなければ分からない。

一つ言えるのは、地球人がこの期に及んで無益な内紛を続けているということだ。

国籍という前時代的な足枷に縛られ、その力を無駄に消耗している愚か者ども――。

「(直接会談のことを把握していて、尚且つ地球側を納得させられるだけの発言力を持つ人物……いや、まさかね)」

ところで、オリヒメは情報漏洩の犯人について一人だけ心当たりがあった。

その人物が元凶だと決めつけられる証拠は全く無かったが……。


 戦闘宙域からの離脱に成功したスターライガ及びキリシマ・ファミリーは、遠回りをしながらオリエント連邦が実効支配する宙域へと帰還し、周辺の安全を確保してから秘密回線による通信を試みる。

秘密回線のパスワードは「HOTLEMON」。

これを通信システムの起動画面に入力することでシークレットモードが発動し、オリエント連邦政府とのホットラインが繋がるのだ。

この秘密回線は部外者が盗聴できないよう幾重にも亘るセキュリティが張り巡らされ、更には通信記録を一切保存しないことで電子的安全性を確保している。

仮に悪意あるクラッカーが通信システムへ侵入できたとしても、リスクに見合った情報を得ることは無いだろう。

「――以上が今回の直接会談の結果です」

テレビ会議システムを起動したレガリアはオリエント連邦首相のオフィーリア・カラドボルグに加え、管理者権限を用いることで本来はアクセスできないマリン、ヤン、ノゾミの3名を秘密回線へと招き入れる。

今回の会議の目的は直接会談の結果報告と今後の予定についての話し合いだ。

「報告ありがとうございます。どうやら、とても大変だったみたいで……」

直接会談自体は事前に把握していたとはいえ、それが後味の悪い結果に終わったことについてはタメ息を()きながら同情するオフィーリア首相。

「何の成果も得られなかった――とまでは言いませんが、あまり実りのある会談ではありませんでしたわ」

レガリアの方も今回の結果には満足していないが、ここまで散々な結果だと開き直って苦笑いするほかなかった。


 会談と言っても長時間話し合えたわけではないので、残念ながらこれ以上報告すべきことは無い。

「ったく、日本艦隊が空気を読まずに乱入してくるからだぜ。まさか、事前警告無しに威嚇射撃をしてくるとはよ」

それよりも重大なのは直接会談の最中に日本艦隊が現れ、正当防衛も止む無しの艦砲射撃を撃ち込んできたことだ。

地球人類は戦争行為を可能な限り回避する義務を負っており、少なくともスターライガ、キリシマ・ファミリー、日本艦隊の三者に対しては明らかに適用されている。

これは悪態を()いているマリンでさえ知っている国際法の常識である。

つまり、事前警告を行わずに攻撃を仕掛けた日本艦隊の行為は厳密にはアウトだと言えた。

「地上に残っていて正解だったな。あたしは地球人同士で殺し合うことに躊躇いは無いが、そこに政治を絡めると面倒臭くなるからな」

補給の都合で本国に留まっていたヤンは自分の判断に感謝しつつ、これからの戦いに政治が絡んでくることを危惧し表情を曇らせる。

入国禁止で済むのなら全然問題無い。

刺客を送り込まれたりしたらさすがに厄介だが……。

「首相、今回の件について日本政府から声明は出ているのですか?」

「いえ……時差の関係でまだ確認できていませんが、遅くとも数日以内には公開されるかと」

ヤンと同じく本国居残り組だったノゾミからの質問に対し、オフィーリア首相は「近いうちに抗議の意が表明されるはず」とだけ答えるのであった。


 日本艦隊と直接戦闘を行ったのはルナサリアンであり、後方で静観していたスターライガとキリシマ・ファミリーを批判するのはお門違いと言える。

しかし、実際には「論理の飛躍」によりスターライガも同罪扱いされる可能性が高い。

日本側が事情を知らなかったとはいえ、そもそも艦砲射撃を撃ち込まなければルナサリアンの反撃を受けることは無く、艦隊全滅という憂き目は避けられたはずだ。

「けッ、どうせボクたちとスターライガを地球の裏切り者扱いする、ロクでもない抗議文の発表だぜ!」

「お前は少し静かにしてろ!」

悪態が止まらないマリンをさすがに煩わしく思ったのか、彼女を一喝して黙らせるとヤンは他の面々に向けて話題を振る。

「……それで皆さん、我々が今後どうするべきかについて何か計画は立てているのか?」

先月行われた2度目のコロニー落としの失敗後、戦争はお互い決め手に欠ける膠着状態へと陥っていた。

各戦線での小競り合いや先の戦闘のような遭遇戦は今も続いているが、戦況を動かすほどの大規模戦闘は2度目のコロニー落としを最後に起こっていない。

とはいえ、地球側もルナサリアンも戦力を温存している以上、このままなし崩し的に戦争が終わるとは考えにくい。

「最終的にはルナサリアン本土――つまり月への侵攻を目標とする戦争計画を進めていますが、進捗は思わしくありません。理由としては地球上の敵戦力を一掃しなければリスクが大きすぎることが一つ。そして何より、大規模作戦に参加可能な国家間の調整が上手くいっていないことです」

その根拠にオフィーリア首相はルナサリアン本土侵攻作戦――コードネーム「ルナ・ダイアル計画」の存在を明かし、遅かれ早かれルナサリアンとの決戦は避けられないことを伝えるのだった。


 オフィーリア首相が提供してくれたルナ・ダイアル計画の電子資料を一通り確認し、腕組みしながら個人的な意見を述べるレガリア。

「現状で最も多くの戦力を送り出せるのは我が国よ。だけど、他の国々も最小限のコストで戦争に『貢献』し、願わくば戦後賠償でルナサリアンの技術や土地を得たいと考えているはず。月面ツアーは地球人類が150年以上待ち望んでいた悲願だもの」

ルナ・ダイアル計画はオリエント連邦主導の一大プロジェクトであるが、同等以上の国力を持つルナサリアン相手に一国で立ち向かうのは無謀だ。

そのため、この計画には日本、アメリカ、ロシア、イギリス、フランスも協力者として名を連ねており、作戦発動時は6か国による人類史上最大規模の多国籍軍が結成されることになる。

ルナサリアンの国力は地球側の超大国+α程度とされているので、6か国で殴り込みを掛ければ勝てるという算段である。

もっとも、現時点で既に疲弊気味のアメリカとフランスに戦力を絞り出す余裕は無く、この2か国の参加目的は「とりあえず参画しておくことで戦後賠償のおこぼれを貰う権利を確保するため」だと囁かれているのだが……。

「でも……人、それを『侵略』と言うのよ。ルナサリアンから地球を守るのが当初の目的だったはずなのに、逆に相手の土地へ踏み入るというのは……」

計画の電子資料をレガリアから回され、戦争目的が「侵略行為への抵抗」ではなく「利益確保を目的とした侵略戦争」にすり替えられていたことを察してしまうノゾミ。

「地球とルナサリアンの文明レベルは同等。相手が人智を超えた存在ではないと分かった時点で、技術や資源の獲得も戦争目的に加わったのでしょう」

そして、そのような懸念を抱いているのはレガリアも同じであった。

「人は何かを手に入れるために争う――戦争の本質はいつの時代も変わらない、か」

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