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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-13】武士道とは死ぬことなのか?

 最後に残った駆逐艦「初月」の対空砲火を容易く突破したアキヅキ姉妹は再び同時攻撃を仕掛け、息の合ったコンビネーションで敵艦に大きなダメージを与えていく。

「弾幕が薄いのよね……その密度だと簡単に掻い潜れてしまうわよ」

「ああ、全くだ! 艦艇など懐に潜り込めば硬いだけの鉄の塊に過ぎん!」

両者の攻撃は弾薬庫、核融合炉、推進装置が集中している船体後部を正確に狙っており、ウィークポイントを突かれた初月は堪らず大爆発を引き起こす。

「あらあら、綺麗な大爆発だこと。もう二度と自力航行できそうに無いわ」

ルナサリアンでは初採用となる光学盾――地球で言うビームシールドを展開しつつ、爆沈していく敵艦から離れて蒼い爆発の余韻に浸るオリヒメ。

彼女の指摘通り、船体後部が吹き飛ぶほどに大破した初月は良くて数か月間の入渠(にゅうきょ)、最悪の場合このまま宇宙空間に放棄され除籍となることだろう。

「お見事だ、姉上。これで我々の会談を邪魔した輩は全滅――と言いたいところだが、ヤクサイカヅチの報告によると敵増援が迫っているらしい」

母艦ヤクサイカヅチと連絡を取り合っていたユキヒメは姉の戦いぶりを労う一方、壊滅させた日本艦隊が呼び寄せたであろう敵増援の存在を彼女に伝える。

増援を相手取るか否かはオリヒメが決めることだ。

「ふむ、蛆虫のように湧いてくる敵と戯れていても時間の無駄か……」

結局、敵増援と戦うことにメリットを見い出せなかった彼女は機体の消耗を考慮した結果、戦闘終了及び撤退を決断する。

残敵は地球人同士の殺し合いが得意なスターライガにでも相手させればいい。

「ユキ、燃料弾薬も限界が近いしそろそろ戻りましょうか。この遭遇戦に戦略的価値があるとは思えないしね」

「奇遇だな、私も退き際だと思っていたところだ」

意見がまとまったオリヒメとユキヒメは親衛隊員たちに指示を送り、戦闘宙域からの離脱を図るのであった。


「ユキヒメ様? ――ハッ、了解しました。ただちに兵を退かせます」

アキヅキ姉妹から撤退命令を受けたスズヤは敵機を追い回すことを止め、同じく戦闘中の僚機へ命令内容を伝達する。

「各機、敵増援が迫っているとの報告があった。我々も戦闘を切り上げてヤクサイカヅチに帰艦するぞ」

親衛隊長という立場がある彼女は主君たるアキヅキ姉妹と共に帰るつもりだったが、ここで少し想定外の事態が発生してしまう。

「逃がすかよ! お前らのせいで俺たちは帰る場所を失ったんだ! このまま地獄へと引きずり込んでくれる!」

せっかく見逃してやろうと思っていたのに、復讐の炎に燃える高橋ら日本軍MF部隊の生き残りがしつこく食らいついてくるのだ。

無視を決め込もうにもこれではストレスが溜まってしまい、流れ弾による事故が起こる可能性もあり得る。

勝ちが決まった戦いの撤退中に命を落とすのはあまりに情けない。

「……お前たちは先に行け。私はあのしつこい男を片付けてから戻る」

既に死に体とはいえ、敵部隊の気迫に危機感を抱いたスズヤは僚機へ先に撤退するよう促すと、彼女自身は臨戦態勢を維持したまま灰色のMFたちと睨み合いを続ける。

「了解した。一応気を付けろよ親衛隊長、地球には『窮鼠猫を嚙む』という諺がある。弱者であっても追い詰められたら何をしでかすか分からない――という意味らしい」

撤退する面々の指揮を任されたモミジは地球の諺を引き合いに出すことで警告するが、スズヤはそれを一笑に付しながら愛機ツクヨミのスロットルペダルを踏み込むのだった。

「地球のネズミ如きが我々月の民に噛みつけるとでも? フンッ……だったら、身の程というものを教えてやらねばな!」


「隊長機……単独で殿(しんがり)を務めるつもりか……!」

殿として一人残ったスズヤのツクヨミと相対し、これまでの経験から本能的に彼女の危険性を感じ取る高橋。

その強さは並のドライバーが束になっても太刀打ちできず、奇跡が起これば勝てるかもしれないといったレベルだ。

最悪の場合は一方的な猛攻で全滅することも十分考えられる。

「ツクヨミは貴様らの機体よりも速くて強いぞ。果たして付いてこられるかな?」

事実、1対4という不利な状況でも自らこの試練を望んだスズヤは全く動じておらず、機体自慢やマニピュレータの中指を立てるという余裕すら見せている。

「こいつ……挑発しているのかッ!」

彼女の発言は日本軍MF部隊には聞こえていないはずだが、一連の挑発行為に乗せられてしまったドライバーはまんまと威嚇射撃を行い、レーザーライフルの貴重なエネルギーを無駄に消耗してしまう。

予測可能な攻撃をスズヤのようなエースに直接当てることは極めて難しい。

「ダメだ田崎! アレはタイマンで勝てる相手じゃないぞ!」

生き残りの中で唯一レーザーライフルを使用可能な田崎の無用心さを窘めつつ、高橋は頭の中で必死に策を練る。

この危機的状況……どうやって切り抜けるべきかを。

「隊長、田崎の援護を! このままでは返り討ちに遭うだけです!」

そして、部下の一人である谷の進言を受けた高橋は決断する。

「う、うむ……分かっている! 谷、木村、これ以上仲間を喪うわけにはいかんぞ!」

「「了解!」」

突出し始めた田崎を援護するため、彼をサポートしつつ目の前の強敵に立ち向かうべきだと。

「(友軍艦隊がすぐ近くにまで来ている……だが、それまで4人で生き残れるだろうか)」

日本艦隊の増援到着まであと7分――。


「当たれ! 当たれ! 当たれッ!」

「撃ち過ぎだ! ただでさえエネルギーを消耗しているのだから、もっとよく狙い澄ませ!」

ロクに狙いを付けずにレーザーライフルを連射する田崎に対し、そんな戦い方ではエースには当たらないと警告する高橋。

「弾切れ!? クソッ、こんな時に!」

「ほら見ろ! 言わんこっちゃない!」

予想通り田崎の晴嵐22型甲が装備しているレーザーライフルは弾切れとなってしまい、それを見ていた高橋は思わず頭を抱える。

これにより彼が率いる部隊は貴重なダメージソースを失ってしまった。

「無駄な攻撃……ご苦労様!」

乱れ撃ちが止んだところでスズヤのツクヨミは反撃に転じ、光刃刀を構えながらすれ違いざまに灰色のMFを一閃。

手応えを感じられたので撃墜確認は必要無い。

「うわぁぁぁ! た、隊長ッ!」

コックピットブロックを切り裂かれた田崎はそのまま蒼い爆炎に飲み込まれ、射出座席を作動させること無く星の海に散ってしまう。

「チッ、田崎の悪癖と弾切れのタイミングまで計算済みってわけかよ」

しかし、高橋は冷静に田崎が敗死した原因を見極め、心の中でスズヤの手際の良さに感心する。

いや……多くの部下を喪ったことで感覚が麻痺してしまったのかもしれない。

本当は部下を殺した敵の実力など受け入れたくなかった。

「(あと6分なら俺一人で何とか凌げるかもしれん……生きて帰れるかは別だがな)」

数で攻めても田崎の二の舞を演じるだけになる――。

そう判断した高橋は残った部下にひたすら逃げるよう指示を出し、自らが囮となって時間稼ぎすることを伝えるのであった。

「谷、木村、お前たちは先に行け! ここは俺が踏ん張ってやる!」


「隊長……!」

「早くしやがれッ! お前らの腕じゃ試し斬り感覚でやられるだけだぞ!」

自分を囮にしろという命令に谷は一瞬躊躇いを見せるが、高橋に強い口調で諭されたことで彼の指示通り戦闘宙域から離脱していく。

スズヤとの実力差はこれまでの戦いで散々叩き付けられている。

「分かりました……どうかご無事で」

「友軍艦隊と合流したらすぐに応援を頼みますから! それまでは持ちこたえてくださいよ!」

友軍艦隊のいる方角へ向かう谷と木村の晴嵐22型甲を見送りつつ、予備武装である125式機械化軍刀を抜刀し強敵を睨みつける高橋。

「なるべく早く頼む。こいつは……1分耐えるのもキツそうな相手だ」

彼の機体は戦闘のダメージで右手を失っているうえ、燃料弾薬も激戦続きで限界が近い。

当然、母艦である羽黒は既に沈んでいるので修理や補給は行うことができない。

勝ち残ろうが討ち死にしようが、逝き先が地獄であることに変わりは無い――というわけだ。

「自らの命を顧みず、僚機を先に逃がしたか。敵にしておくには惜しい人材だな」

部下を守るために自分を捨てて戦おうとしている高橋の覚悟を感じ取ったのか、あえて条件を対等にするべく射撃武装と盾を投げ捨て、相手と同じ実体格闘武装であるカタナを構えるスズヤ。

「(谷たちには興味無し、か……ありがたい話だ。こいつの視線を釘付けにしておけば、あいつらは安全圏まで逃げることができる)」

無益な殺生を好まない彼女の高潔さに感謝しつつ、高橋は佐官の権限で晴嵐22型甲に設定されている耐Gリミッターを解除する。

これにより晴嵐はスペック表以上の性能を発揮できるようになるが、その代償として機体及びドライバーに凄まじい負担を掛ける諸刃の剣でもある。

「命を燃やす時が来た! やるぞ晴嵐……リミッター解除だ!」

だが、その剣を抜くことを高橋は全く躊躇しなかった。

少しでも部下たちが生き延びる可能性を上げるために……。


 日本艦隊の増援到着まであと4分30秒――。

「でやぁぁぁぁぁッ!」

「動きが変わった……? むッ、予想以上に素早い!」

リミッター解除によって高橋の晴嵐22型甲の機動は一段と鋭くなり、あまりの変貌ぶりに実戦経験豊富なスズヤも最初は驚きを隠せなかった。

灰色のMFの斬撃は手負いとは思えないスピードとパワーを兼ね備え、スズヤのツクヨミは激しい連続攻撃を切り払っていくだけで精一杯だ。

「しまったッ!? カタナが折られるとは!」

そして、乱舞のような剣技を受け止めたところでついにツクヨミのカタナが折れてしまい、得物を失ったスズヤは一時後退。

ここに来て初めて高橋が優勢に立った。

「(固定式機関砲――いや、それは戦士としての誇りが許せないわね。奴と対等な条件で戦うと決めたからには、最後まで貫かなければ)」

撃墜数稼ぎのつもりで煽ったら予想以上に火事場の馬鹿力を見せつけられ、心の中で思わず素の口調に戻ってしまうほど焦るスズヤ。

残されている攻撃手段は互いに近距離戦用の武装だけだが、彼女のツクヨミは固定式機関砲を斉射できるだけの弾数を余らせている。

それを使えば牽制射撃で相手の動きを制限し、その間に斬りかかって仕留めることができるだろう。

しかし、タイマン勝負に搦め手を持ち込むのを彼女は望まなかった。

今繰り広げられているのは、「兵士」としての任務から逸脱した「戦士」の闘い――。

普段は冷静沈着に振舞っているとはいえ、スズヤの中にも妹(武闘派)と同じく戦士としての誇り高い血が流れていたのだ。


「貴様の修羅が乗り移ったかの如き気迫……見事だ。しかし、私にも皇族親衛隊としての忠義と意地がある! 主君が見ている前で負けることは許されないのだ!」

ここは主君たるアキヅキ姉妹が出陣している戦場。

彼女たちの前で皇族親衛隊が無様な姿を晒すなど、決してあってはならない。

「この戦いが大局には無関係だとしても、俺は先に逝った部下どものためにお前を討つ!」

残された力を全て振り絞り、機械化軍刀を正面に構えながら突撃を仕掛ける高橋の晴嵐22型甲。

「貴様が強者だというのならば、その剣で私に勝ってみせろ!」

後退している間に光刃刀を再び抜刀し、灰色のMFを迎え撃たんとするスズヤのツクヨミ。

互いの信念を懸けた決闘の結末は……。

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