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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-10】皇族親衛隊、前進!(前編)

「そういえばスズヤ、妹さんは元気にしているのかしら?」

日本艦隊との交戦が迫る中、オリヒメは皇族親衛隊隊長のスズヤへ「妹の近況」について尋ねる。

こういうところで話を切り出すのが良くも悪くもマイペースな彼女らしい。

「便りが無いのは良いことだと思いたいのですが……あのバカ、連絡の一つぐらい寄越せばいいのに」

スズヤが「バカ」と毒づいている妹は地球方面軍に所属しており、開戦以来一度も本国へ戻ること無くヨーロッパや北アメリカの戦地を転々としているという。

元々口数が多い人間ではないとはいえ、生存報告すらしてくれないせいで姉のスズヤや本国にいる両親は内心不安なのだ。

「貴様の妹とは度々行動を共にしていたが、私が本国へ戻る際は『自分のことは心配無いと姉に伝えてくれ』と言っていたぞ。たった一人の大切な妹なのだから、奴のことを信じてやれ。今頃はヨーロッパ戦線で戦っているはずだ」

しかし、その不安を和らげるようにユキヒメは「妹さん」の言葉を伝え、同時に彼女が今も地球上で戦っていることを教える。

おそらく、今頃はヨーロッパ戦線で歯応えの無い相手と戦い、欧州各国に進駐している味方の支援を行っていることだろう。


「勿体無いわね、あの娘は皇族親衛隊でやっていけるだけの実力を持っているのに」

スズヤの妹の能力についてはオリヒメも高く評価しており、彼女と会う度に皇族親衛隊への転属を勧めていたほどだ。

専用にチューニングされたサキモリを与えられ、安全な内地で実績を積むことができる親衛隊は、入隊条件の厳しさを考慮してもエイシにとっては理想の職場である。

にもかかわらず、彼女は姉が隊長を務める親衛隊への転属を拒み続け、開戦後は出世街道から程遠い最前線――泥臭い地球へと向かってしまった。

「だからアイツは……スズランはバカなんですよ。親の七光りと言われたくないがために、周りの人たちの心配を無視して功を焦っているんです」

そんな彼女の名はヨミヅキ・スズラン。

皇族親衛隊隊長ヨミヅキ・スズヤより7歳年下ながら同等以上の実力を持つとされる、地球方面軍が誇るルナサリアン有数の撃墜王だ。

そして何より、スズヤとスズランはアキヅキ家に忠誠を誓う名門ヨミヅキ家の令嬢姉妹でもあった。

「フッ、あの女と同じだな……」

軍事武門を司るユキヒメにとっては今更感のある話だが、ふとあの女――セシル・アリアンロッドのことを思い出した彼女は自嘲気味に笑う。

地球に潜伏している同胞が入手した資料によると、よく(しのぎ)を削っていたセシルもオリエント連邦有数の貴族令嬢であり、実家の恩恵に(あずか)りたくないという反抗心から職業軍人になったらしい。

スズラン、セシル、そしてユキヒメ――。

この3人は歴史ある裕福な家に生まれ育ちながら、それを揶揄されることが嫌で軍人を志したという意外な共通点を持っていた。


「うん? 何か言った?」

「いや、何でもない。それよりも敵艦隊が――待て、巡洋艦からモビルフォーミュラ部隊が上がってきたぞ」

独り言に気付いたオリヒメからの言及を適当にかわし、攻撃目標である日本艦隊を目視確認できそうなことを伝えるユキヒメ。

だが、それよりも先に敵艦隊の巡洋艦が発艦させたMF部隊と接敵してしまい、彼女はこの戦力と交戦すべきか否かの判断を強いられる。

「機数は16、東アジア戦線で使われている機体だな。単独での性能はオリエント連邦の機体ほどではないが、雑兵とはいえ纏わり付かれたら厄介だ」

ユキヒメは軍事武門のトップとして地球製兵器のデータには全て目を通しており、自身があまり赴かない東アジア戦線の戦力――主に日本軍の兵器にも精通していた。

日本軍の主力MFである「M-3 117式MF『晴嵐22型甲』」は確かに凡庸な機体だが、容易く蹴散らせるほど弱いわけではない。

集団戦闘に引きずり込まれたら厄介なことになるだろう。

「こちらの機数は半分。単純計算では一人で2機を相手取らなければならないうえ、後詰めとして敵艦隊が控えている。しかも、私たちは対艦戦闘用の装備で身重ときた。真っ向勝負で消耗するのは避けるべきね」

また、オリヒメが指摘しているように彼女らは対艦戦闘用の重装備を選択しており、軽装備の迎撃機にドッグファイトを挑むのは愚策だと断言できる。

アキヅキ姉妹が取れる選択肢は二つ。

敵MF部隊を先に返り討ちにするか、本命の敵艦隊を可及的速やかに叩くか――だ。


「簡単な話だ。母艦を沈めてしまえば奴らは帰る場所を失い、そのまま宇宙の藻屑となる。あるいは地球人同士の殺し合いが得意なスターライガに任せればよい」

敵MF部隊との交戦は目の前に迫っている。

少なくともユキヒメは迷わなかった。

戦略的価値の高い敵艦を先に沈め、残されたMF部隊は適当に相手するなりスターライガと戦わせればいい。

「フフッ、作戦は決まりね」

最終的な決定権を持つオリヒメも妹の意見に同意し、再確認のために作戦内容をもう一度説明する。

「各機、敵モビルフォーミュラ部隊を強行突破し彼らの母艦へ肉薄。敵艦隊を全て撃沈した(のち)、余裕があれば残敵を殲滅する!」

「「「了解!」」」

主君から事実上の交戦許可が下りたことで親衛隊各機は火器管制システムのセーフティを解除。

スロットルペダルを踏み込み、親衛隊仕様のツクヨミを加速させながら敵MF部隊との交戦に備える。

月の民の精鋭たる皇族親衛隊の動きは整然としており、それだけで操縦技量の高さを窺い知ることができる。

「このまま敵編隊の中央を一気に抜けるぞ! 貴様ら親衛隊の技量ならば当たらんはずだ……怯むなよ!」

ユキヒメのツクヨミ指揮官仕様を先頭に8機のサキモリは速度を上げ、まるで特攻を仕掛けるかのような勢いで16機のMFの中へと突っ込んでいく。

「あいつら、強行突破するつもりか!?」

「撃ち方始めッ! 俺たちの後方には艦隊がいることを忘れるな!」

その意図に気付いたMF部隊長の高橋は一斉射撃を命じるが、月の精鋭たちの突撃を止めるには少し遅かったようだ。


「クソッ、速すぎる! 当てられん!」

「ぜ、全機散開ッ! 一網打尽にされるぞ!」

日本製MFの標準装備である108式MF用突撃銃改二の弾幕は何の役にも立たず、高橋は一網打尽にされることを恐れ散開を指示する。

彼が率いている部隊のドライバーはそれなりに経験を積んだ者が多く、幸いパニックに陥ること無く一人も撃墜されずに済んだ。

仮に新兵ばかりの部隊だったら一方的にやられていてもおかしくなかった。

「ヘッドオンで仕掛けてこなかった……奴ら、あくまでも艦隊を狙っているのか」

しかし、今のは「相手がターゲットを艦隊に絞り込んでいる」という幸運にも助けられた結果だ。

状況はむしろ悪化の一途を辿っている。

「全機、態勢を立て直せ! 羽黒を沈められる前に奴らを仕留める!」

「「「了解!」」」

冷静さを取り戻した高橋は回避行動中の僚機を全て集結させ、自分たちに背中を見せるカタチとなった敵部隊の迎撃を試みる。

「敵戦力は『マート』――正確にはツクヨミとかいう機体が8機。だが、これまで見たことが無いタイプだ」

「先頭の2機が指揮官仕様だと思われる。あれを墜とせば敵は総崩れになるかもしれない」

月の精鋭部隊――皇族親衛隊が運用しているのは、日本軍の主戦場である東アジア戦線でもお馴染みのツクヨミだ。

だが、一部の隊員は少なくとも東アジア戦線では見かけないバリエーションだと認識しており、隊長の高橋へ警戒するよう促す。

「新タイプの『マート』も気になるが、俺としてはスターライガの存在も不気味だ。奴らがこのまま静観しているとは考えられん……」

躊躇いの無い強行突破を図る8機のツクヨミも驚異的だが、それよりも高橋は目立った動きを見せないスターライガに不気味さを抱いていた。

果たして彼女たちはどのタイミングで動き出すのだろうか?

そして、その時のスターライガは敵なのか味方なのか……。


「ふむ……追従はしているが、こちらとの距離を詰めるほどの速度差は無いか。姉上、まずはどう出る――姉さん? また勝手に編隊を逸脱しているのか?」

機上電探で敵機との位置関係を把握し、ここから先の出方について姉と協議しようとするユキヒメ。

しかし、周囲を見渡してみてもオリヒメ率いる第1小隊の姿は見当たらない。

電探では存在を捉えているため、死角に入っているだけでどこかを飛んでいると思われるのだが。

「編隊は崩してないわよ? 僚機がついてきているもの」

妹からの質問にそう答えているオリヒメは、指揮下の第1小隊と共にユキヒメの頭上――彼女が首を振っても見ることができない死角を飛行していた。

歩調を合わせて戦う気はあまり無いらしい。

「そんな屁理屈、新兵だったら修正してやるところだぞ……はぁ、もう離れてしまったのなら仕方が無い。姉上の編隊は上、こちらは下から接近することで挟撃を仕掛ける。目標は敵艦隊の旗艦だ」

戦場でも自由奔放な姉の行動に呆れてタメ息を()きつつ、彼女に合わせるカタチでユキヒメは敵旗艦に対する挟み撃ちを提案する。

「地球の(ふね)は我々と同じく戦闘指揮所を艦橋の下に配置しているわ。私のツクヨミの武装ならば艦橋を貫き、戦闘指揮所を直接破壊できるはずよ」

地球の艦艇は水上艦のレイアウトを踏襲しているため、構造物の多い上面(甲板側)の方が防御力が低い傾向にある。

下面(底部)は対空兵器こそ装備されていないが、避弾経始に優れた形状と元々の装甲厚により攻撃を通すことが極めて難しい。

ならば、高火力によりダメージディーラーとなり得る自分が脆い部分を狙うべき――それがオリヒメの主張であった。


「姉上の機体の火力に期待しているぞ。よし、第2小隊は私に続け! 船底に風穴を開けてくれる!」

ユキヒメ率いる第2小隊は日本艦隊の下側へと回り込み、陽動として敵の気を惹きつける役目を担う。

サキモリの火力では全領域艦艇の底部に有効打を与えることは難しいため、彼女たちは断熱パネルを破壊できれば御の字と言える。

「第1小隊は敵艦直上から強襲を仕掛けるわよ! 艦橋は確実に潰しなさい!」

一方、本命であるオリヒメの第1小隊は上方から強襲を行い、対空砲火を掻い潜りながら艦橋と戦闘指揮所の破壊を狙う。

戦闘指揮所は現代の戦闘艦における中枢部であり、ここを無力化させれば敵艦の戦闘能力を一気に低下させることができるはずだ。

「光学防壁を展開してきたわね……だけど、もう遅いのよ!」

敵機襲来に気付いた日本艦隊の旗艦羽黒は光学防壁――地球側名称「プリズムフィールド」を展開するが、このバリアフィールドはレーザーを防げるだけで物体を弾くことはできない。

つまり、オリヒメたちは何の苦労も無くプリズムフィールドをすり抜けられるのである。

「こういう武器はあまり好きではないのだがな」

光の壁を抜けたユキヒメのツクヨミは回転式多銃身機関砲――所謂ガトリング砲を正面に構え、羽黒の底部に狙いを定める。

根っからの武人である彼女は射撃武器は好みではないが、カタナで敵艦の硬い船体を斬りつけるわけにはいかなかった。

「敵艦射程内! 射撃開始!」

ガトリング砲が敵艦を捉えたところでユキヒメは操縦桿のトリガーを引き、誘導弾発射機(ミサイルランチャー)を装備した僚機と共に一斉射撃を開始する。

「下の方に気を取られちゃって……バカめと言って差し上げるわ!」

そして、それを見計らったかのようにオリヒメのツクヨミも長銃身大型光線銃を構え、スズヤ以下3機の僚機を引き連れながら羽黒へと襲いかかるのだった。

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