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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-19】オペレーション・モビーディック(後編)

「敵戦力はモビルフォーミュラが6機か……それだけの少人数でナキサワメに挑む勇気は認めざるを得ないな」

自分たちよりも巨大な超兵器に立ち向かう地球人の勇敢さを見たカンナヅキは素直に感嘆している。

「その勇気に敬意を表し、我が艦の全力を以って相手しよう。航空官、無人機を射出しろ!」

航空官というのはルナサリアンの軍事武門独自の役職であり、主に無人航空機の運用を担当する。

人的資源が若干乏しいルナサリアンは地球侵攻作戦以前から無人兵器の研究に注力していたが、軍事武門のトップに立つユキヒメが「人間同士の闘いに機械が入る余地は無い」と考えているため、実戦投入はあまり進んでいないのだ。

「了解です、艦長! 我々月の民の技術力を連中に見せつけてやりますよ!」

出番を今か今かと待ち侘びていた航空官は力強い返事と共にカンナヅキへ向かって頷き、手元のコンソールパネルを操作し始めるのだった。


 その頃、ナキサワメの上空ではゲイル隊とブフェーラ隊が執拗な反復攻撃を行っていた。

オーディールが装備しているG-BOOSTERはマイクロミサイルパックも兼ねており、6機合わせて100発近いマイクロミサイルを既に撃ち込んでいる。

だが、船体表面に無数の傷痕を付けながらも「鉄の鯨」はまだまだ沈みそうにない。

「いやはや、予想通りとはいえここまでタフな奴だとは驚くね!」

マイクロミサイルを撃ち尽くしてしまったリリスは武装をレーザーライフルへ切り替え、低空飛行しながら敵潜水艦のブリッジ部分に狙いを定める。

真っ暗な水面スレスレを飛ぶのはそれなりに技量と勇気を要するが、両方を兼ね備えるリリスにとっては造作も無いことだ。

対地接近警報装置の警告音が鳴り響く中、彼女は照準に集中していた。

「ブフェーラ1、ファイア!」

有効射程に入ったらすぐさま操縦桿のトリガーを引き、素早く高度を上げ敵潜水艦から離れる。

相手が対空兵器を持っているかは知らないが、手痛い反撃を食らわないためには攻撃に固執しないのがコツだ。

「弾かれた!? 元々の装甲が厚いのか、あの潜水艦は!」

ナキサワメのブリッジへ直撃させたはずのレーザーが容易く弾かれてしまい、その様子を二度見してしまうリリス。

「それもあるかもしれんが、表面に付いた水分で威力が減衰したように見える」

一方、命中率が安定する急降下攻撃を行っていたセシルは冷静に状況を分析している。

「……隊長、『ノーティラス』から飛翔体が射出されている! 何だあれは?」

その時、ナキサワメへ攻撃を仕掛けていたアヤネルから通信が入る。

彼女の言う「飛翔体」は真上に向かって射出されると折り畳まれていた主翼を展開し、リリスのオーディールへ襲い掛かるのだった。


「潜水艦に搭載可能なサイズの無人戦闘機……! ルナサリアンめ、そんなモノまで実戦投入しているとは!」

潜水艦から無人戦闘機が出てくるなどと想定していなかったリリスの初動はわずかに遅れた。

G-BOOSTERを装備しているオーディールは運動性が無視できないレベルまで低下しており、いくら彼女といえど斜め後ろから被られたら捕捉されてしまう。

「油断した! 後ろに付かれた!」

もちろん、そこはエースドライバーらしくあらゆるマニューバを駆使して「逃げ」を試みる。

「隊長、フォローに入りますわ!」

「素早いな……! 気を付けろ!」

ローゼルとアーダも加勢に入るが、彼女らの技量では凶悪な運動性を誇る無人戦闘機に追い縋るのが精一杯だ。

「ブフェーラ2、3、敵潜水艦への攻撃を優先しろ!」

ところが、その仲間想いの行動に対し厳しい口調で釘を刺すセシル。

「隊長、あの娘たちはリリス大尉を援護しようとしているんですよ!」

スレイがそう反発する気持ちも、ましてやローゼルたちの隊長を助けたいという思いも十分理解している。

だが、職業軍人たるもの最重要視すべきなのは「与えられた作戦の完遂」である。

そのためには時として非情な判断も下さなければならない。

……何より、セシルはリリスの技量を信頼しているのだ。

これぐらいの窮地なら自力で切り抜けてくれる――彼女は確信を抱いていた。


「お前の腕なら自力で振り切れるだろ、リリス!」

戦友の様子を見かねたのか、セシルはナキサワメへの攻撃に集中しながら発破を掛ける。

「相手の行動パターンが何となく読めてきた――うわっ!? パルスレーザーが掠めた!」

コックピット付近を掠める攻撃に思わず叫ぶリリス。

とはいえ、未知の無人戦闘機との戦いに慣れてきたのか、彼女は失速を利用した高難易度マニューバでオーバーシュートを誘うことに成功する。

オーディールに限らずMFという乗り物はスラスターのおかげで失速に極めて強く、文字通り「ハエが止まる」ような低速域での姿勢制御を可能としている。

そもそも、「失速という危険な状態を避ける」プログラミングを持つ無人戦闘機に柔軟な対応を求めるのは酷というものだろう。

「もらったッ!」

背後を取ったリリスのオーディールが正確な射撃で敵機を撃ち落としていく。

使い捨てを想定しているのか無人戦闘機はかなり装甲が薄いらしく、レーザーライフルを直撃させれば容易く撃墜することができた。

「ブフェーラ3から1へ、無人戦闘機の更なる射出を確認!」

撃墜確認を行っていたリリスの耳にアーダからの増援報告が入ってくる。

先程と同じように真上へ射出された無人戦闘機は主翼を展開し、やはりというべきかリリスのオーディールへ狙いを定めていた。

「また私か!? 早く『ノーティラス』を沈めてくれ! このままじゃ埒が明かない!」

さすがの彼女もこの状況には悪態を吐き、敵機の母艦たるナキサワメの早期撃沈をゲイル隊へ求め始める。

「分かっている! ブフェーラ隊は無人戦闘機を引き付けろ! ……ローゼル、アーダ、頼めるよな?」

いつもの調子で指示を出すセシルであるが、最後の一言には年下の後輩たちに対する期待が込められていた。

少し前までコックピットの中で不貞腐(ふてくさ)れていたローゼルの表情が明るくなる。

「……了解! ブフェーラ2、全力を以って役割を果たしますわ!」

そして、ナキサワメへの攻撃を行っていたアーダもターゲットを無人戦闘機に切り替える。

「こちらブフェーラ3、了解! あなたたちは大物の相手に勤しんでくれ!」

編隊を組み直すブフェーラ隊を見守りつつ、セシルは自分の部下2人へ命令を下すのだった。

「ゲイル各機、一気に畳み掛けるぞッ!」


 G-BOOSTER装備状態で使用可能な全武装による一斉攻撃を叩き込むゲイル隊。

「リリス大尉の言う通り、なんてタフな潜水艦なんだ! あと何発撃ち込めばいい!?」

ナキサワメのしぶとさに驚きを隠せないアヤネル。

「奴がくたばるまで撃ち込むんだ! 攻撃の手を緩めるな!」

それに対しセシルは徹底的な攻撃を指示する。

「……ロックオンされている!?」

何者かが自機を狙っていることに気付いたスレイは周囲を見渡すが、ブフェーラ隊と戯れる無人戦闘機以外の敵はいない。

だが、後方を確認する彼女の目に映ったのは――水面下から飛び出してくる対空ミサイルの姿。

「対空ミサイル! 避け切れるか!?」

「大丈夫、角度があるからかわせるわ!」

アヤネルの心配をよそにスレイのオーディールMは綺麗な回避運動でミサイルの追尾を振り切り、機体を反転させながら最後のマイクロミサイルを発射した。

「潜水艦搭載型対空ミサイルとはな……地球人の価値観では珍しい武装だ」

地球側の現役潜水艦ではあまり見られない武装であるためか、普段は冷静沈着なセシルも意外そうな表情を浮かべている。

「さっきのミサイル、敵艦の前方から飛んで来ていた。艦首に魚雷発射管を持つ構造の潜水艦だと思う」

隊長には及ばないがアヤネルも優れた観察眼を持つドライバーであり、ミサイルが飛び出した位置とナキサワメの進行方向から敵の特徴を割り出してみせた。

「……ならば、炸裂弾頭ミサイルを搭載している箇所も分かる!」

「船体前方のVLSだな、アヤネル! そこを潰せば切り札を封じられるかもしれない!」

アヤネルとセシルの見解が一致した矢先だった。

ナキサワメの船体前方に配置されたVLSのカバーが開き、彼女たちの知らない大型ミサイルが夜空へ向かって射出されたのである。


 一目見ただけでも弾道ミサイルと分かる「それ」はロケットエンジンの大推力を活かして瞬く間に高度を上げていく。

「炸裂弾頭ミサイル……! 加速し切る前に撃ち落とす!」

謎の大型ミサイルの正体は地球人類を苦しめてきた「炸裂弾頭ミサイル」であると判断し、セシルはフルスロットルで目標の迎撃に挑む。

「隊長、炸裂弾頭ミサイルの更なる発射を確認! これじゃあ迎撃が間に合いませんよ!?」

そう言いながらも発射直後のミサイル2発へ攻撃を仕掛けるスレイだったが、彼女の機体から放たれたレーザーは容易く弾かれてしまう。

「嘘、弾かれた!?」

一連の出来事に思わず目を疑うスレイ。

普通に考えれば使い捨てのミサイル如きに防御力を持たせる必要性は薄いため、「攻撃を耐えるミサイル」という存在自体が地球人には理解し難いのだ。

驚いている間にも炸裂弾頭ミサイルはどんどん上昇していき、MFでは追い掛けられない速度及び高度へ到達しつつある。

「クソッ、振り切られた!」

最初の1発を取り逃がしてしまったセシルはスレイの撃ち漏らしの処理に切り替えるが、案の定レーザーを弾かれ撃墜には至らない。

結局、ゲイル隊は炸裂弾頭ミサイルの発射を見す見す許してしまったのだ。


「悔しいけど……出来の良いミサイルだな」

無人戦闘機とドックファイトを繰り広げながらミサイルが飛び去った跡を見やるリリス。

方角はおそらく北東――オリエント国防海軍第8艦隊とルナサリアン艦隊が夜戦を繰り広げているであろうデービス海峡方面だ。

「マズいぞ、もたもたしていたら帰る場所が海の底になるかもしれん」

もう一度おさらいするが、炸裂弾頭ミサイルの有効範囲は「高度約10500ft以下の広範囲(地上に対する被害はバラつき有り)」である。

一般的に海面スレスレを航行するうえ、上昇力も低い全領域艦艇が回避運動だけで炸裂弾頭ミサイルの攻撃範囲外へ逃れられる可能性は高いとはいえない。

運が悪ければ甲板上に大量の「鉄の雨」が降り注ぎ、装甲が薄い駆逐艦や飛行甲板を持つ航空母艦は甚大な損害を(こうむ)るだろう。

「ブフェーラ1からゲイル1へ、炸裂弾頭ミサイルの発射を食い止めるためには母艦を沈めたほうが早い!」

ナキサワメが何発のミサイルを搭載しているかは分からないが、発射された物をいちいち迎撃していては先にリリスたちのほうが息切れすると思われる。

集中攻撃による目標の早期撃沈――。

これこそが状況を打開する唯一無二の方法であるとリリスは考えていた。

「こちらゲイル1、お前もそう思うか」

やはり、同じレベルのエースドライバーであるセシルも考えていることは一緒らしい。

「ブフェーラ隊、無人戦闘機の相手はもうしなくていい! お前たちと我が隊の最大火力を以って『ノーティラス』との決着を付けるぞ!」

2つのMF部隊が消費したであろう弾薬とエネルギーの量を考慮した結果、もはや一発も無駄撃ちをする余裕は無いと判断。

火力を集中させるべくセシルは自分の部下2人とブフェーラ隊の3機を全員集結させ、正面の敵に対して一斉攻撃が可能なフォーメーションを整える。

「全機、私の合図で攻撃を行え。一発も外すなよ……今だッ! ファイアッ!」

彼女の気迫が込められた号令と同時に6機のオーディールから蒼い光線とマイクロミサイルが放たれ、濃密な弾幕がナキサワメの右舷の外殻を捲り上がらせるのだった。


 その頃、暗闇に包まれたデービス海峡では「鉄の雨」が降り注ぐ中、第17高機動水雷戦隊とルナサリアン巡航艦隊が死闘を繰り広げていた。

「また炸裂弾頭ミサイルが……! セシルたちは大丈夫なのかしら……?」

メルトの卓越した指揮能力もあってアドミラル・エイトケンは軽微な損傷で済んでいたが、甲板や構造物にはこれまでにないほど傷痕が付けられている。

大半は「鉄の雨」の中を強引に潜り抜けたことによる掠り傷だ。

ここを突破されたら後は北アメリカにおける一大拠点のチューレが控えているためか、ルナサリアンの抵抗はアゾレス諸島沖夜戦の時とは比べ物にならないほど激しい。

何より、「敵を一人でも多く倒すため超兵器を同胞の頭上へ発射する」という行為にアドミラル・エイトケンの乗組員たちは恐怖さえ抱いていた。

「だからこそです、艦長。彼女たちの所へ敵増援が向かわないよう時間稼ぎをしなければならない」

オペレーターたちから渡されたデータへ目を通しながら冷静に振舞うシギノ。

「……そうね、あちらは気付いていないかもしれないけど、デービス海峡の艦隊はあくまでも陽動。私たちの本当の作戦目標は……!」

自分のことを信頼してくれる部下たちに不安げな表情は見せたくない――。

CICのメインスクリーンに映るレーダー画面から視線を外し、メルトは副長へ微笑み返すのであった。

VLS

「垂直発射システム」の略称。

現実世界でもイージス艦などに搭載されていることで知られている。

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