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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第3部 BELIEVING THE FUTURE

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【BTF-6】予定通りの接触、予想外の再会

Date:2132/07/01

Time:15:00(STC)

Location:outer space

Operation Name:MALTA

 公海宙域――。

地球周辺において特定の国家の影響を受けていない、中立性の高い宙域。

本来は宇宙条約において宇宙空間の領有は禁止されているのだが、オリエント連邦によるスペースコロニー建造を筆頭にこの条約はもはや形骸化していた。

オリエント連邦が管理する宙域での接触は様々な問題が起きかねないため、スターライガは待ち合わせ場所として地球側の監視の目が届かない宙域を指定したのだ。

「艦長、前方に所属不明艦――おそらくはルナサリアンの艦艇を視認しました」

操舵輪を握り締めている操舵士のラウラは3隻の所属不明艦――正規空母と巡洋艦2隻で構成されるルナサリアン艦隊を目視確認し、それを艦長席に座るミッコへと報告する。

「アレは空母かいな? この距離であのサイズ感ということは……全長400mぐらいのバケモンかもしれへんで?」

戦闘中以外は仕事が少ない火器管制官のアルフェッタはラウラの席へ歩み寄り、ブリッジから見える全長400m級の「ギガキャリアー」の威容に率直な感想を述べる。

「ヤクサイカヅチ――ルナサリアンの指導者アキヅキ・オリヒメが座乗する、ルナサリアン艦隊の総旗艦よ」

「座乗艦……」

艦長という立場上相手の艦隊について把握しているミッコは冷静さを保っている一方、前情報をほとんど聞かされていないキョウカは「座乗艦」という時代錯誤な存在の出現に明らかに動揺していた。


「……あ、前方の航空母艦から発光信号です! 解読します!」

しかし、いつまでも動揺しているわけにはいかない。

自分たちの方に向かって接近してくるヤクサイカヅチのサーチライトが一定の規則で点滅していることを確認すると、それが発光信号だと気付いたキョウカはすぐさま解読を試みる。

「ええっと……『コチラ"ヤクサイカヅチ"、貴艦ヲ心ヨリ歓迎スル』――とのことです」

ルナサリアンがなぜオリエント語のモールス符号を扱えるのかは謎だが、母国語で意思疎通が可能な相手だと分かれば幾分か気が楽になる。

「キョウカ、こちらからも発光信号を送信して。内容は『コチラ"スカーレット・ワルキューレ"、話シ合イガ有益ナモノトナル事ヲ望ム』」

キョウカに相手と同じやり方で返信するよう指示を出すと、ミッコは艦内放送のスイッチを入れながら全乗組員に対しルナサリアン艦隊との接触を通達する。

「全砲塔及び銃座は仰角最大! これより航空母艦ヤクサイカヅチの左側に接舷し、接触を試みる! MF部隊全機は有事に備え警戒態勢で待機せよ!」

十数分前までの和やかな雰囲気が嘘かのように気持ちを切り替え、それぞれの配置に就いて自分の仕事に備えるブリッジクルーたち。

「(外のことは私たちが見張っておくから、ルナサリアンのトップとの会談は任せたわよ。良い報告を期待しているからね)」

直接会談に臨む者たちの帰る場所を守るため、周囲の状況に目を光らせること――。

それがミッコ以下スカーレット・ワルキューレの乗組員たちの役目であった。


 スカーレット・ワルキューレとヤクサイカヅチは接触寸前の至近距離で接舷しているため、移乗の際は艦載艇ではなく仮設式タラップで直接乗り移ることができる。

1人分の幅しかないタラップを通っていくと、その先には立派な軍服を身に纏った女性士官が待っていた。

「ヤクサイカヅチへようこそ。私が本艦の艦長を務めているカミアリヅキであります」

栗毛のウサ耳が特徴的なヤクサイカヅチの艦長――カミアリヅキ・サトノは軍人の礼儀として軍帽を脱ぎながら一礼し、スターライガ側の代表者であるレガリアと握手を交わす。

「スターライガの代表兼最高責任者のレガリア・シャルラハロートです。本日はよろしくお願いいたします」

一方、レディーススーツを着てきたレガリアは帽子を被っていないため、ルナサリアン式のお辞儀を以ってそれに応える。

彼女は今日という日のために限られた資料をかき集め、相手方の礼儀作法についてしっかりと研究していたのだ。

「いえ、こちらこそ……これよりオリヒメ様とユキヒメ様がおられる謁見室へ案内いたしますので、私の後に付いてきてください」

平時は艦の最高責任者であるサトノの先導の下、左舷側に配置されているブリッジから艦内へと案内されるレガリアたち。

「(文化が違えど親衛隊はおっかないわね……あまり刺激しないよう気を付けないと)」

重要区画へ繋がる通路を塞いでいる親衛隊員と思わしき兵士たちの表情は、とてもじゃないが「来賓」を歓迎しているようには見えなかった。


 全長396mという巨体を誇るヤクサイカヅチの広い艦内を歩くこと数分後、スターライガの面々を先導していたサトノは豪華な装飾が施された扉の前で立ち止まる。

その近くには折り畳み式のテーブルと籠が置かれ、探知機らしき物を持った乗組員たちが待ち構えていた。

「シャルラハロート氏とダーステイ氏が使者、残る2名が護衛役ですね?」

「ええ、その通りです」

「謁見室への入室前に金属探知機で検査を行いますので、反応しそうな物品を所持している人は先に提出してください」

レガリアに対して人数確認を行いつつ、金属探知機に反応する可能性が高い物品――具体的には銃器や刃物を持ち込まないよう遠回しに警告するサトノ。

ここで変に反発したら問題を招く恐れがあるため、レガリアたちは素直に護身用のハンドガン4丁と全ての予備弾倉を提出し相手方へと預ける。

「武器はこれで全部ですか?」

サトノの問い掛けに頷くスターライガの面々。

確かに、金属探知機に間違い無く引っ掛かるであろうハンドガンは全て提出した。

……そう、「金属部品が使われているハンドガン」はここでは使えない。

「ご協力ありがとうございました」

殺傷能力を持つ物品が回収されたことを乗組員と共に確認し終えると、サトノはようやく謁見室の扉を3回ノックして入室許可を求める。

「オリヒメ様、スターライガの使者とその護衛役の計4名をお連れいたしました。会談の準備はお済みでしょうか?」

「入りなさい」

扉の向こう側から返ってきたのはオリヒメと思わしき人物の落ち着いた声。

「ハッ、それでは失礼いたします――どうぞ」

入室許可を得られたサトノは開いた扉を押さえ、スターライガの面々を部屋に入れると自らは一礼してそのまま退室する。

そこには軍艦内であることを忘れてしまうほど豪華絢爛な空間が広がっていた。


 理由は不明だがルナサリアンは地球の東アジアやオリエント連邦東部に近い文化を有している。

謁見室の内装も「西洋風の城」というよりは「東洋風の宮殿」に例えるほうが明らかに適切である。

「……!?(お、オウカ!? なぜあの子がここに……?)」

しかし、レガリアたちの護衛として付いてきたレンカは、そんなことよりも自らと同じ空色の髪と深紅の瞳を持つ女性――ホシヅキ・オウカの姿に少なからずショックを受ける。

あの優しかった妹がアキヅキ家に仕えていることなど全く想像していなかったからだ。

「……!(姉さん!? まさか、本当にスターライガに所属していたなんて……)」

一方のオウカも「25年前に消息を絶った」とされていた姉が生きており、しかも敵であるスターライガに身を置いているという噂――それが事実であったことを簡単には受け入れられない。

「ようこそ、我が月の民の総旗艦『ヤクサイカヅチ』へ。客人をいつまでも立たせておくわけにはいきませんから、靴を脱いで上床(うわとこ)に上がってくださいな」

ホシヅキ姉妹の衝撃的な再会を知ってか知らずか、オリヒメはスターライガの面々に対し腰を下ろすよう勧める。

ルナサリアンには二つの床の概念が存在し、土足で歩いても良い部分を「下床(しもとこ)」、土足厳禁とされる部分を「上床(うわとこ)」として明確に区別する習慣を持っている。

謁見室の場合は出入り口の土間だけが下床であり、それ以外の空間は全て上床とされていた。


 ルナサリアンの流儀に倣い地球で言う「正座」で座ろうとするレガリアとライガだったが、彼女らオリエント人の文化には本来存在しない座法であるためか、特にライガは足の置き方に悪戦苦闘していた。

「あ、無理に我々と同じ座り方をする必要はありませんわ。貴女たちが楽だと思う座り方で構いませんよ」

それを見かねたオリヒメは自分たちの流儀に合わせさせることはせず、相手方が負担の掛からない姿勢で座れるよう配慮を示す。

「ご配慮ありがとうございます」

その配慮を受けたレガリアとライガは失礼の無い範囲で足を崩して座る一方、護衛として控えるレンカとフランシスは直立姿勢でその場から動かない。

「あら? 後ろのお二人は立ったままでよろしいのかしら?」

「彼女たちは私とダーステイの護衛を務める者です。それに、貴女も妹様以外の者たちを立たせているではありませんか」

遠回しに彼女たちにも腰を下ろすよう促すオリヒメに対し、レガリアは毅然とした態度で「そちらも自分たちと同じことをやっている」と答える。

「フフッ、彼女らは特別な訓練を受けているので問題ありません」

護衛役の一挙一動すら駆け引きのカードとしていることを認めると、オリヒメは会談開始を前に改めて自己紹介を始めるのであった。

「では……改めて自己紹介を。(わたくし)はアキヅキ・オリヒメ、あなた方が『ルナサリアン』と呼ぶ月の民を統治している者ですわ」


 自己紹介を終えたオリヒメは隣に座っている妹のことも続けて紹介する。

「そして、これがアキヅキ・ユキヒメ。(わたくし)の妹で軍事面を司らせております。地球的に例えるならば国防長官兼最高司令官と言ったところでしょうか」

「私がアキヅキ・ユキヒメです。あなた方の勇名は地球側の資料で大変よく存じております。本当は戦士として剣を交えてみたかったものですが、本日は官吏(かんり)として会談へ参加させていただくことになりました」

普段とは少し異なる丁寧な口調で自己紹介を行い、立場上は敵であるレガリア及びライガと握手を交わすユキヒメ。

「スターライガの代表兼最高責任者を務めているレガリア・シャルラハロートです。お二人とお会いするのはスウェーデンでの一件以来ですね」

レガリアたちとアキヅキ姉妹は今回が初対面というわけではなく、スターライガ側にはエレブルー首脳会談での騒動の際に姉妹を専用機が待機する空港まで送り届けたという「貸し」があった。

「そして、隣にいるこの者は――」

「ライガ・ダーステイ――いえ、正しくはライガ・シルバーストンといったかしら?」

再確認の意味も込めてレガリアがライガの紹介をしようとした時、オリヒメは彼のフルネーム――あまり知られていない戸籍上の本名を出すことでその言葉を遮る。

「……!」

突然の暴露にライガは思わず息を呑み、レガリアはそれを横目で見ながら険しい表情を浮かべる。

オリヒメの「余計な」一言で会談の緊張感が増したのは明白であった。


「お言葉ですがオリヒメさん、その情報はどのような経路で入手されたのですか? 我々スターライガメンバーの個人情報は最重要機密として保護されているはずですが……」

本来であれば漏洩が望ましくない――ましてや敵対勢力に知られるなど決してあってはならない情報をなぜか掴んでいるオリヒメの言動を受け、彼女の表情を窺いながら情報漏洩の原因を探り出そうとするレガリア。

「質問に質問で返すようで悪いけど、ライラック・ラヴェンツァリという人を知っていて?」

その質問に対してオリヒメは弁明するどころか、逆に自身が客将として重用している人物の名前を出すことで暗に答えを示す。

「……ええ、よく知っていますとも」

「これでやっとウラが取れたな」

レガリアとライガは互いに顔を見合わせ、これまで抱いてきた疑念が間違っていなかったことを確信する。

やはり、30年前に取り逃がしたライラック・ラヴェンツァリはルナサリアンと協力関係にあったのだ。

【座乗艦】

オリエント語では王族が乗り物に乗る場合に限り「座乗」と表現する。

オリエント圏の君主制国家である聖ノルキア王国やメルンハイム公国では日常的に使われる言葉だが、それ以外の国ではあまり使用されない。

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