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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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インタールードⅡ

 スカーレット・ワルキューレに帰艦したライガはクローネのスパイラルC型から飛び降り、自分の足で医務室に向かおうとする。

「ライガさん! 大丈夫ですか!?」

「その怪我……医務室からテア先生を呼んできましょうか?」

彼の怪我は自力で歩ける程度の傷なのだが、思わずビビるほどの流血を見かねたメカニックたちに取り囲まれてしまう。

「「ライガ!」」

そして、その集団の外側には一足先に帰艦していたラヴェンツァリ姉妹の姿があった。

「ライガ! 右腕の怪我……何があったの!?」

幼馴染の赤黒く染まった右腕を目の当たりにし、堪らず駆け寄ろうとするリリー。

「固定式機関砲の弾が掠っただけだ。肉が少し抉り取られた気がするけど、命に関わるほどじゃない」

しかし、彼女が伸ばした右手を傷一つ無い左腕で掴むと、逆にライガはリリーの無茶を強い口調で叱責し始める。

「それよりも、だ! 俺が止めようとしたのに勝手に飛び出した挙句、ライラック博士に撃墜されそうになりやがって! お前と俺の仲とはいえ、命令違反の過失は重いぞ!」

「……ごめんなさい」

自らが犯した問題行動の大きさを悟り、生意気な面があるリリーも今回は開き直ること無く謝罪する。

項垂(うなだ)れた姿から彼女の表情を窺い知ることはできないが、今にも泣き出しそうな顔をしているに違いない。

「なあ……君がライラック博士を恨む気持ちは――って、おい! どこに行くんだ!?」

その様子を見かねたライガがフォローを入れようとした時、リリーは逃げるように格納庫から走り去るのであった。


 一方その頃、作戦成功を確信し先に本国へと帰還していたアキヅキ・オリヒメは、期待通りの朗報を執務室で聞くこととなった。

「オリヒメ様、星落とし実行部隊の電文を読み上げます。『我、甚大ナル損害ヲ被リツツモ、天空ノ星ノ都ガ墜チルノヲ見タリ』――とのことです」

執務室へ日常的に立ち入りできる数少ない側近であるホシヅキ・オウカからの報告を受け、心の中では笑いが止まらないオリヒメ。

「……あまり気分が乗らないみたいね」

それを悟られないよう平静を装いつつ、彼女は目を通していた資料を机の上に置きながらこう尋ねる。

「ええ、率直に申し上げて……やり過ぎだと思います。スペースコロニーを地球上へ落下させる必要性など……!」

上司からの質問に対しハッキリと不満を述べるオウカ。

使用するコロニーの制圧、軌道制御室の設置、推進装置の取り付け――そして、それらに携わる人材及び物資の確保。

通常の軍事作戦とは比べ物にならない労力を強いられるのはもちろん、「星落とし」により生じる被害があまりに大きすぎることを彼女は懸念していたのだ。

「オウカ、戦争にやり過ぎというモノは存在しないのよ。やるからには徹底的に殺る――後の世へ遺恨を残さないためにもね」

側近の発言に一定の理解を示しつつも、オリヒメは自らの持論を改めて説明する。

これがオウカを重用する理由の一つであった。

長年仕えている側近たちが「粛清」を恐れて強く出ようとしない中、オウカだけは「一人の若者」としてより客観的な意見を述べてくれるからだ。

身内のユキヒメや同志であるライラックはともかく、彼女らよりも若年ながら堂々と発言ができる度胸をオリヒメは高く評価していた。


「しかし……我々月の民の最終目的は『地球への移民』のはずです。地形を一変させるほどの戦略兵器を使用していては、蒼い惑星(ほし)に人が住めなくなってしまいます」

月の民が戦争をしている理由をちゃんと分かっているのね――。

数か月前の演説を覚えているオウカの記憶力、そして戦争目的を見失っていない聡明さにオリヒメはますます感心を抱く。

「地球環境へ及ぼす悪影響は既に予測済みよ。大気圏突入時の軌道と速度を調整すれば、攻撃目標へ確実に誘導しつつ環境破壊を最小限に抑えられるわ」

だが、「星落とし」及び地球への侵略行為は全て「アマノハコブネ作戦」に則ったものだ。

無秩序な破壊活動で美しき蒼い惑星をダメにするつもりは無い。

むしろ、宇宙規模で見れば地球は希少価値の高い惑星であり、積極的に保全すべきだとオリヒメは考えていた。

少し前に意見の食い違いを巡り超長距離通信で怒鳴り込んできたユキヒメも、その想い自体は同じだろう。

そして、「星落とし」を立案したライラックも本心では地球滅亡など望んでいないはずだ。

「それに、我々の科学技術を以ってすれば失われた自然環境を取り戻すことなど造作も無い」

「……」

もうそろそろ「あの話」をするべきか――。

オウカが「星落とし」へ否定的な反応を示す理由に察しが付き、オリヒメは限られた者しか知らない「真実」を伝えることを決断した。

「地球に……いえ、スターライガにいるお姉さんのことが心配なのかしら?」

「え……!? レンカ姉さんが……生きているの?」

死んだと思っていた姉の存在に触れられ、驚愕の表情で上司を見つめるオウカ。

25年前、地球への潜入調査中に消息を絶った姉が、最も警戒すべき敵対勢力に所属している――。

その事実を知らされた彼女は大きなショックを受け、しばらくの間動揺を隠せなかった。


「(意外と派手にやられたわね……まあ、コックピットブロックが損傷するほどの攻撃を受けてこの程度の怪我ならば、とても幸運だったと言い切れるか)」

浴室にある洗面台の前に立ち、鏡で自らの姿を確認するライラック。

左腕と左脚には白い包帯が巻かれ、小さな傷を負った所には絆創膏が貼られている。

自身の戦艦「ネバーランド」に戻った彼女は簡単な手当てを受け、今日はもう休むつもりでいた。

ライラックも一応人間である以上、怪我を治すには安静にしていることが一番手っ取り早いからだ。

「(あの二人の『覚醒』は着実に近付いている。後は時間の問題だろうけど、もう一回ぐらいちょっかいを掛けて刺激したほうが良いかもしれない)」

今後の計画について思案しながら可愛らしいパジャマに着替え、彼女はそのままベッドへと転がり込む。

月に帰港したらオリヒメと話し合いを行うつもりだが、そこから先の予定はまだ決まっていない。

おそらくは第二次地球降下作戦の手伝いをさせられるものだと思われるが、戦況を覆すための軍事研究を依頼される可能性も考えられる。

「(私やルナサリアンを止めたければ、早く目覚めなさい。時間はそう長くは残されていないのよ)」

月の民の客将でありながらライガやリリーの「覚醒」を望む、ライラックが誰にも明かしていない真意とは一体……?


 格納庫から逃げてきたリリーは部屋に戻るや否やベッドの端に座り込み、まるで時が止まったかのように動かなくなる。

普段はわりとポジティブシンキングな彼女だが、母親のことが絡むと途端に神経質になってしまう。

しかも、今回は幼馴染のライガを巻き込んだ結果、彼自身に怪我を負わせただけなく機体まで大破させてしまったのだ。

後悔と罪悪感を一人で抱え込んでいるリリーは完全に落ち込み、心の中で自分自身の不甲斐なさを責め続けていた。

「……?」

何をするでもなく俯いていたその時、彼女の私物である携帯電話が短い着信音を鳴らす。

画面には「お前が好きな物を生活部に作ってもらったから、飯はちゃんと食べるように」というショートメッセージが表示されている。

「……」

メッセージの内容と送信者名を確認したリリーは携帯電話をベッドの上に置くと、先ほどと同じように再び俯いてしまう。

「(彼に散々迷惑を掛けた挙句、気まで遣わせるなんて……これじゃあ私はただ足を引っ張っているだけじゃない……!)」

子どもの頃から変わらないライガの優しさが心に染みたのか、自分自身の情けなさに激怒し握り拳を震わせるリリー。

彼女がここまで悔しさを露わにするのは滅多に無いことであった。


「(もっともっと強くならないとダメなんだ……! ライガやみんなのため……そして、私自身の為にも……!)」

年甲斐もなくリリーは願った。

今回のような過ちを繰り返さないよう、もっと強くなりたい――と。

「(はぁ……後悔する暇があったら動くべきだよね。あれこれ考え込むのはもう終わりにしなくちゃ)」

だから、彼女はこれまで以上に努力を重ねることを決めた。

自らを高めていくのはもちろん、今後は愛機フルールドゥリスの強化も必要になるだろう。

するべきことは分かっている。

「(……よし! 遅めの朝ご飯を食べたらまずは技術部門の子たちに謝って、それからは……)」

気合を入れ直すために柔らかい頬をペチペチと叩き、リリーは力強い足取りで自室を後にするのだった。


 自らの力不足を痛感し、その悔しさをバネに更なる高みを目指していく強い心――。

それこそがライラックの言う「覚醒」に必要な最後のピースなのだ。

そして……全てのピースが揃った時、人類は未来を切り拓くための「特別なチカラ」を知ることになる。

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