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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-90】MOON OF DESIRE

侵略者の尖兵と化した天空の星の都――。

運命を狂わされた人類の叡智を破壊するべく、蒼き勇者たちは星の海へと向かう。

母なる星、生まれ育った祖国、大切な友人――そして、愛する人を護るために。

たとえ、その先にあるのが敗北だったとしても……!

※「新訳オリエント神話-第9章 砕月編-」より抜粋。

「これでゲームオーバーね……さあ、敵を撃て! 我が(しもべ)たちよ!」

ライラックの指示を受けた6基のオールレンジ攻撃端末の砲口が蒼く輝く。

だが、その砲口からレーザーが放たれることは無かった。

攻撃開始直前に突然飛来してきた蒼い光線が6基の端末を撃ち抜き、それらを全て無力化させたからだ。

「ッ! やはり来たわね……!」

「ライガ……!?」

謎の攻撃が飛んできた方向へほぼ同時に視線を移すライラックとリリー。

これだけの遠距離から小さな端末を正確に狙撃できるほどの実力者で、尚且つリリーの窮地にすぐに駆けつける人物といえば「彼」以外に考えられない。

「ライガ!」

リリーが「彼」の名前を叫んだその時、ハッキリと視認できる距離まで接近していた白と蒼のMFは親子喧嘩の間に割って入り、まるで傷付いた幼馴染を守るかのようにライラックの前に立ちはだかる。

「派手にやられやがって! 俺の後ろに下がってろッ!」

フルールドゥリスの損傷を確認したライガは自機の後ろに下がるよう指示を出しつつ、目の前にいる未知のMF――ライラックのエクスカリバー・アヴァロンの姿を真っ直ぐ睨みつけるのだった。

「リリーを護るためならば、たとえ貴女が相手だろうと容赦しないぞ! ライラック・ラヴェンツァリ博士!」


 これはライラックにとってはかなり厄介な「増援」のはずだ。

にもかかわらず、彼女は相変わらず余裕の表情を浮かべている。

「あの()のために命を張る勇気……好きじゃないけど嫌いじゃないわ。いいわよ、今のあなたの全力をぶつけてみなさい」

愛機エクスカリバーの左手で器用に手招きを行い、あからさまな挑発行為でライガに一騎討ちを促すライラック。

「俺はいつでも全力だ!」

弾切れになったレーザーライフルと取り巻きとの戦いで破損したシールドを投げ捨て、主兵装のツインビームトライデントを抜刀するライガのパルトナ・メガミ。

「良い心意気よ! そのタフな心があなたを次のステップに押し上げる!」

一体何を言いたいのかよく分からないが、あれだけの威勢のいい挑発をしておきながらライラックは防御重視の慎重な戦法を取るつもりのようだ。

「貴女の戯言に付き合うつもりは無い! 30年越しの決着はここで付けさせてもらう!」

逆にライガは機体に蓄積しているダメージを考慮し、攻撃重視の激しい戦い方で短期決着を付けることを狙う。

「(ライラック博士とルナサリアン――何がキッカケで両者は手を組んでいるんだ? いや、そんなことはどうでもいいか……今は目の前の敵を討つことに集中しなければ!)」

頭の中に浮かんでくるいくつかの疑問を一旦振り払い、彼はスロットルペダルを思いっ切り踏み抜くのであった。


 ライガとライラック、どちらかと言えば劣勢なのは後者だろうか。

「(リリーとの戦いでここまで消耗するとはね……さて、どのタイミングで退きましょうか)」

実際のところ、彼女は「ここは命を捨てるステージではない」と判断しており、娘の友達と決着を付けることなど初めから考えていない。

適当に……いや、多少は全力で戦うことでデータ収集に努めたら、後は攻撃を受け流しながら撤退するだけだ。

「食らえッ!」

白と蒼のMFはツインビームトライデントを回転させながら間合いを詰めると、そこから刺突を中心とする連続攻撃を仕掛ける。

この手の長柄武器は取り回しが悪いはずだが、ライガは彼自身の卓越した操縦技量により隙を突かれない振り回し方を行っていた。

「やってくれる……! さすがはレティの息子というわけね」

「貴女と母さんに何の関係があるというんだ!」

「あら、30年前に言わなかったかしら? 私はレティからMFの操縦を教わったって」

素早い連撃を最小限の回避運動と光刃刀による切り払いでかわしつつ、自分の操縦技術はライガの母親に由来していると語るライラック。

そういえば、どこかの戦いでそんなことを言っていたような――。

バイオロイド事件の最終決戦を振り返ったライガは当時交わした会話を思い出すが、今となってはもはやどうでもいいことだ。

「へッ、母さんとよく似た機動(マニューバ)なら好都合だ! あの人の戦い方はよく知っている!」

目の前にいる敵を今度こそ討つため、白と蒼のMFは突撃の構えを取るのだった。

「(母さんの戦い方を踏襲しているのならば、次の一手はおそらく……!)」


 ツインビームトライデントを前方に向かって突き出し、フルスロットルで突撃を仕掛けるライガのパルトナ・メガミ。

真っ直ぐ突っ込むだけという極めてシンプルな攻撃だが、長柄武器ならではのリーチと運動エネルギーを乗せた破壊力――そして、この一撃に懸けるライガの勇気を防ぐことは容易ではない。

「(やはり、小細工抜きの正々堂々とした一撃で決めるつもりみたいね……ならば!)」

突撃への対抗策は何かしらの方法で勢いを削ぎ、攻撃動作その物を潰してしまうことだ。

ライラックのエクスカリバー・アヴァロンは定石通り固定式機関砲を発射し、パルトナに命中弾を与えて迎撃することを試みる。

MFの固定式機関砲は小口径ゆえ決定打となるほどの威力は無いが、直撃さえすればそれなりにダメージを与えることはできる。

当然、生身の人間に当たったら痛いわけで……。

「うぐッ……!」

右腕の二の腕辺りに突然焼けるような激痛が走り、思わず呻き声を上げるライガ。

神経痛の類ではなく文字通り「外から肉を抉られるような」痛みであったが、彼は決して傷口を見ようとはしなかった。

少しでも視線を逸らしたらライラックの姿を見失ってしまう――そう感じていたからだ。

だから、小口径弾が掠めたであろう右腕のことは気にしない。

「このまま貫いてやるッ!」

痛みや恐怖といった「ネガティブな感覚」を全て抑え付け、ライガは勇気を込めた一撃を白いMFに向かって放つのであった。


 パルトナ・メガミとエクスカリバー・アヴァロン、2機のMFが交錯し真正面から激突する。

両者の攻撃は互いにコックピットを狙っていたが、物理的に機体が接触したことでどちらも直撃だけは回避していた。

「あと10cm左にズレていたら、体が消し炭になっていたわね……!」

パルトナのツインビームトライデントはエクスカリバーの左肩を砕いたものの、コックピットブロックを完全に破壊することは叶わなかった。

とはいえ、内部に座るライラックの姿が見えるほどの損傷を受けているため、彼女が致命傷を負わなかったのは本当に幸運であった。

もう少しだけコックピット寄りに攻撃を食らっていたら、ライラックは間違い無く死んでいただろう。

「機体の腕同士が当たったおかげで、相討ちだけは避けられたな……」

一方、エクスカリバーは左肩を砕かれる直前に光刃刀を逆手持ちに切り替え、それをパルトナの脇腹――コックピットブロックの真下付近に深く突き刺していた。

本来はこれもコックピットを確実に潰すことを狙った攻撃のはずだ。

仮にもう少し上に光刃刀が突き刺さっていた場合、ライガの下半身はビームに焼かれて消滅していた可能性が高い。

……もっとも、パルトナの腹部には可変速レーザーキャノン用のエネルギー回路が増設されているため、この部分へのダメージは「懸念事項」であるのだが。


「フフッ、今日はここまでみたいね」

まだ辛うじて機能している脚部で白と蒼のMFを強引に蹴り飛ばし、戦場からの離脱を図るライラックのエクスカリバー。

後方にはライガが相手にしなかった取り巻きのバイオロイドが控えており、これ以上の追撃は難しそうだ。

「クソッ、この機を逃すものか!」

しかし、「神出鬼没なライラックは次にいつ現れるか分からない」と焦ったライガは中破している愛機を無理矢理動かし、届くはずのない固定式機関砲で追撃を試みる。

「人類の覚醒の時は近い……今のところはあなたの方が先んじているけど、追い詰められた時のリリーも興味深いわ」

結局最後までよく分からないことを言い残したまま、ライラックとバイオロイドたちは戦闘宙域から撤退してしまう。

だが、彼女の発言や行動から何となく推測できる事もある。

ライラックがルナサリアンと手を組んでいることは明確だが、彼女の参戦は阻止限界の1~2分前という極めて遅いタイミングだった。

そんな重役出勤ではコロニー落としの援護などできるわけが無い。

「(あの人はコロニー落としへの協力ではなく、俺やリリーと戦ってデータを得るために出張ってきたのか……?)」

考えれば考えるほど、ライラック・ラヴェンツァリという女の目的が分からなくなってくる――。

青みがかった星の海をボンヤリと見つめていたライガであったが、警告音で意識を引き戻された彼はすぐにシートベルトを外し自力脱出を図るのだった。


 ライガがコンバットスーツの補助推進装置で機体から離れた直後、まるで主の退避を待っていたかのようにパルトナ・メガミは小さな爆発を起こす。

その影響で白と蒼のMFは腹部を完全に破壊され、上半身と下半身に分断された状態で宇宙空間を漂うハメになってしまった。

思ったよりも爆発の規模は小さかったので、もしかしたら急いで脱出しなくても大事には至らなかったかもしれないが、あの爆発に巻き込まれたら痛い思いをしていたに違いない。

「(しかし、脇腹をビームソードで刺されただけで派手に壊れたな。V.S.L.Cの次の課題は防御力の向上か……)」

無惨な姿のまま宇宙空間を漂う愛機を眺め、これをメカニックたちにどう弁明するべきか考え込むライガ。

そんなことをしていた時、彼は突然思い出したかのように負傷した右腕の傷口を確認する。

「(おいおい、こりゃ思ってたよりも傷が深いな……クソッ、それに気付いたら途端に痛くなってきたぜ)」

こういう時はとりあえず応急手当を――と言いたいところだが、最低限の医療品が収められたサバイバルキットは機体に置いてきてしまったため、今から回収しに行くと逆にライガ自身が漂流してしまう恐れがあった。

「(コロニーが墜ちていく……俺たちの戦いには何の意味も無かったのか……?)」

ふと視線を移した彼の目に入ってきたのは、真っ赤な炎に包まれながら大気圏突入していくスペースコロニーの姿。

一度ならず二度もコロニー落としの阻止に失敗した不甲斐なさを、ライガは自分自身への怒りとしてぶつけるしかなかった。


 スカーレット・ワルキューレの艦影はここからでも視認できるが、肝心の救助がなかなか来ない――。

ライガがパルトナの残骸から離れすぎない距離を保ちながら漂流していたその時、彼はようやく救難機のものと思わしき蒼い光点を見つけることに成功する。

「あーあー……救難機、俺の声が聞こえるか? できればそちらの所属を知らせてほしい」

「よく聞こえていますよ、ライガさん」

「……って、お前が来てくれたのかクローネ?」

救難機の所属を確かめるべくオープンチャンネルで呼び掛けると、返答に応じたのはよく聞き慣れた少女の声であった。

「ええ、散開した後に一度母艦へ戻ったんですけど、あなたとリリーさんの救難信号を受信したので探しに来たんですよ」

そうこうしているうちにクローネのスパイラルC型はハッキリと目視できる距離まで接近し、まずは漂流中のライガを慎重にマニピュレータで確保する。

当面の危機を脱したライガはコックピットの方へと自力で飛び移り、わざわざ自分を救助しに来てくれたクローネのことを労う。

「……子どもを撫でるみたいにヘルメットを叩かないでください」

「ああ、すまない。ところで……リリーの方はどうなった?」

「サレナさんが向かっていま――って、右腕の怪我こそどうしたんですか!?」

ライガの右手を素っ気無く払いながら質問に答えるクローネ。

しかし、コンバットスーツ越しでも分かるほどの大怪我を目の当たりにした瞬間、普段冷静な彼女もさすがに不安げな表情を浮かべるのだった。


「そうか……それなら俺が命を張って戦った甲斐があるというものだ」

幼馴染の無事を確認できたことでホッと一安心すると、ライガはついでに機体の回収も行うよう頼み込む。

「ライガさんとパルトナがあそこまで追い詰められる敵……どれほどの強敵なのか想像もできないわ」

「今回は燃料弾薬を消耗していたこっちが明らかに不利だった。俺は負けたとは思っていない」

次に剣を交える時は絶対に負けない――。

いずれ訪れるであろうライラックとの再戦に向けて強い決意を表明し、史上最大の危機に瀕している蒼い惑星を見つめるライガ。

「幸いにも地球には『バックアップ要員』がいる。ジャイアントキリングの大役は彼女らが果たしてくれるはずだ。さあ……帰艦したら反省会だ」


 戦士たちは帰路に就く。

地球の命運を懸けた大役を若者たちへ託し、そうせざるを得なかった自らの力不足を恥じるために……。

そして、彼女らは必ず帰ってくるであろう。

己の力と道具に磨きを掛け、あらゆる敵を撃ち砕く「最強の軍団」として……!

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