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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-87】月の手に堕ちた星の都(後編)

 「阻止限界」まで残り8分――。

レーザーライフルの正確無比な早撃ちで核パルスエンジンを処理しているキリシマ・ファミリーに対し、ヤン率いるトムキャッターズはMF用大型対地ミサイル「ロンギヌススピア」による飽和攻撃でコロニーの外壁諸共吹き飛ばすつもりでいた。

「再利用の予定が無い無人コロニーだから遠慮せずにやれ! シュートッ!」

彼女の合図と同時に十数発もの対地ミサイルがトムキャッターズ各機から発射され、核融合パルスエンジンとその周囲の外壁を跡形も無く吹き飛ばしていく。

ちなみに、ヤンの愛機ハイパートムキャットは大型可変MFなので対地ミサイルを7発装備可能だが、部下たちが搭乗するスパイラルC型はそこまで大きな機体ではない。

そのため、スターライガ製の6連装ボックスミサイルランチャーに3発装填する方法でしか持ち運べず、戦闘効率はお世辞にも良いとは言えなかった。

「チクショウ! 3発撃つたびに補給へ戻ってたんじゃ埒が明かねえ!」

「スパイラルにもっとパワーがあれば、ミサイルランチャーを2丁携行できるんだがな」

近代化改修でC型にまで発展した優秀な機体とはいえ、基本設計が陳腐化しつつあるスパイラルの非力さにトムキャッターズのMF乗りたちは不満を述べる。

「ウチらが入手できる機体では最善の選択肢だったんだ。文句があるんなら自分で金を貯めて、自費で新型機でも作ってもらいな!」

それを聞いていたヤンは部下たちの発言を窘めつつ、次の攻撃目標を見つけるべく自慢の愛機を加速させるのだった。

「トムキャッターズの一員ならば、如何なる状況でも最善を尽くせよ……いいな!」


 「阻止限界」まで残り7分――。

Η(イータ)小隊は幸いにも高火力な機体が揃っており、スペースコロニーに対して順調にダメージを与えることができていた。

「あちゃー、レーザーライフルも弾切れかー」

しかし、アレニエが駆るアラーネアだけは例外だ。

この機体は格闘戦を重視した設計となっているため、「高火力を長時間投射する」という目的にはまるで向いていなかった。

「無反動砲はどうした? 一個のマガジンに4発装填されているから、それを3つ携行するとして弾数は12発。初めから無反動砲に装填されている分や武器自体がもう1セットあることを考えれば、実際には32発ぐらいは使える計算だぜ」

「そんなのとうの昔に使い切っちゃったよ!」

アラーネアの携行武装で最高火力を誇る無反動砲の弾数について指摘するリュンクスに対し、32発は全て撃ち切ったと事後報告を行うアレニエ。

「無駄撃ちしすぎなんだよお前は。目標をセンターに入れてスイッチだっていつも言われているだろ」

「逆にあんたたちはどうして射撃が上手いのさ?」

一連のやり取りを耳にしたパルトネルからも(なじ)られているあたり、アレニエの射撃能力はお世辞にも超一流とは言えないらしい。

「口喧嘩は後にして! 残り時間は7分を切ってる……今は1秒でさえ無駄にできないんだから!」

緊張感が有るのか無いのか分からない傭兵トリオを黙らせると、小隊長のヒナは左右操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込むのであった。


 「阻止限界」まで残り6分――。

巷では「技術試験隊」と揶揄されることもあるΖ(ゼータ)小隊だが、彼女らが運用する機体はいずれも火力に恵まれており、今回のような作戦には比較的適していた。

「エネルギーチャージ120……ファイアッ」

その中でも最大級の火力を発揮できるカルディアのクオーレがレーザーバスターランチャー(LBR)を発射し、フルパワーを超えた一撃で核パルスエンジン諸共コロニーの外壁を薙ぎ払っていく。

コロニーを破壊する方法はいくつか考えられるが、結局のところはこれが一番早いと思われる。

「わーお、凄い火力だ! もうカルだけでいいんじゃないかな?」

「いや、あの出力での射撃は1~2回が限界だろう。それ以上は機体やLBRが反動でバラバラになるかもしれん」

先の攻撃で飛び散るデブリを払い除け、続いて攻撃を仕掛けるコマージとアンドラ。

LBRはジェネレーター直結式の光学兵器であるため、エネルギーを回せばその分だけ出力が跳ね上がる。

ただし、欲張ってチャージし過ぎると機体側が破壊されてしまうので、実用機ではリミッターが掛けられている。

そのリミッターの制限値が120――つまり、カルディアは能動的に引き出せる最大火力でスペースコロニーに立ち向かっていたのだ。

「(カルディアもコマージもアンドラもみんな頑張っている……そうよね、あの娘たちには迷う理由が無いもの……!)」

Ζ小隊の隊長――スターライガの一員として、レンカは愛機ルーナ・レプスのスナイパーライフルを構え直す。

その銃口は蒼白い光を集束させながら「天空の星の都」を睨みつけていた。


 「阻止限界」まで残り5分――。

ε(エプシロン)小隊は全体的にバランス型の機体が揃っており、仮に敵航空部隊の邪魔が入っても対応可能という強みがある。

とはいえ、そういうお邪魔虫はできればオリエント国防軍に駆除してほしいのだが……。

「姉さん! このペースで本当に間に合うのッ!?」

小隊の中で最も高火力な機体に乗っているメルリンは愛機ユーフォニアムの全武装でコロニーを迎え撃つが、その一撃でさえ広範囲の外壁を破壊する程度に過ぎない。

「メルリンさんの言う通りだ! 状況は想像以上に悪い!」

非力なスパイラルを駆るレカミエに至っては非効率的な攻撃しかできず、有効打となり得る対地ミサイルは既に使い尽くしていた。

「弱音を吐くなッ! それよりも残り時間で最善を尽くすことだけを考えろッ!」

徐々に悲観的になっていく二人を一喝しつつ、愛機ストラディヴァリウスの両手剣ギガント・ソードでコロニーの外壁を切り裂いていくルナール。

「……そうね、後悔するなら全力を出し切ってからのほうが良いわね」

「残り時間は5分を切ったな……ええい! こうなったらひたすら攻撃し続けるしかないか!」

彼女の力強い一言にメルリンとレカミエは悲観的であることを止め、燃料弾薬を全て使い切るつもりで攻撃を再開する。

「(何だ……この無機質な敵意は……? 幻覚を感じるということは、ストレスでとうとう頭がイカれちまったのかな?)」

一方、無重力状態に強いオールレンジ攻撃端末を展開しながら戦っていたリリカは、「無機質な敵意が迫って来る」という初めての感覚に戸惑いを抱いていた。

「(まあいい、あと5分もすれば結果がどうであれ力は抜けるだろう)」

それから数分後、彼女はそれが幻覚ではなく現実であることを思い知らされるハメになる。


 エネルギーのリチャージを終えたスカーレット・ワルキューレは全砲塔の角度を再調整し、2度目にして最後になるであろう一斉射撃の準備を開始する。

砲撃後の砲身冷却に時間が掛かることを考慮すると、次の一斉射撃は100%までチャージできない可能性が高い。

70%程度で切り上げればギリギリ間に合うかもしれないが、その状態で砲撃したところで大したダメージにはならないだろう。

……とにかく、オリエント・プライベーター同盟(O.P.A)はこの一斉射撃に全てを懸けるしかなかった。

「艦長! コロニーの落下予測地点の正確な算出が完了しました!」

「本当!? 大体予想は付いているけど、このままだと何処に落ちるの?」

戦術シミュレーション班から受け取ったデータを確認したキョウカはすぐにミッコへ報告し、彼女の個人端末にデータをそのまま転送する。

「ハッ、阻止限界までにコロニーを破壊できなかった場合はスヴァールバル諸島上空から大気圏に突入した後、アイスランド及びカナダのニューファンドランド島上空を通過。最終的にはニューヨークを掠めながらワシントンD.C.の中心部へ落下する見通しです」

この報告を受けたミッコは両腕を組みながら考え込む。

「ふむ……やはり、ルナサリアンの目的は首都を直接攻撃することによる戦争の早期決着か」

「アメリカが落伍すれば相手にとっては戦いやすくなるかもしれません……でも、民間人を大量に巻き込んででも戦争に勝ちたいだなんて……!」

「それほどまでに追い詰められているのよ、おそらくね……」

勝利のためには非戦闘員の犠牲さえ(いと)わないルナサリアンのやり方に憤るキョウカを落ち着かせると、ミッコはO.P.A側の全艦に対し一斉射撃の指示を出すのであった。

「全砲塔及び対地対艦ミサイル一斉射撃用意! ファイアッ、ファイアッ!」


 「阻止限界」まで残り4分――。

接近戦主体の格闘機が多いΔ(デルタ)小隊は残念ながらコロニー破壊に向いているとは言い難い。

大出力を活かして無反動砲を2丁持ちできるシャルフリヒターやクシナダはともかく、それ以外の2機は格闘戦に特化し過ぎて汎用性が全く無かったのだ。

「艦砲射撃が止んだぞ! 僕たちも攻撃を再開しよう!」

O.P.A側の母艦4隻による一斉射撃が止んだことを確認し、格闘特化のリグエルⅡを駆るリゲルは真っ先に黒煙の中へと突っ込む。

「バカを言えお前! 格闘機だからって無茶すんじゃねえ!」

前述の通り無反動砲を扱えるシャルフリヒターを乗機とするルミアは小隊長として警告するが、何だかんだ言いながら彼女も親友の機影を追いかけていく。

「煙で何も見えないしデブリが飛んでくるし、あーもう滅茶苦茶だよ!」

リゲルとルミアの後方に控えていたミノリカも当然それに続こうとしたものの、この時の彼女は少し注意が疎かになっていたらしい。

「えーと――う、うわぁ!? 断熱パネルだぁ!」

黒煙の中から抜けた直後、ミノリカが最初に目にしたのはコロニーから剥がれ落ちた巨大な断熱パネルであった。

巨大と言っても実際のサイズは彼女の愛機クシナダの倍程度だが、当たると痛いことに変わりは無い。

速度差が大きいので回避も難しいだろう。


「ミノリカッ!」

避け切れそうにないのでシールド防御で凌ごうとしたその時、クシナダと断熱パネルの間に茜色のMFが割って入り、ビームサーベルによる鋭い袈裟斬りで巨大な断熱パネルを一刀両断していく。

「姉ちゃん! さっきまで機体が不調って言ってたのに……!」

「妹のピンチを見たら治ったのさ! あの程度のパネルなら死にはしないと思ったけど、ぶつかって吹き飛ばされるよりはマシだろ?」

茜色のMF――アゲハを操るシズハは機体不調を口実に後方へ下がっていたが、本当の理由は「ミノリカに何かあった時にサポートするため」という、妹想いな彼女らしいものであった。 

「お二人さん、姉妹でイチャイチャするのは後にしてくれよ。それよりも今は目の前にデカブツに集中だ」

オータムリンク姉妹の仲睦まじい姿に苦笑いしつつ、助け合った後は本来の仕事に戻るよう促すルミア。

「タイムリミットは3分か……人生で一番長い3分間になりそうだな」

そう呟きながら彼女はスペースコロニーの姿を見やる。

未だ健在の「天空の星の都」は着実に阻止限界ラインへと近付いていた。

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