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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-78】敗北者への制裁、勝利者への報酬

「……目的は果たしたようだな」

戦場に残っていたライガはヤンのハイパートムキャットの機影を確認すると、彼女に対して静かに語り掛ける。

「ああ、これを見れば分かるだろ?」

そう答えながら愛機の腕部を見せつけるヤン。

赤橙のMFの右腕には赤黒い汚れがこびり付いていた。

「……それが『地球の裏切り者』に下した制裁か」

命を刈り取った痕跡を見たライガはそれ以上の言及を避け、母艦へ戻りそのまま戦場を離脱するよう促す。

「ここの調査はアメリカ軍に任せよう。俺たちは宇宙に上がらなければならない」

「あたしたちが戦ってた間に何か動きでもあったのか?」

数か月前ならば詳細情報は伏せていただろう。

だが、ヤン率いるトムキャッターズは今やスターライガにとって重要な同志だ。

協力関係の基本は打算の無い情報共有にある。

「俺たちの所有する偵察衛星がルナサリアン艦隊を確認したらしい。奴ら、軌道上でコソコソと何かしているようだ」

宇宙空間のルナサリアン艦隊が動き出した――。

とにかく、今のライガが伝えられる情報はそれだけだったが、彼は直感的に「宇宙へ上がるべきかもしれない」と感じていた。

「(また……『怖いこと』が起こるのか……?)」


 因縁の相手であったホワイトウォーターUSAを文字通り壊滅させ、スターライガはささやかながら祝勝会を開くことになった。

「みんな、今回の作戦ではお疲れ様。まずは作戦に参加した全員が無事帰還できたことを嬉しく思うわ。私はこの世の全てを買えるだけのお金を持っているけど、あなたたちの命はお金よりも遥かに尊いものなのよ」

祝勝会の司会役として簡単なスピーチを述べるレガリア。

彼女が祝勝会の開催を認め、しかも司会役まで買って出たのは明確な目的があったからだ。

「それでは、ラストリゾート作戦の成功を祝し……Campone(乾杯)!」

レガリアの掛け声と同時に参加者たちはワイングラスを掲げ、希少性ゆえに高価なオリエンティアワインを味わいつつ、テーブル上に並べられた食事へ舌鼓を打つ。

「(フフッ、戦いばかりだと気が滅入ってしまうものね。たまにはこうやって息抜きしないと)」

目的の一つはメンバーの士気を維持向上させ、今後の戦いに万全の状態で臨ませること。

レガリアの父親が健在だった頃、彼女は後継者候補の娘に対し「人を使いこなすコツは適度に甘やかし、お前が管理できる範囲で自由にやらせることだ」とよく言い聞かせていた。


「いやー、ボクはワインの味はよく分かんねえけど……これが美味いってのは分かるぜ」

「このワイン、レガリアさんのワイナリーで醸造したやつだろ? あの人、ワイン造りに関しては趣味の域を超えてるからな……」

超高級オリエンティアワイン「エンバディメント・オブ・スカーレット」を一口飲み、素人でも分かるクオリティの高さに驚くマリンとヤン。

このアイスワインはレガリアが個人的に運営するワイナリーの最高傑作であり、市場には出回らない非売品であることから「幻のワイン」として知られている。

本来はシャルラハロート家主催のパーティで提供される以外に飲む機会が無いため、今日のレガリアは相当大盤振る舞いしているのが分かる。

「あの……私とナスルたちだけがこんなに美味しいものを味わっていいのかしら……?」

「遠慮しないでください、ノゾミさん。ロータス・チームには私からそのワインを数ボトル贈っておきますから」

控えめな反応に終始するノゾミにそう促すと、自らお手本を示すようにワイングラスを傾けるレガリア。

彼女のもう一つの目的はオリエント・プライベーター同盟(O.P.A)の代表たちを集め、今後の予定について議論を交わすことであった。


 今回の祝勝会にはスターライガのMFドライバー全員が顔を出しているが、じつは1人だけ一度も会場に現れなかった人物がいる。

「……あれ? リリーちゃんは来てないの? お祭り騒ぎは好きそうなイメージなんだけど」

自分のテーブルにいる面子を見渡し、ようやくメルリンは違和感の正体に気付く。

「ええ、体調が悪いので今は自室で休んでいます。本人曰く『ちょっと気分が悪いかなぁ』とのことなので、そこまで心配はしていませんが……」

リリーちゃん――自分の姉の容態について声真似を交えながら説明するサレナ。

作戦中に体調不良の兆候が見られたリリーは帰艦後すぐに療養へ入り、今も大事を取って自室で休んでいたのだ。

本人は祝勝会を楽しみにしていたものの、ドクターストップにより残念ながら参加は叶わなかった。

「リリーの体調不良については聞いていたが……ところで、ルナール姉さんはどこに行ったんだ? 乾杯の時は私の隣にいたんだがな」

面子に違和感を抱いていたのはメルリンだけではない。

彼女の妹であるリリカは一番上の姉ルナールが離席したきり戻ってこないことを気にしていた。

まさかとは思うが……。

「一応、『姉さんはそっとしておいて』と伝えたんですけどね……ったく、あの人の姉さんへの熱中ぶりは見ているこっちが恥ずかしいわ」

ルナールがリリーに片想いしていることを知っているサレナは頭を抱え、ヤケ酒を呷るようにグラスの中の赤ワインを飲み干すのだった。


「(ふわぁ……祝勝会出たかったなぁ。イラストを描く気力も起きないし、たまには積んでるゲームでも消化するか……)」

一方その頃、自室療養中のリリーは仲の良い相手が全員祝勝会に参加しているため退屈を極めており、気晴らしに先日買ってからまだ遊んでいないゲームをプレイしようとしていた。

あくびをしながらゲーム機の電源ボタンを押し込むリリー。

「リリー、起きているかな?」

コントローラーを握ってゲームを開始しようとしたその時、とても聞き覚えのある声と共にドアが数回ノックされる。

それはともかく、この声の主は本来ならば祝勝会に出ているはずなのだが。

「起きてますよー」

「それでは失礼するよ」

リリーがゲーム画面を向いたまま返事すると、声の主――ルナールは親友の家へ立ち寄る感覚で部屋に入ってくる。

彼女の右手には少し重そうなビニール袋が提げられていた。


「今は祝勝会の最中でしょ? こんなところで油を売っていていいんですか?」

ニコニコしているルナールには終始素っ気無い態度を取るリリー。

しかし、内心では話し相手が来てくれて少し嬉しかったらしい。

「リリーがゲームをやっているのを見てもつまらないですよ。動画用に収録しているわけじゃないから、見せ場を狙って作るつもりは無いし……」

照れ隠しなのか、彼女は頼まれてもいないのに「自分と話してても面白くない」と謙遜し始める。

「フッ、私はビデオゲームにほとんど触れない人生だったから問題無い。プレイングの良し悪しは正直言ってよく分からん」

対するルナールはゲーム画面をあまり気にしておらず、どちらかと言うとTシャツ短パン姿のリリーばかりを見ている。

「それに……ゲームに夢中になっている君を見ているほうが楽しいからな」

祝勝会を抜ける時に厨房でボトル詰めしてもらった「エンバディメント・オブ・スカーレット」を開け、2つの紙コップに深紅のワインを注ぎながら微笑むルナール。

彼女のこういうところがリリーは苦手なのだ。

「そうやって気に入った女をすぐ口説こうとするの――好きじゃないけど嫌いじゃないです」

「誰彼構わずちょっかいを掛けているわけじゃない。こういう風に接しているのは君とライガだけのつもりだが」

「はぁ……ストレートに好意をぶつけてくる人が一番やりにくいなぁ……」

ルナールからワイン入りの紙コップを手渡されると、リリーは頬を赤らめながらその中身を味わうのであった。

「(確かに顔と声は良いけど……でも、この人と本気で付き合うことは無いかな……多分)」


 祝勝会が大盛況のうちに終わった翌日、平常運転に戻ったO.P.Aの4隻はカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地へ向けて針路を取っていた。

彼女らは全領域艦艇打ち上げ施設を有する同基地の協力を取り付け、宇宙で活動を活発化させたルナサリアン艦隊の動きを探りに行く。

「アメリカ空軍の連中、『ヤマタオロチ』相手にボコボコにされたようだな」

「……目に見えていた結果ね。彼らはルナサリアンの兵器開発能力を過小評価し、詳細なリサーチを怠ったまま無謀な決戦を挑み――そして惨敗した」

スカーレット・ワルキューレの艦内食堂で機密文書を見ながらアメリカ軍をこき下ろすライガとレガリア。

スターライガがWUSA(ウユーザ)との決戦に臨んでいたのと同じ日、アメリカ軍はルナサリアンの超巨大航空要塞「ヤマタオロチ」を撃沈する作戦を同時進行していた。

だが、結果はアメリカ軍の歴史的大惨敗に終わった。

理由は色々と指摘されているものの、最大の原因が「軍上層部の見積もりの甘さ」であったことは言うまでも無い。

にもかかわらず、アメリカ国防総省は雪辱戦に備え戦力を再集結しているらしい。

超兵器との戦いにおける中途半端な物量作戦は失策もいいところなのだが……。


「しかし、ヤンキーのリベンジマッチに付き合わされるとは第8艦隊の連中も災難だぜ」

機密文書が収められたファイルを閉じ、ライガはホットチョコレートを飲みながらオリエント国防海軍第8艦隊の身を案じる。

彼が母親から聞いた情報によると、あのゲイル隊を擁する第8艦隊も超兵器へのリベンジに投入されるらしい。

「でも、『あの()たち』なら大丈夫なはずよ」

一方、ホットティーを味わっているレガリアはあまり心配していないらしく、「あの娘たち」ことゲイル隊なら大丈夫だと太鼓判を押している。

「……そうだな。ジャイアントキリングは若い連中に任せて、俺たちは宇宙で自分の仕事を果たさないとな」

ここで自分たちがどうこう言っても仕方ない――。

それを悟ったライガは後輩たちの力を信じ、今は自分の仕事に集中することを決める。

「ところで、宇宙拠点で開発されていた新型機が完成したそうだな?」


 スターライガの次なる仕事は軌道上に展開しているルナサリアン艦隊の調査――の前に、宇宙拠点で開発中の3機の新型機を受領しなければならなかった。

【Campone】

オリエント語における乾杯の合図。

発音は「カンポー」と表記されることが多い。


【オリエンティアワイン】

オリエント連邦産のワインは基本的に国内消費用であり、国外には滅多に輸出されない。

これはブドウ栽培が難しい寒冷地帯(=生産量が少ない)であることに加え、元々の物価が高く価格競争力でフランス産やイタリア産に劣るためと云われている。

門外不出の非売品である「エンバディメント・オブ・スカーレット」はその最たる例と言えよう。

ちなみに、オリエンティアワインは氷結したブドウを原料とする「アイスワイン」が大半を占めており、そのためオリエント人は甘口ワインを好む傾向が非常に強い。

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