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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-76】野望が沈む時

「敵機が来るぞ! チャフとフレアを撒きながら回避運動だ!」

「了解!」

防御兵装を散布しながら回避運動を開始するWUSA(ウユーザ)のMV-22。

パイロットの腕前はなかなかのモノだが、ティルトローター機の動力性能でMFを振り切ることなど不可能だ。

「ノロマな奴め……ここかッ!」

敵機の動きを上手く見極めると、マリンは偏差射撃が確実に決まるタイミングで右操縦桿のトリガーを引く。

彼女の愛機ストレーガの無反動砲から放たれた徹甲榴弾はMV-22の左エンジンに直撃し、その影響で左主翼を失い制御不能状態のまま急降下していく。

「まずは一つ!」

敵機撃墜を確認したマリンはMV-22の編隊から一旦距離を置き、今度は2機同時に仕留められる動きを考える。

無反動砲を二丁持ちで構える「ダブルバズーカスタイル」で戦っているのだから、どうせならその火力を最大限活かせる戦い方がしたい。

「(編隊中央を突っ切るようにヘッドオンを仕掛けて、最後は反転してケツに一刺し――これでいこう!)」

理想とする動き方を頭の中でシミュレートしつつ、マリンは機動力が取り柄の愛機をクルリと反転させるのだった。


 黒いMFが半径の大きいインメルマンターンで方向転換を終えた時、3機のMV-22は少し散開気味に飛行を続けていた。

おそらく、密集していたらまとめてやられると判断したのだろう。

「へッ、綺麗に並んでやがるぜ」

狙いやすい敵機を瞬時に判断し、一連の攻撃行動をしっかりと組み立てるマリン。

相対速度は1200km/h以上――感覚的には音速並みの速度で敵機とすれ違うはずだ。

このレベルの世界では千分の一秒の操作のズレも許されない。

早すぎても遅すぎても予想とは違う結果を招くことになる。

「……ッ!」

敵編隊とすれ違う直前、諸々のタイムラグを加味したここぞというタイミングでマリンは右操縦桿のトリガーを引く。

間髪入れずに彼女は左操縦桿を操作し、今度は左側を飛んでいた別のMV-22を無反動砲で狙い撃つ。

これらの動作はわずか2秒の出来事であり、一般人の動体視力では「黒い影の通過と同時に2機のオスプレイが爆発した」ようにしか見えなかっただろう。

「あの相対速度で敵機のコックピットとエンジンを正確に撃ち抜くとは……良い腕をしているな、若いの」

その一部始終を遠くから見守っていたルミアは口元に笑みを浮かべ、予想以上の成長速度を見せる若者たちに嬉しい驚きを隠せなかった。

「(オリエント人にとって30代は一番脂が乗る時期だ。そろそろ若い連中に道を譲る時かもな……)」


「よっしゃよっしゃ! 今日は何だか調子が良いなぁ!」

瞬く間に3機のMV-22を仕留めたマリンは波に乗ったまま最後の敵へ狙いを定める。

先ほどと同じようにインメルマンターンで機体を反転させ、今度は敵機の斜め後方から攻撃を仕掛ける。

この位置取りだと弾速の遅い無反動砲は使いづらいため、右手の武装は弾速に優れるレーザーライフルへと持ち替えていた。

レーザー兵器は大気圏内での減衰が厄介だが、近距離で撃ち込めば無視できる程度のレベルで済む。

「残念だったな、大人しく司令部に引きこもっていれば死なずに済んだのによ……!」

無駄な回避運動で必死に足掻くMV-22の胴体へ精密射撃を決めると、マリンのストレーガは急旋回をしながらその場を離れていく。

胴体に致命的なダメージを受けたティルトローター機は真っ二つに空中分解し、大量のデブリを撒き散らしながらグランド・キャニオンの谷底へと落ちていった。

乗員の姿は視認できなかったが、常識的に考えれば生存は絶望的だろう。

「(あれに乗っていたのはおそらくお偉いさんだ。あとは旗艦を沈めれば終わり……だな!)」

WUSAの重役たちはマリンの手によって全て粛清され、戦いは終局の時を迎えようとしていた。


 司令部で防衛戦の指揮を執るべきはずの要員たちが逃げ出した結果、WUSA側の指揮系統に致命的なタイムラグが生じた瞬間があった。

当然、スターライガ側がこの隙を見逃すはずが無く、それを好機と捉えた彼女らは苛烈な集中攻撃を決行。

適切な指示を受けられなったWUSA航空部隊は一気に撃墜され、総旗艦「スピリット・オブ・アメリカ」も兵装と推進装置に甚大なダメージを受けていた。

「HQ、応答せよ! 聞こえていないのか!?」

攻撃によって生じる揺れに耐えながらヘッドセットを押さえ、司令部との通信を試みるベルトワーズ艦長。

既に司令部要員は全員逃げ出しているため、彼の問い掛けに答える者は誰もいない。

「……クソッ! 居留守なのかビビって逃げたのか知らんが……ともかく、ここから先は自己判断で行動するしかないか」

「あ……おい、待て! WUSAの最高責任者は私だぞ!」

ベルトワーズの独り言を聞いたゴトーはこの期に及んで自らの指揮権を主張してくるが、当のベルトワーズは毅然とした態度でそれに反論する。

「だから何だって言うんです? この(ふね)の艦長は俺で、乗組員たちも俺の指示で働いています。あんたの意見を聞くことはできるが、それを基に最終判断を下すのは俺だ」

そう語るベルトワーズの人望は非常に厚いらしく、CIC(戦闘指揮所)のクルーたちの冷たい視線がゴトーへと突き刺さる。


「……分かった、確かに貴様の発言には一理ある」

自分以外の全員が敵という状況に耐えかねたのか、さすがの彼も今回ばかりは大人しく引き下がることを決めた。

今は味方同士で口論を繰り広げている場合ではない。

「それで……策はあるというのかね?」

「率直に申し上げると、ここから戦況を逆転させるのは不可能でしょう」

打開策を期待するゴトーの問い掛けに対し、ベルトワーズは「もはや打つ手無し」とあっさり匙を投げる。

「Mr.ゴトー、この(ふね)は長くは持ちません。あなただけでも退艦してください」

「何だと?」

「今ならばわずかばかりの味方機が救命ボートを援護してくれるでしょう。それに、救命ボートに対する攻撃は国際法で禁止されています。あのスターライガが救命ボートを撃つようなマネはしないことに期待すべきかと」

この提案には「嫌いな上司を追い払いたい」という本心があったが、表面上は「上司の安全を最優先する艦長の鑑」としてゴトーに退艦を促すベルトワーズ。

スピリット・オブ・アメリカが戦闘能力を喪失しつつあることは誰の目に見ても明らかだ。

いつ轟沈するか分からない戦艦に留まるよりは、艦載艇でさっさと脱出するほうが安全かもしれなかった。


 苛烈な航空攻撃と対艦攻撃を受け続けたスピリット・オブ・アメリカは船体各部から黒煙を上げ、所によってはダメージコントロールが追いつかないほどの火災が発生している。

しかし、艦隊決戦を想定した防御力はさすが弩級戦艦と言うべきか、それほどの損傷を受けてもなお決死の抵抗を続けていた。

「かなりのダメージを負っているはずなのにまだ沈まないなんて……バケモノなの!?」

「ここまでくると乗組員たちの執念だね。追い込まれたジャッカルはキツネより――あれ、逆だったかな?」

作戦開始時から対艦攻撃に参加していたサレナとリリーは補給のため一度帰艦していたが、補給が必要なほどの量の攻撃を浴びせても沈まない敵艦にはむしろ感心を抱かざるを得ない。

死ぬまで戦い続けるその執念は見習うべきかもしれなかった。

「だが、無敵の兵器など存在しない。人間には『絶対』と『永遠』は作れないからな」

一方、敵艦の徹底抗戦を冷めた目で見ていたライガは自身が率いるα(アルファ)小隊を集結させ、不沈艦にトドメを刺すべく連携攻撃の準備を開始する。


「いいかみんな、あの(ふね)のベースにあたるサウスダコタ級のCICはブリッジの真下にある。そこを潰せば軍艦の指揮能力は失われ、ただのデカい(くろがね)の城にすぎない」

連携攻撃で狙うべき場所とその理由について簡潔に説明するライガ。

戦闘中に艦長ら主要クルーが使用するCICは最も重要な区画であり、艦がダメージを受けても機能停止に陥らないよう被弾しづらい場所に配置されている。

実際の配置場所は艦種や各国の設計思想によって異なるが、スピリット・オブ・アメリカの場合はオーソドックスなブリッジの真下に置かれていた。

「普通はMFの武装で直接狙うことはできないが、今は状況が違う。ワルキューレの艦砲射撃が命中したおかげでブリッジが破壊されているから、その被弾で空いた穴を狙えばCICを撃ち抜けるはずだ」

「そんなテクニカルなこと……!」

「心配するなクローネ。お前は俺とラヴェンツァリ姉妹に攻撃タイミングを合わせればいい」

訓練では教わらなかった無茶振りに動揺するクローネを励まし、ライガはフォーメーションを整えながら一斉攻撃のタイミングを計る。

α小隊は4機の機体特性にバラつきがあるため、行動の足並みを揃えるのが意外に難しいのだ。

「フォーメーションはエシュロン隊形! 敵艦の直上から急降下攻撃を仕掛けるぞ!」

「りょーかい! リリーはいつでも行けるよ!」

「姉さん! 作戦中はコードネームを使わないと……!」

「こちらクイックシルバー、了解! ライガさんたちに合わせてみます!」

それでも彼女らは乱気流の影響を受けない距離感でフォーメーションを組み、白と蒼のMFを先頭に敵戦艦へと襲いかかるのだった。


「ライガ、対空砲火が……!」

スピリット・オブ・アメリカの防空能力は大きく削ぎ落とされており、サレナが懸念するほど濃密な弾幕は張られていない。

「速く飛べば当たらない!」

それを把握しているライガは幼馴染の警告を一蹴し、愛機パルトナ・メガミのほぼ全武装の照準を敵艦のブリッジがあった場所――CICの真上の部屋が露出している部分に定める。

「各機、俺がロックオンしている場所と同じ部位に照準を合わせろ!」

彼は自機の火器管制システムのデータを僚機と共有することで攻撃すべき場所を教え、一斉攻撃がより効果的なものとなるようギリギリまで調整を続けていた。

「全員ロックオンしたな? よし……ありったけの火力を撃ち込んでやれ!」

「「「了解!」」」

ライガの号令と同時に4機のMFから大量のレーザーとマイクロミサイルが放たれ、対空砲火では迎撃し切れないほどの弾幕がスピリット・オブ・アメリカへと降り注ぐ。

「やったね! これだけの攻撃ならひとたまりも無いでしょ!」

「やっと沈むのね……この戦艦も彼らの野望も……」

一斉攻撃を終えたリリーとサレナは離脱しながら成功を確信する。

CICとその周辺に集中攻撃を浴びたことで弩級戦艦の戦闘能力が完全に喪失した結果、自動制御されていた対空兵器による迎撃がピタリと止んだからであった。

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