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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-64】私たちの夜間飛行(後編)

「おい、ここの演技は何回見てもイカすよな?」

「さすがはハリウッドのドル箱俳優だ。映画でもドラマでも光る演技をしてるぜ」

ここはWUSA(ウユーザ)秘密基地にある管制塔。

今の時間帯は航空機が飛んでいないためか、暇を持て余している管制官たちは北アメリカで人気のドラマを見ながらくつろいでいた。

強固な防空網を(くぐ)り抜けた敵が迫っているとも知らずに……。

「……ん? なあ、外で何か光らなかったか?」

「ハハッ、見間違いだろ。こんな濃霧の中で奇襲を仕掛けてくる奴がいたら、そいつはクレイジーだぜ」

真面目に業務に励んでいたオペレーターの貴重な報告を受け流し、ドーナツをかじりながら自分の席に着く航空管制官。

もし、この時オペレーターにまともに取り合っていれば、管制塔の職員たちは避難が間に合ったかもしれない。

「いや……あいつらクレイジーだ! こっちに向かって飛んで来るぞッ!」

別の管制官が叫んだ時にはもう手遅れだった。

次の瞬間、「クレイジーな連中」のミサイル攻撃を受けた管制塔は轟音と共に崩れ落ち、真っ赤な火の海の中へ呑み込まれていく。

職員の生存者は……一人も発見されなかった。


「管制塔の破壊を確認! 奇襲攻撃成功!」

自機から発射されたMF用大型対地ミサイル「ロンギヌススピア」の命中を確認すると、レガリアは奇襲攻撃のアドバンテージを活かすために素早く次の指示を出す。

奇襲を受けた相手はすぐに対空戦闘の準備を開始しつつ、待機状態の迎撃機をスクランブル発進させる――。

そこまでは作戦前のシミュレーションで想定済みだ。

「スターライガ各部隊は事前に決められた目標への攻撃を開始! キリシマ・ファミリー及びトムキャッターズは自己判断での遊撃をお願い!」

WUSA秘密基地のレイアウトはルナサリアンから渡された資料で把握しているため、誰がどこを攻撃するかは(あらかじ)め決めてある。

α(アルファ)小隊、了解!」

「こちらγ(ガンマ)小隊、了解。迎撃機が上がる前に捻り潰すぞ」

まず、ライガ率いるα小隊とサニーズ指揮下のγ小隊は格納庫へ先制攻撃を仕掛け、迎撃機が発進する前に可能な限り減らすことを狙う。

主力部隊はアラスカ山脈の戦いで壊滅しているとはいえ、防衛戦力にちょこまか動き回られると厄介だからだ。


Δ(デルタ)小隊了解! んじゃ、滑走路が使い物にならなくなるまでぶっ壊してやるか!」

「ストラディヴァリウスよりシャルフリヒター、予定通りそちらの援護に回る。露払いは私たちが行うから、君たちは滑走路破壊に集中してくれ」

格納庫潰しを行う一方、それと並行してルミアのΔ小隊とルナールのε(エプシロン)小隊は滑走路破壊を担当する。

滑走路を潰せば少なくとも戦闘機は離陸できなくなり、迎撃機の動きをほぼ確実に封じることができる。

垂直離陸が可能なMFやヘリコプターは飛び立つかもしれないが、後者に関しては()したる脅威とはならないだろう。

Ζ(ゼータ)小隊了解、これより燃料及び弾薬貯蔵施設の破壊へ向かいます」

兵器を運用するためには当然ながら燃料と弾薬が必要であり、この秘密基地にも継戦能力にして約3週間相当の燃料弾薬が蓄えられている。

貯蔵施設の破壊はレンカ率いるΖ小隊が単独で行い、二度と使い物にならないよう徹底的に焼き尽くすつもりだ。

商売敵――いや、「地球の裏切り者」相手に情けなど一切必要無い。

裏切りの代償はその身を以って味わわせなければならない。

「こちらΗ(イータ)小隊、了解! 傭兵トリオのみんな、打ち合わせ通り私たちは発電施設の無力化を目指すわよ!」

そして、血の気盛んな傭兵トリオを擁するヒナのΗ小隊は発電施設を叩き、秘密基地の電力供給を完全に止める役目を任されていた。

現代文明は電気で支えられているといっても過言では無いため、電力供給を止めれば基地の機能を完全に麻痺させることができる。

いずれはバックアップで復活するだろうが、それまでに秘密基地を瓦礫の山にしてしまえばいい話だ。


β(ベータ)小隊は上空から状況確認を行いつつ、必要に応じて各担当エリアの援護に回るわ。一応目は光らせているつもりだけど、手助けが必要そうだったらすぐに要請してちょうだい」

指揮能力が高いレガリア率いるβ小隊は特定の担当エリアを持たず、今回は作戦全体の進捗をコントロールしながらアシストに徹する。

役割としては遊撃部隊に近いモノがあるが、各担当エリアの状況を逐一確認しつつ戦域全体を回らなければならないため、実際の仕事内容はかなりハードであることは言うまでも無い。

……だからこそ、機動力に優れた機体を駆るレガリアでなければこなせない役目なのだ。

「ブラン、ニブルス、ソフィ! 私たちも仕事に入るわよ!」

「ああ、姉さんに言われるまでも無い! 思う存分暴れる機会が無くてウズウズしていたところだ!」

「こちらベルフェゴール、了解! 応急修理や補給が必要ならばお任せを!」

「フォル――じゃなくて、スターシーカー了解!」

彼女は3人の僚機を従えながら高度を上げ、上空からWUSA秘密基地の全貌をじっくりと窺う。

気が早い連中がいるのか、既にあちこちから爆発音と共に火の手が上がり始めていた。

「み、皆さん張り切ってますね……私たちが出る幕はあるんでしょうか?」

その様子に一般人代表としてドン引きせざるを得ないソフィ。

「無いかもしれないけど、バックアップは常に二重三重に用意しておくものよ。まあ、どうなるか見てみましょう」

それに対するレガリアの答えは差し障りの無い言葉であったが……。

「(ソフィ、あなたもそろそろ『戦争屋であること』を自覚しないとダメよ……!)」


 スターライガ側の先制攻撃で管制塔が真っ先に破壊されたため、WUSA秘密基地の迎撃部隊は自己判断で離陸することを強いられる。

「ああッ! 格納庫が爆撃されたぞ!」

「構うんじゃねえ! 俺たちは一分一秒でも早く離陸するんだ!」

「チクショウ! エンジンの回転が鈍すぎる! 戦闘出力まで上がらない!」

航空機の離着陸をコントロールしている管制官からの指示が無いことに加え、奇襲攻撃の混乱や濃霧による視界不良が重なった結果、滑走路とエプロン(駐機場)は観光地のような大渋滞が発生していた。

WUSAはアメリカ空軍から中古購入した旧式戦闘機「F-16C ファイティングファルコン」を迎撃機として運用しているが、当然ながらこの機体は自力ではバックできない。

つまり、誰かが誘導路で立ち往生するとそこを起点に渋滞が起きてしまうのだ。

「そこの機体、何で止まってるんだ!? 早く滑走路に進入しろ!」

「ネガティヴ! 視界不良で滑走路がクリアか確認できない!」

「知るかバカ! こんなところで立ち往生してたら七面鳥撃ちにされちまう!」

滑走路の手前で待機している味方機を押し退けるように一機のF-16が前進し、濃霧で先が見通せない滑走路へと進入する。

もし、視界良好だったら彼は絶対に無理をしなかったはずなのに……。


「うおッ!? そこから横入りしてきやがって! クソッ、早く上昇してくれ!」

せっかちなF-16(機体記号:N878WU)が滑走路へ入ってきた時、運悪く別のF-16(機体記号:N986WU)が離陸しようとするタイミングと完全に重なってしまっていた。

「上がれ! 上がれ! 上がれッ!」

濃霧の中から突然浮かび上がる味方機に気付いたN986WUのパイロットは思いっ切り操縦桿を引き、最悪の事態だけは回避しようと懸命に努力する。

だが、空対空ミサイルを多数装備しているF-16は重量が増加しており、尾部がガリガリと滑走路を擦るばかりで全く上昇してくれる気配は無い。

「クソッ、チクショウ……来やがっ――!?」

「俺の前にいる奴は避けろ! 避け――!」

次の瞬間、転回中のN878WUへ覆い被さるようにN986WUが突っ込んでしまい、燃料と武装を満載していた両機は共に爆発炎上。

パイロットの生存が絶望的なのは火を見るよりも明らかだ。

「し、消防隊はどこに行きやがったんだ! 滑走路を空けないと俺たちは離陸できないんだぞ!?」

事故を間近で見ていたパイロットは消防隊の派遣を要請するが、他の場所の消火・救助活動に追われている消防隊には無茶な要求であり、実際に彼らがやって来るのは戦闘が終結した後のことであった。


 WUSA秘密基地には2000m級の滑走路が2本配置されており、離陸専用のA滑走路は先ほどの事故で使えなくなってしまったが、本来は着陸専用であるB滑走路はまだ使用することができる。

とはいえ、スターライガ側の苛烈な攻撃を考えるとB滑走路の破壊も時間の問題だ。

「エンジン出力異常無し! 進路クリア!」

「よーし、テイクオフだ! この機体に積んでいる『ブツ』だけは何としてでも守り通せ! 迎撃機にも俺たちの護衛をするよう伝えろ!」

守備隊が時間を稼いでいる間に3機の「C-130J スーパーハーキュリーズ」輸送機は離陸準備を終え、隊列を維持したままB滑走路へと進入する。

彼らが目指す場所は秘密基地から3000km以上南――アメリカのグランド・キャニオン国立公園内にあるWUSA本部だ。

C-130は5000km近い航続距離を誇るのに対し、スターライガ側の主戦力であるMFが追いかけられるのはせいぜい500km程度だと予想される。

彼女らは内陸部の遠方から飛来しており、往復分の推進剤を考えると深追いは困難なはずだ。

さっさと離陸して600kmほど飛行すれば振り切ることができるだろう。

……もっとも、『ブツ』を積んだC-130の速度だと1時間ほど掛かるため、その間の追撃をしのぎ切れればの話だが。


 機能を失っている管制塔からの指示には頼らず、搭乗員の自己判断で離陸滑走を開始する輸送機部隊。

濃霧のため滑走路上の視界は良くないが、七面鳥撃ちを避けるためには急いで空へ上がるしかない。

「ん……何だアレは? 変な奴がいるぞ!」

その時、先頭のC-130のコックピットに座る機長は、滑走路上で真っ黒なヒト型が仁王立ちしていることに気付く。

「て、敵機だ! 機長、どうするんですか!?」

「このまま突っ込め! もう離陸決心速度は超えている!」

それが敵機であると判断した副操縦士は機長の指示を仰ぐが、離陸手順を根拠に機長は滑走を強行することを決断した。

MF程度のサイズならば輸送機で押し潰せる――。

アメリカ軍時代からC-130一筋の彼はそれでイケると考えていたが……。

「へッ、離陸許可も無しに滑走するとは感心しねえなぁ……輸送機さんよぉ?」

真っ黒なヒト型――漆黒のMFストレーガは無反動砲を二丁拳銃のように構え、眼前に迫る大型機のコックピットへと狙いを定める。

「管制塔の指示を守らないうえ、味方を置いてそそくさと逃げる悪い奴にはおしおきだ! あの世で反省しやがれ!」

コックピットに座る男たちと視線が合った瞬間、マリンは左右の操縦桿のトリガーを同時に引くのだった。

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