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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-56】裏切りの報酬、新たなる力

 ルナサリアンとホワイトウォーターUSAは裏で手を組んでいた――。

その事実をフランシスは薄々ながら勘付いていたが、まさか本当だったとは……。

「認めたくないものだな、地球人類が未だに一枚岩ではないということを」

「フッ、我々月の民も現体制の誕生までに無益な血を流してきた。同胞同士での殺し合いほど愚かなモノはない」

自分たちルナサリアンが歩んできた血塗れの歴史について自嘲気味に笑うと、カンナはUSBメモリのような形をしたデバイスをフランシスに手渡す。

「君たちが欲している情報はそれに全て詰まっている」

全ての報酬を渡し終わったカンナはアタッシュケースを片付け、護衛の黒服たちに耳打ちするとそのまま超軽量ジェット機へ戻っていく。

一方、何かの指示を受けた黒服たちはエリカ及びアヤメの手を掴み、彼女らを急かしながら上官の後を追いかける。

「待ってくれ将校殿! 『ケガレ』って何なのか教えてくれよ!」

フランシスの問い掛けにルナサリアンたちが答えてくれることは無かった。


 ルナサリアンの超軽量ジェット機が空へ飛び立つのを見届けた後、フランシスたちが運転するSUVは走ってきた道を再び引き返していた。

「……あの()たちのことが気掛かりか、フランシス?」

「へッ、この車がオートマティックじゃなかったら答えられないところだったぜ」

あまり乗り慣れないAT車の操作に苦労していることを皮肉りつつ、助手席に座る部下からの質問へ正直に答え始めるフランシス。

「……ああ、正直に言うと気掛かりだな。ルナサリアンの将校殿や黒服たちは『ケガレ』とやらについて何一つ答えてくれなかった」

ケガレが付いた者は差別対象にされる――。

アヤメの不穏な一言がフランシスの脳裏から離れない。

「お前の気持ちは分からなくもないが、敵に情を抱くのはやめといたほうが良い。敵味方に分かれた友情はロクな結末にならないからな……」

「クロプルツ人ならではのアドバイス、ありがとよ」

助手席に座っている部下は隣国と紛争状態にあるクロプルツという小国の出身だ。

彼女の故郷は国境上の緩衝地帯にあったが、武力衝突で近所の友人たちと生き別れるという苦い経験を味わっていた。

「(私は敵になったかつての友を撃たざるを得なかった。フランシス、あなたには同じような悲劇を味わってほしくないんだ)」


 「取引」から数時間後――。

母艦スカーレット・ワルキューレまで戻ったフランシスは、一連の出来事の報告を行うためレガリアの執務室へと足を運んだ。

「これが報酬として渡された金塊とWUSA(ウユーザ)に関する情報が収められたUSBフラッシュドライブです」

「ふむ……時価にして3億クリエン(=3億円)といったところかしら」

金塊を見せつけられ驚いていたフランシスとは対照的に、インゴットの一つを手に取りながら冷静に価値を推測するレガリア。

この程度の金塊の山はこれまでたくさん見てきただろうし、彼女の屋敷には有事の際に備えた埋蔵金――通称「シャルラハロートの紅い黄金」が貨幣以外のカタチで隠されているらしい。

宝の山などいくらでも見慣れているということだろう。

「まあ、地球人同士で殺し合った末の報酬としては安いかもしれないけど……本当に価値があるのはそっちのUSB-FDのほうでしょ?」

3億クリエン相当の金塊が詰め込まれたアタッシュケースをデスクの横に置き、レガリアは笑いながらフランシスの手にあるUSBメモリを指し示す。

過去に幾度となくアメリカ政府へ情報開示を請求したにも関わらず、結局一度も手に入らなかったWUSAの詳細な内部情報――。

「(金塊はオマケと言っても過言では無い。USB-FDの中身には3億クリエン以上の価値があるのだから……!)」

彼女は手の平サイズのデバイスがWUSAに最後の日をもたらすだろうと確信していた。


 フランシスが持ち帰って来たUSBメモリの中身を調査した結果、WUSAはカナダ・ブリティッシュコロンビア州北西部の氷河地帯に秘密基地を有していることが判明した。

資料によるとこの基地は本部に次ぐ施設規模を持ち、WUSAが擁する総戦力の約3割を何かしらの目的のために集結させているらしい。

……つまり、ここを壊滅へ追い込めばWUSAを一気に弱体化させることができるというわけだ。

WUSAの保有する装備は型落ちの旧式兵器ばかりとはいえ、それが大量に投入されるのはなかなかに面倒臭い。

少数精鋭のスターライガがWUSAとの抗争に勝つためには、少しでも敵方の戦力を削り取って「質で物量差を覆せる状況」を作らなければならないのである。

戦力が互角ならば質で圧倒できるという自信を彼女らは持っていた。

「――奴らを生かしておくメリットは無い。ミッコ艦長、すぐに(ふね)をカナダ北部へ向かわせてちょうだい」

今後の作戦計画を練り上げたレガリアはスカーレット・ワルキューレのブリッジに上がり、ミッコ艦長へ艦を出航させるよう指示を出す。

「分かったわ、到着次第奇襲攻撃を仕掛けるというわけね」

「今回はキリシマ・ファミリーやトムキャッターズの力も貸してもらうわ。実際に作戦を実行するのは彼女らが降下してきてからよ」

総戦力の約3割とは言うが、それでもなおWUSAの秘密基地は単独でスターライガ以上の戦力を有している。

少しでも同業者の助力を仰ぎたいというレガリアの判断は非常に賢明であった。


 次の作戦はスターライガの総力を挙げたWUSAとの大一番――。

それを知ったメンバーたちは各々で準備を開始し、ウラン鉱山奪還作戦以来となる大規模作戦に向けて準備を進めていた。

当然、その中には待望の新型機投入も含まれている。

「ほう……テストでの動作試験は何回か見てきたが、機体に組み込まれた状態で見るとまた違うな」

自分専用の白いMF――XFT-210 アマテラスの動作チェックを見守りながらアンドラは感嘆の声を上げ、同機の開発に携わってきたチーフエンジニアとグータッチを交わす。

「脳波コントロールによる先進的な操縦補助システムに、それを効率良く稼働させるための装甲展開自然空冷システム――他の機体には無い複雑な機構の開発は困難の連続でした」

アマテラスの完成に達成感を得ているのはチーフエンジニアも同じだ。

彼女は「複雑な機構」の一つである装甲展開自然空冷システム――通称「A.E.S(イース)」の基礎理論を提唱し、実現困難と云われていたこの技術を組み込んだMFの開発に尽力した。

「だけど……苦労の甲斐はあった。こいつは優れた操縦性と高い運動性を両立した、次に作られるであろう第5世代MFの雛型となる機体ですよ」

その結果、180秒という時間制限付きながら従来機種を上回る運動性を発揮し得る「第4.5世代MF」として、アマテラスは実戦投入に漕ぎ着けたのである。

「日本神話の主神の名を冠する機体……こいつを乗りこなせるかは私の努力次第というわけか」

チーフエンジニアたちの努力を無駄にしないため、アンドラは必ずアマテラスをモノにすることを誓うのだった。


 投入予定の新型機はアマテラスだけではない。

同機を運用するΖ(ゼータ)小隊は「技術試験隊」というあだ名で呼ばれているが、開戦から約2か月を経てようやくその名に相応しい機体が出揃ってきた。

「――分かってる、あなたが事前に作ったマニュアルとシミュレータで扱い方は一通り覚えてきたから」

「でも、実機を見て確認することも大切よ? あなたのために作られた新型機なら尚更ね」

「……それは正論かもしれない」

紙コップ入りの紅茶を飲みながら新型機――XKR-3KK クオーレを眺めているカルディアは面倒臭そうにチーフエンジニアの説明を聞いていたが、彼女に正論を突き付けられたことで少しだけ態度を改める。

クオーレはカルディアの今の乗機が装備している武装「プロト・レーザーバスターランチャー(P-LBR)」の正式採用版にあたる「レーザーバスターランチャー(LBR)」の運用を前提とした機体であり、高火力・長射程を誇るLBRによる砲撃戦及び火力支援を重視している。

他の兵器に例えるならば装甲車に対する戦車、戦闘機に対する攻撃機のような存在と言えよう。


「見た目のイメージから想像できる通り、クオーレはこれまであなたが乗っていたスパイラルよりも遥かに鈍重な機体よ。乗りこなすためには操縦スタイルを180度引っ繰り返さないといけないかもね」

MFの機種転換――特に機体特性がガラリと変わる場合は決して容易ではない。

機種転換前は二線級の機体で活躍を見せていたのに、高性能機へ乗り換えた瞬間スランプに陥ることも決して少なくないのだ。

そこからすぐに脱出できればいいが、中には悪戦苦闘しているうちに事故や被撃墜で命を落とす者もいる。

もちろん、ピーキーな新型機を短期間で乗りこなせる天才も時折現れるので、その辺りはMFドライバーとしての才能の違いだと言えるだろう。

ライガやレガリア、サニーズは間違い無く天才の部類に属するドライバーだ。

一方、カルディアが天才か否かを断言するのは難しい。

だが……。

「この娘は私の搭乗を前提に作られた機体。もし、私が無理ならば他に誰が乗りこなせるというの?」

自分のために作られた機体ならば必ず乗りこなしてやる――。

基本的に口数が少ないカルディアであるが、その決意だけは誰にも負けていなかった。

【乗り慣れないAT車】

オリエント連邦は先進国の中では珍しくMT車の比率が非常に高い。

これは「機械に勝手に操作してほしくない」「変速ぐらい自分でできる」というプライドによるものが大きく、AT車の技術レベルが低いわけではないらしい。

ただし、純粋な意味でのマニュアルトランスミッションはほぼ絶滅しており、作中世界におけるMT車とは「手動での変速操作が必要なトランスミッション」程度の認識でしかない。


【クロプルツ】

オリエント圏の最南端に位置する小国。

隣の「シナダ民主主義人民共和国」とは民族対立などで長らくいがみ合っており、戦前は度々武力衝突を起こしていた。

合法的な出稼ぎ労働者や移住はもちろん、難民や不法移民といった形でオリエント連邦への人口流出が続いているため、近年はその問題の対処にも追われている。

なお、オリエント連邦にそのまま永住するクロプルツ人は少なからず存在し、アンドラ(両親が共に移民)のような「オリエント連邦生まれのクロプルツィア」も一定割合見受けられる。


【シャルラハロートの紅い黄金】

シャルラハロート家が緊急時のために貯蓄しているとされる隠し財産。

「紅い黄金」という呼び名は一族のシンボルカラー(深紅)に由来する。

インフレや不況の影響を受けにくい金塊や貴金属として保管されており、金庫はシャルラハロート家の現当主だけが開けることができるという。

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