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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-53】エリア51強襲(後編)

 過酷な人体実験から救い出したルナサリアン2人を担ぎつつ、レンカとグッドイヤーは誘導灯を頼りに真っ暗な通路を突き進んでいく。

「まさか、あの研究室の奥にこんな通路があったとはな……」

「知らなかったの? ここで働いているはずなのに?」

「ああ、専門外の研究室にはあまり入らないからな。原子力関連の部署なんかは部外者お断りなんてことも多い」

そんな会話を繰り広げながら通路を進んでいたその時、まるで何かを見つけたかのように突然足を止めるレンカ。

「き、急に止まらないでくれよ! どうしたんだ?」

危険な急ブレーキに右手を上げて抗議するグッドイヤーに対し、彼女は「お口にチャック」のジェスチャーをしながら進行方向を指差す。

「このまま進んだら彼らに見つかってしまうわ。ここは横の通路に隠れてやり過ごしましょう」

レンカが指し示している曲がり角の壁は、懐中電灯の光で白く照らされていた。

「(私と同じルートで進入するには、レガリアさんが押さえている入り口しかないはず。彼女がやられたとは思えないけど……)」


 一方その頃、エリア51の全戦力を相手取ることになったレガリアは圧倒的な戦闘力を発揮し、脅威となり得る相手はあらかた排除し終わっていた。

彼女の愛機バルトライヒの周りにはおびただしい量の残骸と死体が飛び散っており、「小さな地獄」とでも形容すべき凄惨な場所が出来上がっている。

「あ……悪魔だ……!」

「こ、こんなところで死にたくねぇ!」

「貴様ら! 敵前逃亡は軍法会議ものだぞ! 俺の許可があるまで下がるんじゃないッ!」

隊長の指示も空しく、完全に戦意を挫かれた兵士たちは武器を放り出しながら次々と後退していってしまう。

「中尉、これ以上の戦闘続行は困難です! 我々も一時撤退し態勢を整え直すべきかと……!」

「そんなことは言われるまでも無い!」

副隊長からの意見具申を退けると、中尉は先ほど逃げた兵士が残した対戦車用ロケットランチャーを拾い上げ、あろうことかバルトライヒの目の前で攻撃態勢に入る。

これは訓練でやったら間違い無く教官に怒られる、戦車やMFと戦う時にやってはいけない自殺行為だ。


「中尉、何やってんですか!? マズいですよ!」

「マズいことは分かってるさ! だが、あの紅い悪魔を倒すには命を懸けるしかない!」

エリア51の防衛部隊に配備されている対戦車用ロケットランチャー「SMAW」は旧式であるため、MFの装甲を絶対に貫けるという保証は無い。

逆にあっさりと弾かれる可能性すら十分ありえる。

しかし、大切な部下たちをミンチより酷い状態に変えた「紅い悪魔」を、中尉は必ず自らの手で討ち取ると決めていた。

それが……死んでいった者たちへの手向けになるのだから。

「サクソン軍曹、お前はまだ残っている連中を引き連れて下がれ。ここから先は俺一人でやる」

「中尉……!」

「悪魔を討つために差し出す命は俺の分だけでいい。軍曹……後は頼む」

「……了解」

中尉の覚悟を汲み取ったサクソン軍曹は敬礼でそれに応え、彼の指示通りまだ残っている兵士たちと共に後退を開始する。

「(どうせ死ぬんなら最前線で華々しく散りたかったが……ま、運が悪かったと思うしかねえな)」

サクソン軍曹たちがいなくなったのを確認した中尉は対戦車ロケットランチャーのセーフティを解除し、トリガーに人差し指を掛けながらバルトライヒに狙いを定めるのであった。

「来いよ悪魔! 生身の歩兵の悪あがき……侮るんじゃねえぞッ!」


 警備兵と鉢合わせする可能性を危惧したレンカたちは横の通路に入り、彼らが通過するまではそこでやり過ごすことを決める。

この通路を奥に進んでも行き止まりになっているため、今は暗闇の中で息を潜めるしかなかった。

「――今、人影が見えなかったか?」

「いや、分からん」

「そうか……とにかく、この暗闇は隠れる側に有利だ。不意打ちを食らわないよう慎重に進むぞ」

警備兵たちの話し声と足音が少しずつ近付いてくる。

レンカは万が一の場合に素早く反撃できるようハンドガンを構えつつ、敵がこのまま通り過ぎてくれることを祈っていた。

だが、現実はそう甘くない。

「何かさっきから人の気配を感じるんだよなぁ……」

「この通路か? でも、ここを進んでいっても行き止まりだぜ」

「調べてみる価値はあるだろ」

警備兵の一人は勘が鋭いらしく、レンカたちが隠れている通路をピンポイントに訝しんでいる。

これは非常にマズい状況であった。

通路の奥が行き止まりとなっている以上、更に後ろへ下がることは得策ではない。

ならば、方法はたった一つ……!

「ん? そこにいるのは――!?」

もう一人の警備兵が暗闇へ懐中電灯を向けた次の瞬間、眉間に何かを撃ち込まれた彼は糸が切れた操り人形のように崩れ落ちるのだった。


「リチャード!? クソッ、やっぱりここに隠れていやがったか!」

同僚がいとも簡単にやられたのを見た警備兵はすぐにアサルトライフルを構え、暗闇の中を面制圧するようにバースト射撃を行う。

この時、仲間の死と突然の交戦でパニック状態に陥った彼は重大なミスを犯していた。

「や、やったのか……?」

人の気配を感じなくなったが、仕留め切れたという手応えは全く無い――。

「敵は暗闇に紛れている」と思い込むあまり、前方以外への注意が疎かになっていたのだ。

「(武器を持った敵がいることは確かだ。とにかく、基地司令部に報――!?)」

通信機を取り出し基地司令部へ一連の出来事を報告しようとしたその時、この警備兵も先ほどのリチャードと同じように突然ヘッドショットを食らってしまう。

「う……うえ……だと……?」

視界が赤黒く塗り潰されていく中、彼が最期に見たのは天井のパイプに右腕だけでぶら下がっているルナサリアン――レンカの姿であった。

彼女は攻撃を受けている間に壁キックで剥き出しのパイプまでジャンプし、警備兵の死角となる位置から不安定な姿勢での射撃に成功していたのだ。


 警備兵2人の沈黙を確認したレンカは右手を放すことで地上へ戻り、グッドイヤーと合流しながら一旦床に寝かせていたエリカを担ぎ上げる。

「まるでハリウッド映画みたいだったな……あんた、一体何者なんだよ?」

「今みたいな技術が必要な組織にいた――とだけ言っておくわ」

「……特殊部隊か」

「さあ、どうでしょうね」

グッドイヤーからの指摘をはぐらかし、再び移動を開始するレンカ。

ここから先は脱出口まで一本道だ。

横道に逸れて逃げることができない以上、もし敵に遭遇したら正面から迎え撃たざるを得ないだろう。

レガリアの守りを突破してきた敵があの二人だけならいいのだが……。

「もっと早く走れるでしょ、グッドイヤー博士!」

「俺はこのスピードが精一杯だ! クソッ、この調子じゃ明日は全身筋肉痛になっちまう!」

「ほら、出口が見えてきたわよ! あともう少しで第3フェーズだから頑張って!」

レンカたちの視線の先に見えているのは、開けっ放しにされている関係者用出入口。

エリア51への侵入が第1フェーズ、グッドイヤーとの合流及びルナサリアン救出が第2フェーズ。

そして、特殊研究施設を脱出しレガリアと合流するのが第3フェーズであった。


「(勇気と無謀を履き違えたわね……生身の歩兵がMFに勝つことはできない)」

暗くて見えづらいが、深紅のMFの右手には真っ赤な血肉がこびり付いている。

これは「マニピュレータで生身の歩兵を殴り殺した」という確固たる証拠だ。

「(もうそろそろ……か)」

レガリアが愛機バルトライヒを特殊研究施設の方へ振り向かせた時、まるでタイミングを計っていたかのように関係者用出入口から二つの人影が飛び出してくる。

それを見た彼女はすぐに機体をステップ移動で関係者用出入口まで動かし、二つの人影――レンカとグッドイヤーをカバーできる位置に就く。

「レガリアさん!」

「あら、グッドイヤー博士まで連れて来ちゃったのね?」

じつを言うと、レガリアはグッドイヤーがここまで生き残ることは予想していなかった。

脱出中にどこかのタイミングでレンカを庇い、そのまま死ぬだろうと考えていたからだ。

だが、その予想を覆した彼は生きて脱出しようとしている。

「……仕方ないわね。彼はこっちの機体に乗せるから、あなたは残りの二人を頼むわよ」

祖国を裏切ってまで人道に殉ずる者を見捨てるほど、レガリアは「悪魔」ではない。

ルナサリアンたちのことをレンカに任せると、彼女はグッドイヤーに対し「こっちに乗れ」とハンドサインを送るのだった。


「げぇッ! メチャクチャ血がこびり付いてやがる……」

「私たちと共に往くのならば、それぐらいの流血沙汰には慣れてもらわないと困るわ! 血を見ることを恐れる臆病者はスターライガには必要無い!」

「うぅ……分かったよ」

血肉がこびり付いたマニピュレータに怖気づいているところをレガリアに一喝され、気乗りしないながらも彼女が操るバルトライヒの右手へとしがみ付くグッドイヤー。

ここまで来たらもう後戻りはできない。

母国アメリカを捨ててオリエント連邦へ亡命する以外、彼に生き残る道はもはや残されていない。

幸い、グッドイヤーは優れた生物学者なので亡命しても働き口は見つかるし、アメリカ側が身柄引き渡しを要求したり暗殺部隊を差し向けたとしても、有能な人材である限りはオリエント連邦政府が様々な手段を講じて庇ってくれるだろう。

仮想敵国への亡命は文字通り命懸けなのだ。


「さあ、しっかり死に物狂いで掴まってなさい! 万が一転落しても助けに行く余裕は無いからね!」

グッドイヤーが自機のマニピュレータに掴まったのを確認すると、レガリアは普段よりもかなり慎重にスロットルペダルを踏み込み、深紅のMFを星が見えないほど真っ暗な夜空へと飛翔させる。

彼女の眼下ではレンカのルーナ・レプスが既に垂直上昇を始めている一方、エリア51の防空システムは未だ沈黙状態にある。

この隙にできる限り遠くまで逃げれば、追跡される可能性を最小限に抑えられるはずだ。

「帰りはレーダー網を気にする必要は無いわ! レンカ、最短ルートでワルキューレまで戻るわよ!」

「了解!」

2機のMFは破壊工作を受けた防空システムが復旧する前に巡航態勢を整え、レーダーによる追跡が不可能な空域まで一気に突破を図る。

数分後、通報を受けた近隣基地の迎撃機がようやく上がって来たが、既にバルトライヒとルーナ・レプスは遥か彼方へ飛び去っていた。


「(親父、お袋、研究所のみんな……すまない。アメリカという国が変わらない限り、もう二度と会えないかもしれない……)」

一人だけ祖国を裏切るということは、愛する家族や友人たちとの絆を捨て去ることでもある。

当然、亡命するのであればアメリカ国籍や「トーマス・グッドイヤー」という名前すら抹消され、戸籍上は全くの別人とならなければいけない。

また、最近の亡命者は整形手術で容姿をカモフラージュするのが常套手段らしい。

仮に運良く再会できたとしても、かつて愛した人たちから認識されない可能性も十分考えられる。

故郷、家族、恋人、友人、仕事、趣味、財産――大切なモノを全て失ってしまう。

無くならないのは生物学者としての知識ぐらいだ。

「(チクショウ、後悔はしないつもりだったのに……!)」

取り返しのつかない現実を実感し始めた時、深紅のMFの機上でグッドイヤーは無意識のうちに涙を流していた。

【ステップ移動】

横跳びに相当するサイドステップの縦方向バージョン。

MFの操縦において単に「ステップ」と言う場合、すり足のように前進する動きを指す。

素早く後退する動作は「バックステップ」である。

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