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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-50】レンカの秘密

「レガリアさんからの呼び出しだって? 何かやらかしたんじゃないのかい?」

「そんな記憶は無いんだけどね……まあ、話を直接聞かないことには分からないわ。戦力外通告でなければいいんだけど」

スカーレット・ワルキューレ艦内の通路を話しながら歩いているのはテアとレンカのイナバウアー姉妹。

と言っても実際に呼び出しを受けたのはレンカだけであり、テアは目的地までのルートが途中まで同じなので付いてきているだけだ。

「んじゃ、私は医薬品の在庫管理に行ってくるから」

「ええ、また後でね」

大量の医薬品をストックしている部屋へ向かわなければならない妹を見送ると、レンカはブリーフィングルームのドアをノックする前に少しだけ考え込むのだった。

「(レガリアさんは先日オリヒメ様と密談を行ったと聞く。まさか、私の出自がバレたとでもいうの……?)」


 コンコンコン……。

「イナバウアーです。入室してよろしいでしょうか」

「どうぞ、ドアのロックは解除してあるわよ」

「失礼します」

部屋の中にいるレガリアから入室許可が出たことを確認し、ブリーフィングルームのドアを開くレンカ。

普段はライガやサニーズといった他の主要メンバーがいることも多いのだが、今回は何故かレガリアだけがタブレット端末を見ながら待っていた。

最高責任者との1対1での話し合いほど恐ろしいモノは無い。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ。別にあなたを叱責するために呼び出したわけじゃないから。まあ、その辺の椅子に適当に座ってちょうだい」

「え、ええ……すみません」

あまり関わることが無い上司にそう促され、軽く一礼しながらレンカは腰を下ろす。

リラックスしろと言われると余計に緊張してしまうのは彼女だけだろうか。

「それじゃあ、突然だけどブリーフィングを始めましょう」

「へ?」

未だ状況が呑み込めていないレンカの生返事をスルーしつつ、レガリアは自身のタブレット端末の画面を見せながら突然ブリーフィングを開始するのであった。


 レンカ、遅くなったけどあなたを呼び出した理由を説明するわね。

……「エリア51」という場所について知っているかしら?

正式名称は「グルーム・レイク空軍基地」と呼ばれる、UFOやエイリアンの都市伝説で有名なアメリカ軍の軍事施設ね。

そういうオカルトも多少は気になるけど……でも、私たちが調べようとしているのはもっと「ブラック」な内容なの。

これを見てちょうだい。

先日、我々のところに「信頼できる情報筋」から送られてきたエリア51の内部事情に関するデータよ。

そのデータによると、エリア51では捕虜にしたルナサリアンを人体解剖や生体実験に供しているらしいの。

ここまで言えば何のためにブリーフィングを始めたのか分かったでしょう?

我々スターライガは敵味方の垣根を超え、非人道的な扱いを受けているルナサリアンの救出に当たります!


 アメリカ軍の中でも特に秘匿性が高いエリア51への接近は困難を極めるわ。

普通に近付いてもレーダー網で捕捉され、警告を受けて追い返されるのがオチでしょうね。

基地施設へ向かうためには何かしらの方法で「目潰し」しなければならないけど、私たちだけでエリア51の防衛体制を無力化するのは不可能だと断言できる。

……逆に言えば、エリア51の構造に精通している人たちの力を借りれば何とかなるかもしれないということよ。

幸い、アメリカ軍内部には遺恨を残しかねない捕虜虐待の実態を明かそうと努力している人たちがいる。

彼らはエリア51の不透明性についても戦前から懸念を示していた勢力で、私からの協力要請には渋々ながらも応じてくれたわ。

え? 大金を積んでアメリカ軍の高級将校を買収したのかって?

フフッ……アメリカの国益に損害を与えることになる以上、その分の「お詫び」はしっかり支払っておかないといけないからね。


 それはともかく、アメリカ軍の偉い人たちと取引したことで協力の約束を取り付けたのは事実よ。

彼らの伝手を利用してエリア51のスケジュールに「嘘のレーダーシステムメンテナンス作業」を割り込ませ、メンテナンス作業という名目でレーダーシステムを完全に停止させる。

私たちはその僅かな時間を突いてエリア51へ侵入。

情報提供者の一人である生物学者トーマス・グッドイヤー博士と施設内で合流し、まだ生きている捕虜の身柄を確保した(のち)、可及的速やかに戦域から離脱。

母艦への帰艦及び捕虜のメディカルチームへの引き渡しを以って作戦終了と見做します。

作戦決行は3日後の0時ちょうどを予定しているわ。

今回の出撃メンバーは私とあなたに加えて、バックアップとしてライガを据えているからそのつもりで。

あなたと二人きりで出撃するのは初めてだけど……まあ、大丈夫でしょう?

ブリーフィングはこれで以上です。

これまで説明した内容について何か質問は?


 レガリアがそう尋ねたところでレンカはそっと右手を上げる。

「うん? 何かしら?」

「あの……こういうことを聞いたら怒られるかもしれませんが、どうして私を出撃メンバーに選んだのですか? ライガさんとかサニーズさんとか、もっと腕利きで付き合いも長い人たちがいるのに……」

レンカの疑問はもっともだ。

彼女のMFドライバーとしての実力は決して低くないが、レガリアやライガといったスーパーエースたちには僅かながら及ばない。

あえて比較するなら、オロルクリフ3姉妹やラヴェンツァリ姉妹といった経験豊富な古参メンバーと同レベルと言ったところだろうか。

しかも、彼女らはレガリアと30年来の付き合いがある気心の知れた戦友なのに対し、十数年前にスターライガ入りしたばかりのレンカは未だによく分からないことが多い。

ライガとレガリアの戦友という枠を超えた信頼関係や、ラヴェンツァリ姉妹が打倒ライラックに拘る理由など、新参者が踏み込めない領域がある点において「高い壁」のようなモノを感じていた。

「そうね……」

直接指揮下に入れたことの無いレンカをあえてパートナーに選んだ、レガリアの真意は一体……。


「深い理由は無いのよ。ただ……」

この人選は何かを意味するわけではないと遠回しに語るレガリア。

だが、その発言がオブラートであることは誰の目に見ても明白だ。

明確な目的があっての人選だとレンカは察していた。

おそらく、この人は私の出自を薄々勘付いている――と。

「……あなたをこの作戦に出すべきだと判断したまでよ。ルナサリアンからリスペクトを得るための第一歩としてね。レンカ "は" ルナサリアンが痛めつけられていると聞いたら黙っていられないでしょ?」

「データは拝見しました。彼女らが受けているかもしれない(はずかし)めについて、同じ女として思うところはありますが……」

自らの正体が露呈するのを避けるため、当たり障りの無い落ち着いた受け答えに終始するレンカ。

動揺を見せたらそれこそ相手の思う壺だ。

「とにかく、詳細な作戦内容のデータは後であなたの担当エンジニアにも渡しておくから、内容を確認次第機体の準備に入ってちょうだい」

そして、レガリアは最後に微笑みながら次のように告げる。

「心配しないで。いつでもあなたのカバーに入れるよう、しっかり見ていてあげるからね……」

その言葉を聞いた瞬間、レンカは背筋が凍りつきそうなほどの寒気を感じるのであった。


 ブリーフィング終了から十数分後、この時間帯は利用者が少ないシャワールームにレンカはいた。

緊張感からか無意識のうちに汗をかいており、一旦気持ちを落ち着かせたいと考えたからだ。

スカーレット・ワルキューレ艦内の居住区は22℃前後と冷房がかなり効いているため、その程度の室温で冷や汗が出るというのは相当のことであった。

「(個人的には上手く立ち回ってきたつもりだけど、100年生きているオバサンの目は誤魔化せなかったというわけね……)」

少しぬるめのシャワーを浴びながら自らが置かれている状況を振り返るレンカ。

表向きの姿は「オリエント国防陸軍の特殊部隊出身」という経歴を引っ提げてスターライガ入りしたMF乗り。

しかし、本当の姿はルナサリアンの諜報機関に所属する特殊工作員「ホシヅキ・レンカ」なのだ。

今から25年前、彼女は地球へ亡命した2人のルナサリアンを抹殺するべく蒼い星へとやって来た。

「(あの頃の私はたった一人の妹を養うため懸命に働いていた。でも、両親の死の真相を知ったことで私は……!)」

レンカの両親は月の貴族を護り抜くことを仕事とする衛兵であった。

彼女が尊敬していた両親は15歳の時、護衛任務中に味方の叛乱(はんらん)から主を守るために命を落としたという。

両親の死後、保護者となってくれた人物はそう言っていたが……真相は全く異なっていた。


「この忙しい時期に困ったわねぇ……」

「どうしたんだ? また主任に仕事を押し付けられたのか?」

エリア51内の特殊研究施設で働く研究員たちは悩んでいた。

横暴な生物研究科主任に悩まされているのはいつものことだが、それ以上に面倒な予定が急遽入ってしまったからだ。

「知らないのトム博士? 8日の夜中にレーダーシステムの緊急メンテナンスを行うことになったから、その間特殊研究施設の職員は居住区に待機せよ――って今朝言われたでしょ?」

「あれ? 9日じゃなかったっけ?」

頭を掻きながらとぼけるトム――トーマス・グッドイヤー博士に対し、彼よりも少し若い頭脳明晰な黒人女性博士は思わず呆れてしまう。

「はぁ……まあいいですけど。とにかく、色々な研究プロジェクトを進めないといけないこの時期に仕事ができないのはキツイわ」

「ああ、それを分かっているはずなのに予定を変えた主任の判断は大したものだぜ」

人望が無い主任の悪口を皮肉交じりに言い合った後、二人の研究者はそれぞれの仕事部屋へと戻っていく。

「(申し訳ないが、スケジュール変更をやらせたのは俺だ。たとえ『非国民』と(ののし)られようと俺は……!)」

女性博士を見送ると、グッドイヤーはもう一つの姿――「ルナサリアンとの内通者」として行動を開始するのだった。

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