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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-41】予定外の作戦行動(前編)

「ん? 何だあの光……?」

防衛施設の指令室で戦いを見守っていた基地司令は闇夜を切り裂く蒼い光に気付き、その正体を確認するべく窓の方へと近付く。

「……!? 艦砲射撃だッ! 総員退避――!」

それが、全てを呑み込む破滅の光だとも知らずに……。


「こ、これで本当に70%……? ここまで強烈だとは思ってなかったわ……」

破滅の光――ジェネレーター直結式腹部内蔵型レーザーキャノン「オフィクレイド」がもたらした被害を目の当たりにし、メルリンは愛機ユーフォニアムが隠し持っていた力に思わず戦慄する。

彼女は無意識のうちに操縦桿から手を放しており、しばらくは震えが収まらなかった。

レーザーが通った部分だけ雪が完全に融けて地表が露出し、白い湯気がもうもうと立ち込めている。

また、高熱源体が大気を切り裂いていったためか、ユーフォニアムの周辺だけは天候が吹雪から(みぞれ)へと変化していた。

もし、フルパワーで撃っていたらどうなっていたことか――。

メルリンは大きく首を横に振り、その光景を想像することを放棄していた。

「(知らなかったのよ……5mぐらいの機動兵器に収まるレーザーキャノンが、戦術核兵器並みの破壊力を持っていたなんて……!)」


 大気による減衰を無視できるほどの威力を発揮した「オフィクレイド」のレーザーは複数の敵機を文字通り消滅させ、たまたま射線上に入っていた防衛施設も巻き込んで完全破壊に成功。

だが、それだけでは減衰し切れずラビットレイク鉱山の一部まで貫通するという二次被害が生じていた。

光学兵器と相性が悪い悪天候下ですらこの射程と破壊力なので、エネルギーが減衰しにくい宇宙空間ならば更に遠くまで飛んでいただろう。

「敵の通信が完全に途絶えたな……今の一撃で誰もいなくなったのか」

先ほどまで傍受していた通信が途絶したことを確認し、機上レーダーにも反応が無いことと合わせて敵は全滅したと判断するルナール。

スターライガしか動くモノがいないこの戦場は、不気味なまでに静かであった。

「ストラディヴァリウスよりユーフォニアム、機体の調子はどうだ? 異常があったらすぐに報告してくれ」

「うーん……何かエラーメッセージが出てるんだけど、原因が分からないんだよね。一度OSを再起動してみるから、その間の周辺警戒をよろしく」

「お前にしては珍しく元気が無いな……大丈夫か、メルリン?」

「そうね……今はあまり明るく振舞えないかもね」

機体の調子と同時に自らの精神状態も気遣ってくれる姉に対し、メルリンは無理に笑顔を作りながらこう答えるのだった。


「――何だって? クソッ、腰抜けカナディアンどもめ……ああ、了解した。少し用事を済ませてから帰艦する」

スカーレット・ワルキューレのCIC(戦闘指揮所)から報告を受けたライガは少しだけ顔をしかめつつ、「まだやり残していることがある」とオペレーターに伝えながら通信を終える。

本当はこんな寒くて暗い雪原に居残る理由など無いのだが、彼はどうしても気になることがあったのだ。

「どうした、ライガ? CICからの連絡か?」

「ええ、採掘施設奪還のためにエアボーンを決行する予定だったカナダ軍が、悪天候を理由に作戦中止を申し出てきたそうです」

無線で話し込んでいる様子に気が付き声を掛けてきたルナールに対し、通信内容についての大まかな説明でそれに答えるライガ。

降下予定地点が見えずパラシュート降下を行うには危険な状況であることは否定できないが、それだと空挺部隊のためにわざわざ過酷な戦場へ赴いたスターライガの行動は無駄になってしまう。

……何の成果も得られないまま撤退することはライガのプライドが許さなかった。


「パルトナより全機、聞いてくれ! カナダ軍が怖気(おじけ)付いたから作戦はここで中止――と言いたいところだが、俺個人としてはルナサリアンが作った防衛施設を調べてから帰りたい。もちろん、これはあくまでも俺の独断専行である以上、必ずしも俺の指示に従う必要は無い」

防衛施設には何かしらの重要資料があるかもしれない――。

そう睨んでいたライガは調査のために独断で動くことをα(アルファ)及びε(エプシロン)両小隊へと伝える。

これはブリーフィングでは説明されていない、彼の仲間たちから見れば予定外の行動だ。

ライガ自身でさえ予測が付かない状況である以上、仲間を巻き込むわけにはいかなかった。

「ここからは俺一人でやるから、みんなは先に帰艦してくれて構わない。あ……ミッコ艦長やレガリアに詰め寄られた時は、適当な言い訳で誤魔化しておいてくれ」

後はルナールが一時的に指揮権を引き継ぎ、全員を無事に連れ帰ってくれるだろう。

「どうする? ここはライガに任せて、私たちは先に帰ってしまうか?」

「ルナール姉さんは残るつもりなんだろ? だったら私も残る」

「フッ、世話の焼ける妹だ! 長女である私が見張っておかないとな!」

だが、ライガの希望を裏切るようにルナールとリリカは居残ると言い出し、他の面々も彼の指示に従うつもりは無さそうであった。


 彼女らの気持ちは大変ありがたいが、かと言って作戦計画では想定されていない危険な状況へ連れて行くわけにはいかない。

「これは俺が勝手にやることだ! 取り巻きがいても邪魔なだけだ! さっさとワルキューレに戻れッ!」

あえて心を鬼にし、普段とは全く異なる強い口調で母艦へ戻るよう命令するライガ。

一見すると本気で怒っているように聞こえるが、彼との付き合いが長いラヴェンツァリ姉妹やオロルクリフ3姉妹には全く通用せず、逆にらしくない演技で突き放そうとしていることがバレてしまう結果となった。

「戻らないよ! だって……ライガについていったほうが生き残れる確率があがるから!」

「姉さんの言う通りね。あなたは敵にとっては死神かもしれないけど、私たちの頭上に死を降り注がせたことは一度も無かった」

リリーとサレナは「絶対に最後までライガについていく」という決意を既に固めており、母親譲りの頑固さで知られるこの姉妹はどう説得しても翻意(ほんい)してくれそうにはなかった。


「はぁー……何を言っても無駄か。分かった分かった、こうなったらみんなで防衛施設の瓦礫(がれき)(あさ)ろうじゃないか」

オロルクリフ3姉妹も言うことを聞いてくれる気配ではないため、説得を断念したライガは仲間たちを連れた状態で敵施設の調査に入ることを決める。

ただし、簡単な調査なのでそこまでの大人数は必要無い。

「クローネ、レカミエ、お前たちは先に戻れ。まだ30にもなってない若者を危険な目に遭わせたくはないからな」

α及びε小隊のメンバーたちの中でも特に若いクローネ(22歳)とレカミエ(28歳)に対し、彼女らの年齢を考慮して先に帰艦するよう促すライガ。

「なぜですか!? リリーさんたちが残るというのなら、私だけが撤退するわけにはいきません!」

「落ち着くんだ、クローネ。ライガさんはお前のことを気遣っているんだよ」

「だけど……!」

当然、責任感が強いクローネはα小隊で自分だけが撤退させられそうなことに反発するが、ライガの意図を汲み取ったレカミエは後輩のスパイラルC型の肩を掴みながらそれを(たしな)める。

一定の若さと成熟度を併せ持つアラサーのレカミエは、若手とベテランの間を取り持つ「ミッドフィールダー」としては最適な人材であった。


「若い頃は結果を出したくて無理する気持ちもよく分かる。私も前の職場で新入社員だった頃はそんな感じだったからな」

自らの人生経験――今は無きMFメーカーでテストドライバーとして働いていた時の話を交えつつ、クローネの心情にも6歳年上の先輩として理解を示すレカミエ。

「……だが、私たちオリエント人は100年以上の時を生きるんだ。20代のうちに無理をしすぎても疲れるだけだし、私よりも才能に満ち溢れているお前にはこれからもチャンスが訪れるだろう。今はライガさんの言うことを素直に聞いておくべきだと思うぞ」

「……」

「もちろん、人の生き方に指図できるほど偉い奴なんて存在しない。お前がハードワークに()えられると自覚しているのなら、他人から見て血が(にじ)むような努力をしてもいいだろう。もっとも……それで心身をダメにしても責任は持てないがな」

だからこそ、成人したばかりの若者に限界を超えた無理はしてほしくないと考えていたのだ。

天才肌のクローネに凡人のアドバイスが通じるかは分からないが……。

「……母が苦労してきた姿を見ながら育ったからかもしれません。彼女は高校生だった時に経営破綻寸前の家業を突然押し付けられ、独学でビジネスを勉強しながら会社を立て直したんです」

凡人を自称するレカミエのアドバイスを素直に受け入れ、自身が結果に拘る理由を語り始めるクローネ。

「人一倍の努力でどん底から這い上がった母を尊敬しているから、私も彼女のように『努力する人』になりたいの」

そこには母親に対する尊敬――そして、「結果を出すことで実力を認められたい」という願いが込められていた。


「でも……今日は退きます。体調管理もMF乗りの仕事の一つ――ですよね、ライガさん?」

「やっと分かってくれたか……! ったく、一癖も二癖もある若手だよお前は。でも……そのほうが鍛え甲斐があるってもんだ」

クローネがようやく撤退命令に従ってくれたことに安堵し、彼女の説得に貢献してくれたレカミエと共に帰艦するよう改めて命ずるライガ。

「子守りを押し付けるようで悪いな。その代わり、次の査定では昇給できるよう俺が推薦しておいてやるよ」

「ありがとう、ライガさん。国に帰ったら家族のために使ってあげるつもりです」

「俺もこう見えて所帯持ちだからな! 家族思いな奴を見てると何かしてあげたくなるのさ」

レカミエとクローネの機体が吹雪の中に消えるのを見届け、ライガは戦場に残っている面子――ラヴェンツァリ姉妹とオロルクリフ3姉妹に対し焼け落ちた施設の調査を指示するのだった。

「みんな、火事場泥棒の時間だ! 目ぼしい機密資料を見つけたらとりあえず持ち去れ! ルナサリアンだって占領地から色々盗んでいるんだ。俺たちが少しぐらいやり返してもバチは当たるまい」

この時、ライガはわりと軽い気持ちで発言していた。

まさか……この発言がやがて現実のものとなり、何十年にも(わた)って(くすぶ)り続ける怨恨(えんこん)になるとは誰も予想できなかったのだ。


 真っ黒焦げになった防衛施設の焼け跡へ降り立ち、判別できる物を自らの手でとにかく掻き集めていくライガとオロルクリフ3姉妹。

ラヴェンツァリ姉妹は機体に搭乗したまま周辺警戒を行っており、敵増援が現れた時は彼女たちに1分ほど時間稼ぎを任せなければならない。

「(こいつはひでぇ……まるで核爆弾が落ちた後みたいだ)」

そんなことを考えながら焼け跡を歩いていた時、ライガは足元に不自然な――妙に生々しい感覚を抱く。

足元を見下ろすのは嫌だったが、好奇心に負けた彼はついつい視線を下に向けてしまう。

「……!?」

ライガが知らず知らずのうちに踏んでいた「何か」の正体――。

「まあ、そうなるよな……」


 それは……真っ黒に炭化した人間の腕であった。

【大気による減衰】

レーザーは大気の影響を受けやすく、雨や大気汚染物質といった不純物が多いと威力及び射程が低下する。

水中に対しては基本的に攻撃できないため、MFは潜航中の潜水艦などには手も足も出ない。

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