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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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122/400

【MOD-39】暗夜吹雪(前編)

Date:2132/04/28

Time:20:30(UTC-6)

Location:Saskatchewan,Canada

Operation Name:FOUR HORSEMEN

 4月28日午後8時30分――。

この時期のカナダ・サスカチュワン州は春の訪れを迎えていてもいいはずだが、不幸にもスターライガは季節外れのブリザードの中で作戦を遂行するハメになってしまった。

日没後の暗さと猛吹雪のせいで視界は限り無く悪く、MF部隊の面々はHIS上のレーダー画面と航空計器を頼りに戦場まで向かわなければならない。

長らくMFに乗っているベテラン勢はともかく、経験が浅いクローネやランにとってはかなりチャレンジングな状況であった。

「ブリザード、全然収まらないね……」

「今夜から明日に掛けてはずっとこの調子だってさ。こんなところでベイルアウトは絶対にしたくないわ」

「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでよ……!」

不安を和らげるためにランとクローネが言葉を交わしていると、編隊の先頭を飛んでいるサニーズがその会話に加わってくる。

当然だが、彼女の目的は若者たちの会話に混じることではない。

「小娘ども、朝の会の時間だぞ。お喋りをやめて戦闘準備に入れ。もうそろそろ作戦目標となる鉱山が見えて――いや、このブリザードじゃ目視確認は困難か」

若い連中を静かにさせたのは良いが、数キロ先の地形すら目視できない状況に今更ながら気付くサニーズ。

だが、暗夜と猛吹雪の先に作戦目標のウラン鉱山――ラビットレイク鉱山は確かに存在していた。


「司令! 当基地の対空電探が複数の所属不明機を捕捉しました!」

「防空網はもっと遠方から敷いていたはずでしょう? 電探車両は何をやっていたの?」

「それが……電探の有効範囲の僅かな隙間を縫って来たみたいなんです」

その報告を受けたラビットレイク鉱山防衛基地の司令官は採掘施設から接収したコーヒーを飲み干し、すぐに基地の全職員及び防衛部隊に戦闘態勢への以降を命ずる。

ラビットレイク鉱山はルナサリアンの北アメリカ占領政策において重要な場所――。

ここの再奪還は何としても避けなければならなかった。

「サキモリと無人戦闘機を全て離陸させろ! 対空車両も出せる限り出せ!」

一通りの指示を出し終え、指令室の席に腰を下ろす基地司令。

開発が進んでいる月面よりも過酷な環境にあるこの基地は省力化が図られており、指令室からの遠隔操作及び自律行動が可能な無人兵器が大量に配備されている。

サキモリは防衛戦力の中では数少ない有人兵器であるが、それに乗っているのは「普通の人間」ではないという。

「(本国が寄越してきた『バイオロイド』とかいう人造人間。資料によれば単独で1個小隊並みの戦闘力を有しているらしいわね。まあ……お手並み拝見といきましょうか)」

本国からやって来た輸送部隊の報告を思い出しつつ、基地司令は所属不明機(スターライガ)たちを迎え撃つ準備を始めるのだった。


「(混線? ルナサリアンの連中、何を話しているんだ……?)」

スターライガでの仕事が無い時はヴァイオリニストとして活動しているだけあり、ルナールは混線で傍受した無線から相手の状況を把握できる聴覚を持っていた。

操縦ミスを犯さないよう気を付けつつ、彼女は敵の無線の一言一句や環境音に注意を払う。

「(何やら騒がしいようだな……いや、待て――どこからかE-OSドライヴの駆動音が漏れている?)」

音質はノイズ混じりでお世辞にも良いとは言えないが、それでもルナールの聴覚を以ってすれば敵方の動向をある程度予測することはできた。

「みんな、気を付けろ! 敵機が迎撃に上がって来るぞ!」

「もう分かってますよ、先輩! メインスラスターの光が複数見えている!」

人生の先輩である彼女の報告にそう切り返しつつ、自身が率いるα(アルファ)小隊各機にハンドサインで指示を送るライガ。

「敵機は対空装備の俺たちが引き受ける! α各機、火器管制システムのセーフティ解除! 一機も撃ち漏らすな!」

「フルールドゥリス、了解!」

「クリノス、了解」

「こちらクイックシルバー、了解」

彼の合図と同時にリリー、サレナ、クローネは火器管制システムを操作し、敵機との戦闘態勢へ移行する。

対MF用装備を持って来ている彼らα小隊の仕事は、迎撃に上がって来る敵機を返り討ちにすることだ。


 一方、対地装備を満載してきたε(エプシロン)小隊は防衛施設の攻撃に集中しなければならない。

サキモリとも戦えないことは無いが、対地装備で機体が重くなっていることを考えるとドッグファイトは避けるべきであった。

対地対空をマルチタスクにこなすのはサニーズ率いるγ(ガンマ)小隊へ任せればいい。

「まずは対空砲火とサーチライトを黙らせる! あちらからは狙えない地上を滑走しながら仕掛けるぞ!」

ルナールの指示を受けたε各機は高度を落とし、雪煙を上げながらホバー移動で地表を駆ける。

対空兵器と同じぐらいの高さにいれば、少なくとも地対空ミサイルや高射砲に狙われる可能性はグッと低下する。

また、サーチライトの直接照射による目晦(めくら)ましも結構厄介なため、可能であればそれも潰しておいたほうが良い。

「機関砲の弾幕には気を付けて! あれは水平射撃で撃ってくるわよ!」

ただし、メルリンが警告している機関砲は例外だ。

空中の敵を狙うために作られている他の対空兵器とは異なり、仰角(ぎょうかく)0度でも発射可能な機関砲は地上目標を攻撃することができる。

その中に地上を歩けるMFも含まれていることは言うまでも無かった。


「いくら高性能な照準装置を持っていたとしても、単純な水平射撃なら当たりはしない!」

雪景色を切り裂くように飛んで来る曳光弾(えいこうだん)をかわしつつ、リリカのベーゼンドルファーは無反動砲で対空兵器を次々と潰していく。

パルトナ・メガミの派生型として試製オールレンジ攻撃端末「オルファン」の試験運用を目的に開発されたベーゼンドルファーだが、純粋な戦闘用MFとしても極めて優秀な性能を誇っている。

そのため、「オルファン」の実用化ないし試験中止後は更なる改修案が計画されていた。

「リリカさん! 6時方向に敵機!」

「後ろか……ならば!」

近くで戦っているレカミエの切迫した警告を受け、左操縦桿の赤いボタンを押し込むリリカ。

このボタンを押している間は機体側の音声操作システムが起動し、彼女が特定の単語を口に出すことで「オルファン」の動きを制御できるのだ。

「行けッ、『オルファン』!」

例えば、「行け!」と叫ぶと攻撃端末がベーゼンドルファーのバックパックから分離し、機体の周囲を漂う待機状態に移行する。

「後ろの敵を狙い撃て!」

次に、対象を指定することで攻撃端末をそちらの方に向かせ、いつでもレーザーを撃てるよう待機させておく。

リリカの言葉の中に「撃て」という単語が含まれているが、他の単語と繋がっているのでこれだけでは攻撃できない。

分離・追従・照準・再接続は多少アバウトな言葉選びでも反応するようになっている一方、攻撃だけは誤射を避けるため判定を意図的にシビアにしているのだ。


 ベーゼンドルファーの「オルファン」が実際にレーザーを撃つには、2つの条件を満たさなければならない。

一つは「搭乗者及び発声者がリリカ・オロルクリフである」こと。

スターライガはMFとドライバーの組み合わせを1対1で紐づけているため、何かしらの理由でそれを崩すことはイレギュラーな運用だと見做される。

特定個人の搭乗を前提とした機体は「イレギュラー運用」を行う際の制約が特に厳しくなっており、ベーゼンドルファーの場合は主兵装の「オルファン」封印やリミッター作動といった制限が科せられる。

柔軟な運用が難しいため一部で不評なこのシステムだが、機体の持ち逃げや鹵獲(ろかく)時の解析を防ぐ際に役立つ……かもしれなかった。

そして、もう一つの条件にして事実上のトリガーとなるのが「『撃て』という単語を使用する」ことだ。

音声認識の判定が非常にシビアなため、ただ発声するだけでは上手く反応してくれないことがある。

明瞭な発音、適当な声量、正しいアクセント――。

これらを全て満たした時、「オルファン」は初めて音声操作に応えてくれるのだ。

「撃てッ!」

リリカが叫んだ次の瞬間、母機の背後に展開していた4基の攻撃端末が一斉に蒼いレーザーを放つ。

彼女に不意打ちを仕掛けようとしていた敵機――白い塗装のツクヨミはその攻撃を避け切れず、全身に被弾し火の塊となってしまう。

「これがオールレンジ攻撃の神髄というヤツか……!」

流れるような動作を見たレカミエが感嘆している中、リリカのベーゼンドルファーは「オルファン」をバックパックに戻す。

「(くッ、『オルファン』の調子がどうにも良くない。凍結対策が甘かったのかもしれん)」

だが、周囲の反応とは裏腹にリリカは「オルファン」の動きに少なからず不満を抱いていた。


 一方その頃、対MF装備で作戦に臨んでいるα小隊は迎撃部隊と激しい戦いを繰り広げていた。

「クローネ! 後ろに無人戦闘機が!」

「分かってますけど……こいつら、AIのくせにしつこすぎる!」

無人戦闘機に追いかけ回されているクローネのスパイラルC型の姿を見かね、別の敵機を倒した直後で手が空いていたサレナはすぐに後輩のカバーへ入る。

「そのまま……もう少しだけ敵機を引き付けて!」

愛機クリノスのために今回から配備された長銃身3連装レーザーライフル「ブラックリリー」を構え、HIS上のレティクルと敵影が重なる時を辛抱強く待ち続けるサレナ。

HISやヘルメットがある程度補正してくれるとはいえ、鉱山上空は宵闇(よいやみ)と猛吹雪のせいで視界はゼロに近い。

クローネを助けるためには早くトリガーを引きたいが、敵味方を見間違えて同士討ちしたら元も子もないからだ。

「……今だ! クリノス、ファイアッ!」

次の瞬間、必中のタイミングを見つけたサレナは考えるよりも先に操縦桿のトリガーを引く。

3つの銃口を有する「ブラックリリー」から放たれた蒼いレーザーは無人戦闘機を容赦無く焼き払い、火の塊さえ残さないほどの破壊力を見せつける。

「クローネ、大丈夫?」

「助かりました……はぁ、次からは気を付けます」

心配するサレナからの問い掛けに対し、ため息を()きながら自らの力不足を詫びるクローネ。

一人でも十分すぎるほど強いライガの頑張りで敵機はそこそこ減っているが、カナダ軍の空挺部隊を歓迎するにはまだまだ掃除が足りない。

「ピンチになったら私や姉さんやライガに頼りなさい。おそらく誰かが駆けつけてくれると思うから」

「ええ、だけど……可能な限り自力で何とかしてみせます。いつまでも新人をやってるわけにはいきませんから」

敵戦力の更なる掃討を図るため、サレナとクローネは引き続き戦闘を継続するのだった。


「貴様ら……まさか、こんなところで再会するとはな……!」

白いツクヨミと相対しているのはサニーズのシルフシュヴァリエ。

その後ろには右脚を吹き飛ばされ擱座(かくざ)している、チルドのスーパースティーリアの姿があった。

「チックショー、このあたしがツクヨミ相手に不覚を取るなんて!」

肝心のチルドは悪態を吐きながら固定武装で応戦しているため、サニーズが定期的に援護すれば何ら問題無さそうだ。

とはいえ、経験だけは豊富なチルドを翻弄するような相手である。

これまで彼女らが戦ってきたツクヨミとは明らかにレベルが違うらしい。

無人機を彷彿とさせる正確無比な戦闘機動――。

そういう戦い方ができる相手をサニーズは知っていた。

「バイオロイド! ルナサリアンに(くみ)しているとはさすがに驚いたぞ」

ルナサリアンの正式な迷彩パターンとは異なる、無機質な白に彩られたツクヨミを操っているのは人工生命体「バイオロイド」。

今から約30年前、ラヴェンツァリ姉妹の母親ライラックが人類滅亡作戦の尖兵として創り上げた人造人間だ。


「(30年前、ライガとリリーは全ての元凶であるライラック博士を取り逃がしたと言っていた。しかし……まさか、このタイミングでそのツケが返ってくるとはな)」

バイオロイド事件の最終決戦でライラックと直接戦ったのはライガとリリーだけであり、サニーズは間接的にしか戦いの顛末(てんまつ)を知らない。

あの戦いが終わってから数年間はライラックの「逆襲」を警戒していたが、30年も経った今では彼女が生き延びていると考える者はほとんどいなくなり、スターライガもバイオロイドのみならず様々な相手と戦うプライベーターとして方針転換を図った。

……だが、ライラック以外は製造できないとされるバイオロイドが戦場にいるということは、つまりは「そういうこと」なのだろう。

「ロサノヴァ、ラン! 集合してチルドの奴をカバーしてくれ!」

「母さんがどうかしたの?」

「ああ、膝にレーザーを受けて擱座している。ここは一つ、親孝行だと思って撤退を手伝ってくれないか?」

α小隊と戦っていない敵機がどんどん集まってくる中、僚機を集結させチルドの護衛退避を試みるサニーズ。

もちろん、その前に敵を減らし退路を切り拓かなければならない。

「さて……30年の間にどれだけ改良されたか見せてもらうぞ、バイオロイドどもめ!」

愛妻の護衛を娘と新人に任せ、サニーズはスロットルペダルを思いっ切り踏み込むのであった。

【パルトナ・メガミの派生型】

パルトナ・メガミとベーゼンドルファーは同系統の機体フレームを採用しているため、両機の関係は例えるなら従姉妹に近い。

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