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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-27】危険なエスコート(後編)

「(随分と焦り気味な回避運動だな……あいつ、このままだと失速して墜落するぞ)」

捕捉している敵機の冷静さを欠いた操縦を目の当たりにし、手を下さずとも自滅するだろうと予想するレカミエ。

外部から観察すれば速度低下が(いちじる)しいことは丸分かりなのだが、敵機のドライバーはE-M理論を考える暇が無いほど追い詰められているらしい。

そして、その時はすぐにやって来る。

「ハンニャ、機体が失速気味だぞ! すぐに立て直せ!」

「ダメだ……速度が回復しない! た、助けてくれッ!!」

ハンニャと呼ばれたドライバーのスパイラルB型は錐揉み状態に陥り、制御不能となりながら見る見るうちに急降下していく。

「ベイルアウトだ、ベイルアウト! その姿勢で射出ハンドルを引けるか!?」

ハンニャの僚機は機体を捨てて脱出するよう促すが、彼からの応答が無いままスパイラルB型は地面へと叩き付けられてしまう。

墜落の衝撃によって機体は爆発炎上し、空き地には相応の規模のクレーターが穿(うが)たれていた。

「(機体が不安定な時こそ冷静に操縦桿を握らないとな。さもなくば、機体に翻弄されたまま死ぬことになるぞ)」

自滅という無様な死に方をした敵機に対し、レカミエは心の中で憐れみを抱くしかなかった。


 たった一人だけ生き残ったWUSA(ウユーザ)のドライバーは考える。

「(こっちは一個航空団規模で攻め入ったのに、1時間も経たずに壊滅とはな……クソッ、俺以外に戦える奴はもういねえのか)」

今回のエレブルー首脳会談を妨害するため、WUSAはアイスランド支部に所属する計32機のMFを全力出撃させた。

本部へ更なる援軍を要請することもできたが、アイスランド支部長は「スウェーデン軍に対する裏工作は成果を挙げている」としてそれを行わなかった。

……その慢心の結果がこれである。

実際にはスウェーデン軍の内部協力者が逮捕されたことで裏工作は失敗しており、WUSAはスウェーデン軍及びスターライガの双方を相手取らないといけなくなったのだ。

当然、そのような状況下では「『要人A』の暗殺」という作戦目標に集中できるはずが無く、圧倒的な戦力差を前にWUSAのMF部隊は壊滅。

何かを得るどころかほぼ全てを失うという、最悪の結果に終わったのであった。

「(これ以上やっても無駄か……ここは撤退してお偉いさん方に報告すべきだな)」

スターライガによる包囲網が形成されていく中、この男が取った決断とは……。


 スパイラルB型を駆る男はスロットルペダルを思いっ切り踏み抜き、最大推力で戦闘空域からの離脱を試みる。

「敗北者が……背を向けて逃げる奴に容赦はせん!」

それを見たルナールのストラディヴァリウスはレーザーライフルで追撃を行うが、彼女の射撃技術では命中弾を与えることはできなかった。

「振り切られたか……まあいい、どうせ帰ったところで厳しい処分を食らうんだ」

「うへぇ、ブラック企業って大変だねえ……私はよく分かんないけど」

「WUSAはそういう企業体質なのさ」

ε(エプシロン)小隊の僚機たちと合流し、メルリンに向かってそう告げるルナール。

WUSAのブラック企業的体質は業界内でも有名であり、本拠地を置いているアメリカから再三に亘り改善命令が出ているほどだ。

にもかかわらず、WUSAの労働環境は改善の(きざ)しを見せないばかりか、仕事の受注件数はむしろ増加傾向にある――。

これはWUSA上層部とアメリカ政府が癒着(ゆちゃく)しているからに他ならない。

「もしかしたら、今回の戦争のどさくさに紛れて奴らとの決着も付くかもな」

「ああ……30年来の因縁はもうそろそろ終わりだ。たとえルナサリアンに勝ったとしても、WUSAのような連中の存在は未来に対する『潜在的なリスク』になり得る」

自機の右後ろに就けるリリカと言葉を交わしつつ、ルナールはいつか訪れるであろう「WUSAとの最終決戦」に思いを馳せるのであった。


 仕事を終えたスターライガMF部隊は順番に母艦スカーレット・ワルキューレへと着艦し、エレベータで飛行甲板下の格納庫に降ろされていく。

ただし、一番最初に着艦したパルトナ・メガミとバルトライヒの2機は甲板の端――ブリッジの根元に移動させられていた。

「ようこそ、スターライガの母艦へ! 私はこの艦――航空戦艦スカーレット・ワルキューレの艦長を務めるミッコ・サロであります」

「初めまして、サロ艦長。(わたくし)はアキヅキ・オリヒメ――ご存知かと思いますが、月の民の指導者をやっております」

ワルキューレの最高責任者と月の絶対君主は互いに自己紹介をしながら握手を交わす。

帰艦直前に連絡しておいたとはいえ、敵の総大将を前にしても動じないミッコの図太さは中々のモノだ。

「地球人の軍艦はいくつか知っているが、この(ふね)は随分と面妖な恰好をしているな」

一方、ユキヒメは各種構造物を見渡しながら単刀直入に「不格好」だと感想を述べる。

「こいつはオリエント国防海軍が運用しているレミリア級のプロトタイプを独自改装した(ふね)だからな。お下がりを魔改造したらこうなっちまうのさ」

「貴様らの予算なら一から建造できたのではないか?」

「まあ、そこは資金の使い方だな。レガリアのヤツは母艦よりもMF開発に金を掛けたかったんだろう……なぁ?」

ライガが微笑みながらレガリアに話を振ると、彼女は突然戦友の左頬をギュッとつねるのだった。


「いててッ……いきなりつねることは無いだろ」

「ウチの懐事情をペラペラと喋っちゃダメでしょ。さっきから思ってたけど、あなたはルナサリアンに対して気安すぎるのよ」

つねられたせいで赤くなっている左頬を(さす)るライガに対し、彼自身の軽薄さを厳重注意するレガリア。

今は保護対象にしているとはいえ、アキヅキ姉妹は本来であればスターライガが倒すべき敵である。

それなのに、半分ほど混じっている異星人の血が騒いでいるのか、単にオリヒメに(うつつ)を抜かしているのかは知らないが……どうもライガはアキヅキ姉妹を「敵」だと意識していないようであった。

「全く……あの女にナニをされたのかしらね?」

「何もされてねえよ」

頬を膨らませながらそっぽを向いたライガのことは放っておき、レガリアは遣り取りを見ていたユキヒメに対し「彼の話は忘れるように」と忠告する。

「心配するな、本当に覚えておくべきこと以外に脳の記憶領域は使わない――それが我々月の民だ。戦略的価値の無い情報などいずれ忘れるさ」

「そう? それならばありがたいわ」

情報漏洩を最小限に抑えることに成功し、心の中でホッと胸を撫で下ろすレガリアであった。

「(先月の捕虜脱走の一件もあるし、全メンバーの素性をもう一度洗い出すべきかもね)」


 レガリアとミッコ艦長がアキヅキ姉妹を一時滞在用の部屋へ案内している間、ライガは肌寒い飛行甲板上でロータス・チームの母艦がワルキューレと接舷するのを見守っていた。

残りの客人――ライカとフミの身柄を託し、オリエント連邦本国へ送り返すためだ。

スターライガにはまだまだやるべきことがあるため、このタイミングを逃すと国へ帰れるのは数か月後になってしまう。

「ロータスの母艦ってフリゲート扱いなんでしょ? この(ふね)に比べるとやはり小柄だし、武装も最低限みたいだね」

「ああ、そもそもロータスは俺たちみたいに敵と殴り合いをするプライベーターじゃないからな。後方支援や災害復旧を主目的としている以上、身を守るための武器以外は必要無いはずだ」

ライカとライガが親子水入らずの会話をしていると、接舷の位置取りを終えたロータス・チームの母艦――特設フリゲート「トリアシュル・フリエータ」から乗降用タラップが引き延ばされ、一人の女性がそこを渡って来るのが見えた。

「親子で談笑していたところにお邪魔しちゃったかしら、ライガ君?」

「いえいえ、ノゾミさん。今回は友軍として戦っていただきありがとうございました」

クスクスと笑う女性――ノゾミさんと握手を交わし、貴重な航空戦力を提供してくれたことに対し感謝の気持ちを伝えるライガ。

彼女の名はノゾミ・セーレンセン。

メンバー数わずか32人の小規模プライベーターであるロータス・チームの創始者兼代表で、スターライガとは比較的長い付き合いを持つ人物の一人だ。


「いいのよ、ミッコとは昔からの付き合いだもの。それにしても……」

援軍要請に(こころよ)く答えた理由を教えてくれた後、ノゾミはフミの方を向きながら上品に微笑む。

「フミさんも大変ね。あなた、戦争が起こる度に厄介事に巻き込まれてないかしら?」

「まあ、危険なところに首を突っ込む仕事だから仕方ないさ。もっとも……あんたたちと再会できるおかげで上手くやってるけどね」

それに対して頭を掻きながら笑顔で応じるフミ。

この二人はライガが生まれる前からの知り合いらしいので、身柄を託しても何ら問題無いだろう。

「ノゾミさん、あなたたちロータス・チームは一旦本国へ戻るんでしょう?」

「ええ、拠点のエソテリアで整備と補給を終えたら支援物資の輸送任務を請ける予定よ」

「分かりました。それでは、ライカとフミさんのこと……よろしくお願いします」

「フフッ、おばさんに任せなさい! 二人のことは責任を持って送り届けるからね」

同僚には滅多に見せない丁寧なお辞儀でライガが頼み込むと、実の息子と接するかのようにノゾミは彼の頭へ優しく手を添えるのだった。


「(これが地球の自動販売機ね……と思ったけど、よくよく考えると地球製の電子貨幣は持ってなかったわ)」

飲み物が欲しくなって艦内に設置されている自動販売機へ赴いたところ、対応する電子マネーが無いことを思い出し途方に暮れるオリヒメ。

じつを言うと彼女も一般国民と同じ電子マネーを所持しているのだが、当然ながら地球で使うことはできない。

ちなみに、ルナサリアンの社会ではかなり昔からキャッシュレス化が進んでおり、少なくとも自動販売機に関しては完全移行を果たしている。

「ハッ、ドー。ジュドーウールー-ツコー-セヤナ-ヨ?(はい、どうぞ。自販機の使い方自体は分かりますよね?)」

オリヒメが自動販売機の前でどうしようかと悩んでいた時、ルナサリア語による突然の声掛けと共に一枚の電子マネーが手渡される。

ワルキューレの艦内にアキヅキ姉妹以外でルナサリア語を話せる者はいないはずだが……。

「アウ、テェテェ……ホシヅキ・レンカ-スー。オゥ、ゲン-『レンカ・イナバウアー』-スー-カコ-ヨ?(あら、ありがとう……ホシヅキ・レンカさん。おっと、今は『レンカ・イナバウアー』さんだったかしら?)」

電子マネーを貸してくれた人物――レンカ・イナバウアーことホシヅキ・レンカに対し、彼女の正体を知るオリヒメはニヤリと笑い掛けるのであった。

【E-M理論】

正式名称は「エネルギー機動性理論」で、MF及び戦闘機の設計開発・運用における基礎理論の一つ。

非常に大雑把に言うと「位置エネルギーと運動エネルギーの使い方」「空戦に有利な機体の作り方」を説明するためのモノである。


【レミリア級】

オリエント国防海軍の主力航空戦艦(BOG編に僅かながら登場している)。

スカーレット・ワルキューレはこの艦級の0番艦にスターライガが独自改装を施した特設航空戦艦である。

従来型超弩級戦艦の後継艦として2番艦「サクヤ」以降の建造が進められている。


【エソテリア】

オリエント連邦中西部の都市で、ロータス・チームが拠点を置いている。

出身者としてはクローネやカルディア、アンドラ、ナスルなどが挙げられる。

社会主義時代の大開発を免れた歴史的建造物が数多く残っており、この世界へやって来る以前のオリエント連邦を知る手掛かりとして調査が進められている。

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