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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-25】想定外のVIP

 私は私、人は人――。

この私、アキヅキ・オリヒメは子どもの頃からそういう考え方で生きてきた。

他人が私のことをどう言おうと関係無いし、赤の他人の生き死になどどうでもいい。

そうよ、私は自己中心的な女なの。

公務では笑顔で愛嬌を振り撒いたりしているけど、頭の中では常に他人の利用価値を見定めようとしている。

私にとっての「いい人」っていうのは、あくまでも「自分にとって都合が良い人」にすぎないのよね。

まあ、今更になってその思想を改めるつもりは無いわ。

私は人心掌握の技術を駆使することで若くして権力闘争で頭角を現し、対抗勢力を謀殺したり両親や親類縁者に手を掛けるという大罪を犯した末、ついには月の絶対君主にまで登り詰めた。

今の自分の地位――そして、それを実現した私自身の能力にはとても満足している。

だけど……「彼」と出会ったあの日から、私は少しずつ変わり始めたのかもしれない。


「……いいでしょう、分の悪い賭けは嫌いじゃないわ」

ライガから持ち掛けられた取引――「専用機を駐機している空港までの護衛」を快く受け入れるオリヒメ。

「姉上!? さすがに冗談が過ぎるぞ!」

当然、目の前の地球人(ライガ)を信頼していないユキヒメは猛然と反発するが、姉に睨みつけられたことでそれ以上の反論を封じられてしまう。

「悪いけど、私は冗談を言うのは趣味じゃないの。私は常に最善の選択肢だけを選ぶ――たとえ、それが初めて会ったばかりの男の提案だとしてもね」

「……チッ」

露骨な舌打ちと共に憮然とした表情で俯くユキヒメのことは置いておき、オリヒメは改めてライガに対し自身と妹の「護衛」を頼み込むのだった。

「今ので気分を害したらごめんなさい。でも、あの娘も悪気があってああいう物言いをしているわけじゃないの。だから……彼女共々よろしくね」


 人から頼られて悪い気はしない――。

自分から持ち掛けた話ではあるが、オリヒメの回答を受けてライガはすぐに愛機パルトナのコックピットへと戻る。

「あ、あの……父さん? 私たちは自力で何とかするから……」

「待て」

その途中、今まで完全に蚊帳の外に置かれていたライカが申し訳なさそうにこう告げたところ、それを見たライガは娘を引き止めながらニッと笑う。

「お前とフミさんを見捨てるつもりも無いぞ。安心しろ、お客さんが増えたのならこちらも増便するまでだ」

「父さん……ありがとう」

「気にするな、娘を守るのは父親として当然のことだからな。VIPも愛娘も平等に護り抜いてみせるさ」

ライカが幼かった頃と変わらない笑顔で彼女を安心させ、隣にいるフミにも一礼しながら改めて愛機の上半身へとよじ登り始めるライガ。

身長158cmの彼がMFにしがみ付いている姿はなかなかコミカルだが、本人はいたって大真面目であった。


「(さて……お姫様たちは俺自身が責任を持って護るとして、ライカとフミさんの移動は誰に任せようか……)」

パルトナに搭載されている航空無線の周波数を弄りながらライガは考える。

実際のところ、コンバットスーツを着ていない一般人を添乗させた状態でMFを飛ばすのは非常に難しい。

何も考えずに高度を上げたら寒さや気圧のせいで酷い目に遭うし、下手に高G機動を取ろうものなら「乗客」はあっという間にペチャンコになってしまうだろう。

そもそも、MFという兵器が戦闘以外の目的を全く考慮していない「人殺しのためのマシン」である以上、ドライバー以外の乗員に対する快適性を期待すること自体が間違いだと言える。

一応、マニピュレータを掴ませることで短距離移動を行う事例はあるのだが……。

「(できれば新人に経験値を与えたいところだが、娘の命を力不足の奴に預けることはできん。ここは俺以外で一番腕が良い奴に任せるべきだな……)」

「護衛任務にこそエースドライバーを」という考えの下、ライガが無線を繋いだ相手とは……?


 ホワイトウォーターUSAのスパイラルB型を撃墜し、得物のビームジャベリンをクルクルと回しながら納刀する深紅の可変型MF――。

「フフッ、私と戦うにはまだまだ10年早いわよ。次は異世界転生してから出直してくることね」

力不足の敵機が地面へ叩き付けられて木っ端微塵になったのを見届けた後、レガリアは愛機バルトライヒをエレブルー城の上空へと移動させる。

彼女は敵戦力の排除に集中していたため、首脳会談の状況についてはほとんど知らなかったが、風光明媚な古城が黒煙を上げながら崩壊している様子を見たことで思わず閉口してしまう。

「(酷い光景……あれの下敷きになった人がどれだけいるのかしら……)」

諜報活動の甘さによりWUSA(ウユーザ)の潜伏を事前に察知できず、数多くの犠牲を強いられてしまったことを心の中で申し訳なく思っていたその時、味方機からの通信を知らせるアラートがレガリアの意識を引き戻す。

「こちらバルトライヒ、どうしたの?」

「俺だ、ライガだ。そっちの方は手が空いているか?」

「いえ、ちょうど今ドッグファイトを終えたところ。援護が欲しいのかしら?」

同世代の中でも傑出した実力を持つライガが援護を請うなんて珍しい――。

そう不思議に思いつつもレガリアが救援要請に応じると、ライガは傍受される可能性が低い秘密通信に切り替えながら「アキヅキ姉妹を保護したこと」を報告するのであった。


「――はぁ? あなた、とんでもないことをしてくれたわね……」

ライガの報告を一通り聞いたレガリアはコックピットの中で頭を抱えつつ、愛機バルトライヒを白と蒼のMFの隣にゆっくりと着地させる。

敵の総大将との独断による接触――。

仮に正規軍だったらその時点で問題行動として扱われるだろう。

もちろん、スターライガにおいてもあまり称賛すべき行動とは言い難い。

「まあ、純粋な善意でやったことを責めてもしょうがないわ」

深紅のMFのコックピットから飛び降り、ライガに対して片手を上げながらアキヅキ姉妹の所へと赴くレガリア。

スターライガの最高責任者として挨拶をするためだ。

「初めまして、アキヅキ・オリヒメ様。(わたくし)がプライベーター『スターライガ』の最高責任者兼司令官を務めるレガリア・シャルラハロートですわ」

怪訝そうな表情を浮かべているユキヒメはとりあえず置いておき、レガリアはオリヒメに対し右手を差し出す。

「いかにも、私がアキヅキ・オリヒメです」

意外なほどあっさりとそれに応じるオリヒメ。

だが、ライガの時と異なり彼女は明らかに警戒心を露わにしていた。


「シャルラハロートさん、スターライガのご活躍は現場報告でよく存じておりますわ。これまでの戦闘で我が同胞を何人殺したか……憶えていらっしゃるかしら?」

女というものは同じ女に対し敵意を向けるのが(さが)なのか、オリヒメは威圧するような声でレガリアにそう尋ねる。

「さあ? 戦争が終われば詳細な戦闘記録が流出するだろうから、その時に分かるでしょう。『一人殺せば犯罪者、一万人を殺せば虐殺者、十万人も殺せれば英雄に。そして、百万人を殺した者は神になる』という(ことわざ)が我が祖国にはあります。数が大罪を正当化する――この狂った時代を端的に表しているわね」

一方、100年に亘る豊富な人生経験を持つレガリアも簡単には物怖じせず、月の絶対君主を相手に堂々としらばっくれてみせる。

「貴様ァ、口の利き方には気を付けろッ!」

「ユキヒメ、落ち着きなさい」

その言動に不快感を示し犬のように吠え立てる妹を窘めつつ、レガリアの両肩を掴んでグッと自らの方へ引き寄せるオリヒメ。

身長が同じくらいであるため両者の胸部がぶつかり合い、プロテクターの類を着けていないオリヒメの胸の形が少しだけ崩れる。

「貴女、元々は職業軍人で命の価値については達観しているみたいね。お人好しのお嬢様のようで深謀遠慮(しんぼうえんりょ)に富んでいる(したた)かさ……好きじゃないけど嫌いじゃないわ」

「フフッ、それはどうも……月の独裁者さん!」

一見すると二人の美女が乳繰り合っているような光景だが、お互いを睨みつけるオリヒメとレガリアの目は全く笑っていなかった。


「まあ、いいわ……貴女と言い争うのは別の機会にしましょう。今はこの場を切り抜けるのが先決よ」

一触即発の睨み合いを切り上げ、不敵な笑みを浮かべながら白と蒼のMFの所へと(きびす)を返すオリヒメ。

「レガリア・シャルラハロート……その面と不遜な態度、絶対に忘れはせんぞ」

叱られた犬のように黙っていたユキヒメもそう言い放ち、すぐに姉の背中を追いかけていく。

「……悪いな、レガリア。もし気分を害したのなら他の奴に代わっても――」

ここまでいがみ合うと思っていなかったライガは戦友に対し詫びを入れ、彼女の左肩へ手を添えようとする。

「気にしないで。それに、あの程度のプレッシャーに屈するほど私も軟弱な女じゃないわよ」

だが、そこそこ気が立っているのかレガリアはライガの右手を払い除け、自らが「持ち運ぶ」予定のライカ及びフミの所へと足早に向かう。

「(結構苛立ってるな……相変わらず、女の闘いってのはよく分からんものだ)」

「ライガ、早く行きましょう! ここで立ち話している暇は無いんでしょ?」

その様子を心配げに見届けるライガだったが、オリヒメに声を掛けられたことですぐに愛機パルトナのもとへ戻るのであった。


「(なんて危険な女なの……ライガの奴、あの手の女には甘いんだから)」

一方、オリヒメの危険性を改めて痛感したレガリアは気持ちを切り替え、注意事項を手短に伝えるためライカたちと久々に言葉を交わす。

「久しぶりね、ライカちゃん。歳を取ってますますお父さんに似てきたわね」

「ええ、母やフミ先輩にもよく言われます。レガリアさんは全く老けていないご様子で」

戦友の娘ということもあってレガリアはライカのことを幼少期からよく知っており、過去には彼女のために少し高価なプレゼントをしてあげたこともある。

また、ライカにはメガストラクチャー設計に携わる弟(ライガから見て次男)がいるが、当然ながらレガリアはそちらとも知り合いだ。

……ただし、ライカの兄――ダーステイ家の長男については関係者からは何も聞かされていない。

「今も現役バリバリのMF乗りだからだね。ドライバーと実業家で二足の草鞋(わらじ)を履いている以上、老けるわけにはいかないんでしょ?」

「フフッ、そう言うフミさんも全然変わっていませんわ。貴女と歳が近かった私の父は既に亡くなっているというのに……」

今は亡き父親がいるであろう「星の海」を見上げた後、ライカとフミの手をレガリアは力強く握り締めるのだった。

「安心してください。スターライガの……いえ、名門シャルラハロート家の当主として必ずや二人を安全な場所まで護り通しますから」


 2人の「乗客」をしっかりとパルトナのマニピュレータで抱きかかえ、僚機に周辺の安全確保を行わせるライガ。

「お二人さん、行き先はどこだい?」

「コペンハーゲン」

「はい?」

エレブルーからはあまりにも遠すぎる場所――デンマークの首都コペンハーゲンを行き先として指定するオリヒメに対し、ライガは困惑しながらも再確認のためにもう一度尋ねる。

地球の地理に疎いオリヒメが間違っている可能性があるからだ。

「コペンハーゲンって知らない? ストックホルムの空港は専用機が着陸できなかったから、コペンハーゲン空港に降り立ってから陸路でここまで来たのだけれど」

「いや、場所自体は知っているが……この機体の航続距離で直接向かうのは不可能だぞ」

「言い訳無用! 姉上が行けと言っているのだから行け!」

かなりの無茶振りを要求してくるユキヒメは無視し、ライガはやむを得ずコペンハーゲン直行便に代わる「プランB」を提案するのであった。

「無茶言うんじゃねえ。本当は嫌なんだが……仕方ない! 俺たちの母艦に一旦戻るぞ!」

【レガリアの父親】

オリエント人なので女性である。

彼女は過去の政権で要職を務めたこともある元国会議員だったが、数十年前に突然の心不全により急逝したという。


【星の海】

オリエント圏におけるあの世の代名詞のこと。

オリエント人の死生観に与える影響は極めて大きく、多くのオリエント人は「死者の魂は天に還ってこそ救われる」と考えている。

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