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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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【MOD-18】伏せられていたジョーカー

「もう2回目だから見慣れたけど……巡航ミサイルの弾頭を殴って壊すとかバカじゃないの?」

目の前で繰り広げられている光景にミノリカはただ苦笑するしかない。

リアクションを取れるようになっただけでもまだマシであり、1回目の時は文字通り言葉が出なかったのだ。

彼女がエレメントを組んでいる相方――リゲルのリグエルⅡは巡航ミサイルの先端部にしがみ付き、今まさに手刀を振り下ろさんとしていた。

「フッ、まともな人間にMF乗りなんか務まらんさ。もっとも、僕はその中ではマシなほうだと思うがな」

ヘルメットの中で自嘲気味に微笑んだ次の瞬間、リゲルは右操縦桿を力強く前へと押し出す。

固定式機関砲以外の射撃武装を持たないリグエルⅡは専用設計の操縦桿を採用しており、トリガーの廃止と引き換えにマニピュレータを細かく制御できるよう工夫されている。

逆に言うとトリガーで操作するタイプの射撃武装は使用できないため、仮にミノリカからの申し入れ(プチ・バズーカの貸し出し)を受け入れたとしても有効活用は不可能であった。


「ハァァァァッ!」

リゲルの気合が入った掛け声と共にリグエルⅡの右腕が振り下ろされ、巡航ミサイルの先端部――誘導装置と弾頭が収められている部分を物理的に打ち砕く。

最も大事な部分を破壊された巡航ミサイルは突如姿勢を乱し、黒と蛍光グリーンのMFが離れた瞬間フラフラと迷走を開始。

そして、ロケット燃料を使い尽くしたことで推力を完全に失い、先ほどよりも波が荒くなっているドーバー海峡へと墜落するのだった。

「こちらワルキューレCIC、巡航ミサイルと思わしき反応が全て消滅したのを確認。リゲルさんが撃墜したのが最後だったみたいですね」

「他の小隊は仕事が早かったのか?」

「ええ、αやε(エプシロン)はバランスが良いですからね。ライガさんに至っては一斉射撃で3機同時に撃墜したとか……」

それを聞いたリゲルはコックピットの中で腕を組み、雨雲が広がり始めた空を見上げる。

「今更こう言うのもアレだが、彼は特別だ。軍にいた頃もバイオロイド事件の時も……彼の困難な状況を乗り越える力にどれほど助けられたか」

そうしているとルミアのシャルフリヒターが左隣へ近付き、リグエルⅡの右肩をポンっと叩く。

「だが、天才と言えど一人では限界がある。私ら凡人にできるのは、ライガやレガリアみたいな天才をサポートしてやることぐらいだ」

「その通りかもしれんな。自らを凡人だと認めるのは少し苦しいが……」

天才と称される戦友たちには劣ることを素直に認め、ルミアとリゲルはコックピット越しに笑い合う。

天気予報ではこれから下り坂になるとされており、実際にドーバー海峡上空の嵐は勢いを増しつつある。

「MF部隊の皆さん、お疲れ様でした。今回も誰一人欠けずに帰艦できそうでホッとしてます」

仕事を終えたスターライガMF部隊は天候悪化の前に帰還するつもりだったが……。


「――いや、待ってください! 方位2-5-5より新たな飛翔体が接近中! これは……巡航ミサイルのサイズじゃありません!」

スターライガの面々が帰路に就こうとしていたその時、ワルキューレCICのオペレーターが大きな声を上げる。

「落ち着け、まずは状況を報告しろ。飛翔体の正体は解析できるか?」

少し動揺気味なオペレーターを窘め、「新たな飛翔体」の正体について状況報告を求めるライガ。

回答によっては帰艦を切り上げ、残りわずかな燃料弾薬を遣り繰りしながら迎撃に向かわざるを得ないからだ。

「ええ、詳細は不明ですが……レーダー上の機影では弾道ミサイルのように見えます」

「しかし……方位2-5-5と言えば大西洋の方角だろう? そんなところに敵のミサイル基地があるとは思えんがな」

サニーズの指摘はあながち的外れではない。

確かに北大西洋には度々ルナサリアン艦隊が出没し、アイルランド沖に展開するイギリス海軍と小競り合いを繰り広げることがある。

言い換えるなら北大西洋の制海権はどちらかが掌握しているというわけではないため、そういった状況下でミサイル基地建設を強引に進めるのはリスクが高すぎるだろう。

もちろん、ミサイル基地が地上施設ではない――つまり、潜水艦のような移動式プラットフォームを採用している可能性も否定できないが。

「その弾道ミサイルとやらを撃ち落とせばいいのか? CIC、早く判断を下してくれ!」

「ミサイルの予想針路を計算――ああ、ダメ! 間に合わないわ!」

推進剤の残量が非常に厳しいルナールがオペレーターを急かし始めた次の瞬間、雷雲を切り裂くように西の空が蒼白く輝くのだった。


「何だあれは……!? 何の光だ!?」

「核兵器……いや、核の炎はああいう色じゃないよな……」

「ルナサリアンめ、まだ次の手を隠し持っていたのか!」

歴戦の猛者であるサニーズやルミア、そしてリュンクスも今の出来事にはさすがに動揺を隠せず、コックピット越しに互いの顔を見合わせる。

謎の蒼白い閃光は彼女らが本能的に「ヤバい」と感じるほどの規模だったのだ。

特徴的なキノコ雲や電磁パルスが発生していないことから核爆発ではないと思われるが、見た目のインパクトに限っては決して負けていなかった。

「みんな、そこそこ離れた空域でよかったな。もし、あの閃光の真下にいたらと思うと……ゾッとするぜ」

そう仲間たちに語り掛けながらライガはヘルメットのバイザーを上げ、手の甲で無意識にかいていた冷や汗を拭い取る。

今の爆発だけでは攻撃の正体は掴めないものの、まともに食らったら文字通り消滅していたことは想像に容易い。

「……ワルキューレCICよりスターライガ全機、ここは一度帰艦して態勢を立て直しましょう。正体不明の攻撃については情報収集を――」

「いえ、まだ終わってないわ! 次のヤツが来る!」

「何ですって――いえ、リリーさんの言う通りです! 第2波及び第3波と思わしき新たな飛翔体が接近中! 皆さん、戦闘空域からの撤退を急いでください!」

リリーに指示を遮られたオペレーターは一度は顔をしかめるが、レーダーが飛翔体の接近を捉えたことでリリーの「直感」が正しかったことを認め、態勢立て直しのために改めて撤退命令を下す。

しかし、一人だけその命令に従わない者がいたのだ。


 スターライガMF部隊が母艦の待つ方向へと向かう中、純白のMF――リリーの愛機フルールドゥリスは針路を変えること無く飛行を続けていた。

「姉さん! まさか、アンノウンを止めに行くつもりなの!?」

それに気付いたサレナはすぐに呼び戻そうとするが、双子の姉からの応答は無い。

フルールドゥリスのトランスポンダは作動しているので、単にリリーが妹からの通信を無視しているのだろう。

「ったく、どこでスイッチが入ったんだおてんば娘め……サレナ、お前はクローネを引き連れて離脱しろ。俺はリリーを連れ戻しに行ってくる」

「お願い、ライガ。姉さんってたまに突拍子の無い行動を起こすことがあるから……」

サレナとクローネに対して先に撤退するよう促し、ライガはフルスロットルでフルールドゥリスを追い掛け始める。

彼は巧みな低燃費操縦で推進剤の消費を抑えており、ルナールと違い多少は無茶できる程度の猶予が残っていた。

とはいえ、僚機が撤退命令を無視するという事態はさすがのライガでも予想できなかったのだが。

「(幼馴染だし甘やかしてた部分があったかもな……今回はガツンと言うべきかもしれん)」

頭の中でそんなことを考えながらスロットルペダルを踏み続け、彼の愛機パルトナは純白のMFとの距離を瞬く間に詰めていく。

フルールドゥリスの推進剤がどれほど残っているかは分からないが、リリーの性格を考えるとそこまで余裕は無いとライガは推測していた。


「やっと追い付いたぞ、リリー! 俺たちはプライベーターだから叱責で許してやれるけど、軍隊だったらもっと面倒臭いことになってるぞ! ……俺やサレナをあまり心配させるなよ」

純白のMFの真後ろまで近付けたライガは通信回線を繋ぎ、開口一番リリーを叱りつける。

しかし、本来とても大人しい性格をしている彼は本気で怒鳴ることができず、結局は幼馴染を気遣う発言で締めていた。

こういうところが結果的にリリーを甘やかすことになっているのだ。

「……なあ、聞こえているのか? こっちはお前の息遣いが聞こえてる以上、『通信装置の不調』なんて言い訳は通用しないぞ」

「静かにして。さっきの蒼白い閃光――何か悪い予感がするから見に来ただけ」

それを聞いたライガは呆れるように肩をすくめ、リリーに対し「帰るぞ」とハンドサインを送る。

「おいおい、そんな野次馬根性で勝手に動くんじゃ――!?」

彼女の機体のマニピュレータを掴んで連れ帰ろうとしたその時、二人から比較的近い空域で蒼白い閃光が再び炸裂。

ライガとリリーは反射的に目を(つむ)ったが、ヘルメットのバイザーだけでは遮光し切れないほどの光量を目の当たりにしたため、しばらくは視覚異常に悩まされることとなった。


「ライガさん、リリーさん! すぐ近くで飛翔体が消滅しましたけど大丈夫ですか!?」

「ああ……まだ目がチカチカするが、お前が思っているほど近くじゃないぞ」

心配するオペレーターに対して自分たちの無事を報告しつつ、例の飛翔体が炸裂したと思わしき空域を確認するライガ。

「(何かが空中に散らばっている……? 渡り鳥の群れ――いや、鳥がこんな物騒な空を飛んでいるわけないか)」

彼の猛禽類を思わせる視力は空中に飛び散っているデブリを捉えていた。

この辺りは自然豊かな土地なので鳥の群れかと最初は思ったが、MFや戦闘機が飛び交うほど騒がしい場所に野生動物が現れるとは考えにくい。

そもそも、横ではなく真下に「落ちている」時点で生物ではないことは明白であった。

「ねえ……あれって榴弾が炸裂した後みたいじゃない?」

「!? そうか、分かったぞ!」

飛翔体の正体を解明するキッカケとなったのは、リリーの何気無い一言。

彼女が数キロ先の小さなデブリを目視確認していることも驚異的だが、それよりもライガは「榴弾」というキーワードに強い反応を示していた。


「分かったって……飛翔体の正体は大規模な榴弾ってことなの?」

正確な調査はずっと後に行われることとなるが、リリーはわずかなヒントだけで正解に近付いていた。

「おそらく、な。あのデブリが破片か子爆弾かは確認できないが、高高度で炸裂して広範囲に『鉄の雨』を降らせる戦略兵器と見て間違い無い」

「戦略兵器……! 二重三重にもカードを用意し、1枚目がダメでも2枚目以降で確実に畳み掛けてくる――こういう戦い方をする人、私はよく知っているわ」

普段の「萌えキャラ」的な部分が消え失せ、サレナに近い口調で饒舌(じょうぜつ)に語り始めるリリー。

正確にはリリーの「可愛い」は作りモノであり、この状態――サレナに通ずる真面目な姿が本性だと言えなくもない。

「あの人のことか……いや、今は彼女のことを気にするのは止めよう。リリー、満足できたのならもう帰るぞ」

30年前の最終決戦で戦った相手――ラヴェンツァリ姉妹にとっては因縁深い人物を思い出すリリーを落ち着かせ、今度こそ彼女を引き連れて撤退しようとするライガ。

だが、こういう時に限って悪いことが起きるのが戦場というモノなのだ。


「……!? あ、新たな飛翔体の接近をレーダーで確認! 予想着弾地点は……あなたたちの場所です!」

撤退するためにライガたちが針路を変えようとしたその時、レーダー画面を見ていたオペレーターが切羽詰まった声を上げる。

「何ですって!?」

「リリーさん、ライガさん、今すぐ退避を!」

「予想着弾地点のデータを寄越して! 早くッ!」

珍しくキツイ口調で急かしてくるリリーの気迫に圧倒され、オペレーターはすぐにデータリンクの更新を行う。

「データリンク完了!」

「遅い! どこを飛べばいいの!?」

「HIS上のレーダーディスプレイに予想着弾地点の表示を割り込ませます! 赤い円が観測データに基づいた攻撃範囲なので、それに入らないよう気を付けながら退避してください!」

オペレーターとリリーによる遣り取りの間にデータリンクの更新が終わり、ライガは受け取ったデータを基に飛行経路を頭の中で組み立てようとする。

「……おいおい、今いる場所と攻撃範囲が完全に被ってるじゃねえか」

しかし、予想着弾地点のど真ん中から逃げることはさすがに不可能であった。


「CIC! 着弾までの時間は!?」

「残り1分! そんなこと聞いてる暇があったら退避行動を急いで!!」

「ダメだな。超音速で飛べれば逃げられるかもしれんが、亜音速が限度のMFじゃ無理だ」

「そんな……!」

時間的猶予が残されていないことを悟ったライガは覚悟を決める。

「意外に早かったな……俺たちの死も。イジェクトで運試しでもしてみるか?」

一方、リリーはまだ生き残るための道を必死に探し出そうとしていた。

「いえ……運試しの必要は無いわ。生き残るためにはあらゆる手段を試すのよ――悔しいけど、私もあの人の娘なのね」

彼女の決意を聞かされたライガは静かに笑みを浮かべ、一度は手放した操縦桿を再び握り直す。

じつを言うと彼だって(はな)から諦めるつもりなど無く、リリーを試すために弱音を吐く演技をしていたのだ。

返答次第では共に死ぬことも考えていたが、幼馴染の答えは「絶望的な状況でも決して諦めない」であった。

「(君のような幼馴染を守るためならば、僕も全力を尽くせる……少し賭けに出てみるか)」


 レーザーライフルを構え直すライガのパルトナ。

その銃口は遥か彼方を飛ぶ飛翔体に向けられていた。

「リリー、俺の機体の後ろに回れ! いざという時は俺が盾になってやる!」

リリーのフルールドゥリスが背後に移動したことを確認し、レーザーライフルの出力をフルパワーモードへ変更。

「! ライガ、今よッ!」

「分かってる!」

飛翔体の未来位置を完全に見極めた瞬間、幼馴染の声と同時にライガは操縦桿のトリガーを引いていた。

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