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1話

「また今日から、一週間が始まるのか……」


憂鬱ゆううつな月曜日の午前6時30分、黒麹サイは、目覚めると同時に月曜日の朝と同じくらい憂鬱ゆううつな言葉を吐いて捨てた。

彼はゆっくりと上半身を起こし両手を高く上げ、硬くなった体をほぐす。

その緩慢な動きは、月曜日という強敵に対する彼の最後の抵抗だった。


「んー、はぁ。よし! いくか! 」


ぴしゃりと両手で頬を叩き自分に活を入れ、たっぷり三十秒停止した後、ようやく彼は自分にぬくもりを与えてくれていた布団をどかし、起き上がる。

彼は、十月の肌寒さをアパートの床で感じながらキッチンへと向かう。

冷蔵庫の横に雑多に積まれた缶詰やシリアルの山の中から食パンを引っ張り出し、彼はトースターの中素早くセットし、速足で歩き去る。

焼きあがるまでの三分間、その間に顔を洗い、服を着替え、トースト用のマーガリンと苺ジャム、そして、二十センチ角程に切ったアルミホイルを流れるような動きでテーブルの上に置いた。

アルミホイルをテーブルに置いたちょうどその時、チンっと子気味良い音が、六畳一間の木造アパートに響く。


彼は、トーストの角をつまみながら、机に敷かれたアルミホイルの上にパンを置き、満遍なくマーガリンを塗った後、その上から苺ジャムを同じく塗っていった。

ひとしきり塗り終わると、トーストの表面にできたピンク色のまだら模様にうっとりしつつ、彼はリモコンを持ち、右上の赤いボタンに指を乗せ、力を入れた。


『--んきは、晴れのち曇り、夕方にはところにより雨が降るもようです。お出かけの際には、念のため傘を持っていくと良いでしょう』


アナウンサーの教えてくれた天気に、サイは眉間に皺をよせる。

雨か、と彼は呟いた。

窓の外は、まばゆい十月の太陽が輝いていた。いまだ雨の気配など微塵も感じさせない。


『また、本日の魔力係数は12。本日から未明にかけて、モンスターが活発化していますので、山や海など人気のない場所には近づかないように注意しましょう』


「そこに行かなきゃならない人は、どうすりゃいいんだよ」


一人、テレビに向かって文句を呟くサイ。

テレビに映るアナウンサーには、当然そんな事など知る由もなく、今度は、一週間の天気を説明し始めた。

サイは、半分ほど残ったトーストを一気に頬張り、そして飲み込む。

冷蔵庫からパックの牛乳を取り出し、ラッパ飲みした後、キッチンシンクに置かれた歯ブラシを掴んで、口の中へつっこむ。そして、腕を前後させ、歯を磨着始めた。

手は、左上から順に右へ移動していく。


ちょうど下の歯の前歯あたりを磨いている時、彼のスマホから古いロックバンドのメロディが流れた。

サイは、眉間に皺をよせながら、スマホの画面を見た。

画面には、アリッサ(赤井リサ)と表示されている。

口に歯ブラシをくわえたまま、彼はスマホの緑色のマークをスライドした。


「ふぉしふぉし、ファイだが、ふぉうひたんら?」


しゃこしゃこしゃこと、彼は歯を磨き続けていた。


「いや、あんたがどうしたのよ……。ていうかなんなのよこの音?」


電話からは、若い女性の声が流れてきた。

サイは、スマホのスピーカーボタンをタップし、キッチンシンクの横に置いて、コップに水を貯めた。


「え、あんたもしかして歯を磨いてたの? 信じられない、普通電話に出るとき磨く? ねえ、ちょっと聞いてるの!? 」


どうやら電話越しの女性は、サイが歯を磨いていることに気が付いたようだ。

電話越しの訴えなどまるで意に介さず、サイは、口をゆすいだ。


「うるさいぞアリッサ、そんなに細かいことばっかり気にするから成長しないんだ」


何事もなかったかのように淡々と返事をするサイ、アリッサと呼ばれた女性は、その言葉にムッとしたのか、語気を強めて言い返しす。


「リサよ、もういい加減アリッサって呼ぶのやめてよね! ていうか私のどこが成長してないのか教えてもらおうかしら」


「そりゃお前、ここだよここ」


サイは、とんとんと自分の胸に親指を当てた。


「くたばれ」


「おいおい、なにも胸だなんて一言も言ってないじゃないか決めつけはよくない」


「私だって胸だなんて一言も言ってないもん! いい加減にしなさいよあんた! 」


ひととおりリサをいじり、サイは満足したのか、彼女が電話してきた理由について気になっていた。彼は、まさか俺の声が聞きたかったのだろうか。リサは昔からちょっと変態っぽいからなぁ、などと一瞬考えたが、それにしてはこんな朝早くにかけてくる意味が解らない。


「それで? こんな朝早くからお前が電話してくるなんて要件はなんだ? 」


電話越しに、とても深いため息が聞こえた。


「あんたってもぅ……、まあいいわ、今日の実践演習はなくなったから、とりあえず学校に集合だそうよ」


「はぁ? なんだよそれ、せっかく早起きしたってのによ」


サイは、自分の不満気な態度を隠すことなくリサへぶつける。


「そんなこと私に言われたってしょうがないじゃない。今日はモンスターの活動が活発だから、安全なところで実技演習することになったんでしょ」


「なんだよそれ、活発だからこそ狩りに行くんじゃないのか」


「私達みたいな、候補生はまだまだ実力不足ってことなんでしょ。ちなみに今日は対人演習らしいからそのつもりで来てね、じゃ」


「あ、おい!」


サイの呼びかけも虚しく、通話はすでに終了していた。時刻は午前七時ちょうど、サイは、無造作に敷かれた布団に再び横になった。


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