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URANO DREAM LAND で。

作者: 麻酔

夏のホラー2017


初挑戦です。

 よう、お前さん、ヒマか? ヒマだったら俺の話を聞いてくれないか?

 ……マジで? 聞いてくれる? よっしゃ、ありがとう。いやー、何人かに声かけたんだけど誰も聞いてくれなくてさ。お前さんがイイ人でよかったよ。……ん? あぁ、そんなの、聞いてくれるだけでありがたいって。なんだったら適当に相槌打って、聞いてるふりしてくれてもいい。俺はただ誰かに話したいのよ。話して、誰かに聞いてもらえてるんだって実感が欲しいだけなんだ。 ……なに? ちゃんと聞いてくれんの? お前さんホントにいい人だな。悪いヤツにゃ騙されるなよ? ……ん? あぁ、話な、肝心なお話。この話なぁ、まぁ、ちょっとしたホラーなんだが、大丈夫か? ……そうか、平気か、ならよかった。んじゃまぁ、話すとな――。

 お前さん、『裏野ドリームランド』って知ってるか? そう、あの有名な廃園になった遊園地だ。そこにな、肝試しみたいなことをしようと男女が数人集まって、中に入ったらしいんだ。もちろん、廃園は立ち入り禁止になっているが、廃れて何年も経っているもんだから、鉄柵が錆びてもろくなっていた場所から侵入できたらしい。それで、中に入った数人は、ペアを組んで、それぞれ行きたいアトラクション――ウワサのあるアトラクションを主に回ることにした。そして、集合場所をミラーハウスの前と決めて、散会した。んで、俺がいま話しているやつ――もう、そいつ呼ばわりでいいか、そいつは女の子とペアになって、あ、女の子の名前はA子としとくな、で、二人でメリーゴーランドに向かってみたらしい。A子が行ってみたいって言い出したんだっけか、確か。

 『誰も乗っていないのに勝手に回るメリーゴーランド』。

 裏野ドリームランドの有名なウワサだ。夜中に光る装飾は綺麗だって話のヤツ。まぁ、あまり怖くなさそうだし、他に比べて安全そうに思えたんだろうな。でもな、行ってみると――そこに近づくにつれてオルゴールみたいな音楽が聞こえてきて――光も見えた。そこで警戒したものの、夜の暗闇を背景に光って回るメリーゴーランドは、予想以上に綺麗だったらしい。思わず、みとれるくらいには。そうしてしばらくみとれているうちに、A子がメリーゴーランドに乗ろうと言い出したらしい。もちろん、そいつは止めようとしたらしいんだけれど、A子は自信ありげに大丈夫と言って止めるのも聞かずメリーゴーランドに乗り込んじまったらしいんだ。止めときゃいいのにな。でも確かにA子が白馬を模したそれに乗っても何も起こらなかったらしい。けれど、気を抜いて、自分も、と適当にA子の隣に腰を降ろしたとき、いきなりそれが落下して、腰かけているそれごと――歌舞伎の舞台とかであるような奈落みたいに急降下しちまった。んで、反射的に支え棒にしがみついて、数秒、真っ暗な中を降下し続けて、丁度、足の裏に地面が付いたかなと思ったらゆっくりと横移動を始めて、そうして着いたのが薄暗い地下室みたいなところだったらしい。しかもよく見るとその地下室、廃病院の手術室みたいだったってんだから怖いよなぁ。なんか、手術台みたいなベッドと手術道具を置く台があったらしい。さすがに気味悪いしA子は恐怖が過ぎたのか黙ったままだしで、とりあえずA子がパニックを起こす前に出ようとそいつは外に出るために必死に出口を探して――まぁ、すぐに外には出られたらしい。けれど、出た先がドリームキャッスルで、そいつはそこで気づいちまったんだ。いま出てきた地下室がウワサの『拷問部屋』だったってことにさ。そりゃあ、震え上がるってもんだよな。ん? いや、だってよ、メリーゴーラウンドから『拷問部屋』のあるドリームキャッスルに運ばれてきたってことはだぜ? もしかしたらいまも拷問が行われてる可能性があるじゃねーか。幸運にもそいつは執行者がいない時に運ばれたから助かったってことだろ? 間一髪ってやつじゃねーか。んで、さすがに怖くなったそいつは今すぐ出ようと言ったが、他の人たちはどうするの、とか、みんなと一緒に逃げようよとかA子が言い出すもんだから、そいつは仕方なく集合場所と決めていたミラーハウスに、とりあえず向かうことにした。でもな、ミラーハウスに着く前に、ジェットコースターの異変に気づいてな。それがジェットコースターが勝手にコースを上っていく様子で、そのジェットコースターの乗り物に人影が二つあって。もう、二つの人影って時点で集まったメンバーの誰かってことになるだろ? でも距離があるから声も届かない。結局、そいつとA子は見てるしかなくて、ジェットコースターが走り出すのを目の当たりした。それからの恐怖は――コースの途中にあるトンネルをくぐって出てきたジェットコースターに、誰も乗ってなかったことだった。二つの人影が消えて――ジェットコースターだけがトンネルから出てきたらしい。なにが起こったのか分からずじまいだ。ジェットコースターにまつわるウワサは『事故があったとは聞くのにどんな事故だったのかは誰に聞いても違う答えが返ってくる』だったか。得体の知れない現象の恐怖で、そいつとA子はそこから動けずにいたらしいが、突然、悲鳴が響き渡ってな、二人は我に返ったらしいんだが、その悲鳴が聞こえてきたのがジェットコースターの隣にあるアクアツアーからだったからさらに恐怖が増してな。ほら、アクアツアーには『謎の生き物の影が見える』ってウワサだっただろ? 二人はメンバーの誰かがその「謎の生き物」に襲われたんじゃないかって思ってな、恐怖はもちろんあったらしいが、助けなきゃと思ってアクアツアーに入ることにした。悲鳴の酷さからもしかしたら間に合わないって気持ちもあったけれど、みんなでここを出ようって話をしたから、考えがそれしかなかったらしい。そいつもA子もバカだよなぁ。自分が助かることを考えりゃーいいのに。真面目って言うか律儀って言うか。うん? 恐怖に追い込まれてその人の地が出たのかも? 二人とも根本的な性格が優しすぎる人なんじゃないかって? ……うーん、まぁ、確かに人って追い込まれりゃー、本心をむき出しにするって言うけどな。でもよ、こんなもしかしたら自分がやられるかもしれない状況で他人のことまで考えないだろ。は? だからこそその二人は本当に優しい人なんだって? っはー、お前さんの優しさも相当なもんだな。帽子被ってたら脱帽してるぜ。――あぁ、悪い、ちょいと脱線したな。話を続けようか。それで、そいつとA子がアクアツアー内に入ると、さっきの悲鳴が上がったとは思えないくらい静まり返っていて、人影どころか物音一つ聞こえなかったみたいでな。相当、不気味だったらしい。ボート乗り場のゲートを越えて、メンバーの姿を探すが見当たらない。ケータイのライトで照らしていたが、誰もいない。まさかと思って水面を照らすが、まぁ、やっぱりいない。けれど、その時、水面が変な揺れ方をしたらしい。風で立つような波じゃなくて、なにかが水面を掠めたような感じの。んで、近づこうかと思ったけれどそこはさすがに危ないと思って、なにか投げられるようなものを探して――飲みかけのペットボトルを投げたら、それが水面に落ちた瞬間に、デカい変な生き物が飛び出してきて――触手でペットボトルを水中に引きこんだ。それを見た二人は一目散にアクアツアーから逃げ出した。そらそうなるわな、得体の知れないもん目の当たりにしたら反射的に自分の身を守る行動とるわ。誰だって逃げる。んで、全力で疾走して――気がつくと二人は観覧車の前に来ていたらしい。ここでスゴいのは一目散に逃げたのに二人とも別々にならなかったことだよな。目の前にいると仲間意識的なもんが強くなるのかねぇ。よくわからんけど。それで、無我夢中で走ったもんだからちょっとここで休んでからメンバーを探そうってなって。観覧車の近くにあるベンチで座ってたら、声が聞こえたんだと。小さい声だったから最初は何言ってるか分からなかったらしいんだけど、よくよく聞いてると「出して……」って聞こえて。そこでそいつが思い出したのは観覧車のウワサ――『観覧車の近くを通ると声がする』。思い出してからそいつは――見なきゃいいのに――そこで観覧車を、一番下にあったゴンドラを見た。誰も乗っていない。見上げて一つ一つのゴンドラを見ていくが、なんら変わりはない。錆びて朽ちて、時折、風に煽られて小さく揺れるだけ。しばらくしてもなにも聞こえなかったから、安心して視線を下に戻そうとしたら「がちゃっ」と音がした。どこからだろうと探っていると、また「がちゃっ」と聞こえる。音の感じからしてドアの取っ手をつかんで出しているように聞こえて、目の前にあるゴンドラを見た。数秒後、「がちゃっ」という音と同時にそのゴンドラの扉の取っ手が動いて――でもしばらくするとそれはそのゴンドラだけじゃなくランダムに乱雑に観覧車全体から聞こえるようになって、二人は新たな怖さにその場から走って離れたらしい。結局は、メンバーの誰とも合わずに集合場所のミラーハウスに着いたらしいんだけど、着いたら着いたでメンバー全員がもうすでにそこに集まってて、そいつとA子が最後だったらしく、メンバーから「遅い」とか言われたらしい。二人を待ってたメンバーからするとかなり時間が経ってたらしく、結構な文句を言われたらしい。まぁ、みんなの顔見てA子が泣き出したからそのあとは何も言われなかったようだがな。んで、最後のアトラクションが『ミラーハウス』な訳だが、これはみんなで入ろうってことになって、「いやだ」って泣きじゃくるA子をメンバーが宥めて落ち着かせて「これが終わったら帰るから」って言い聞かせて、『ミラーハウス』に全員で入ったらしい。『ミラーハウス』のウワサは確か『ミラーハウスから出てきた人の中には別人みたいに変わった人がいる』だっけか。『ミラーハウス』の中は普通の鏡張りの部屋で、万華鏡の中にいるみたいだったらしい。けどな、鏡に写るもんに見とれながらマイペースに進んで、ゴールから出られたのは――

 

 ――俺だけだったんだ。

 

 …………………………。

 …………………………。

 …………………………。

 

 なーんてね。んなビビって黙るなよ。冗談。ジョーダンだってば。お前さん、やっぱり騙されやすいな。気ぃつけろよ? それにしても……んはー、話が出来てすっきりしたわー。聞いてくれてありがとな。あー、すっきりしたら眠たくなってきた。俺、もう、帰るわ。マスター! お勘定! …………はい、よし、オッケー丁度ね。それじゃ、お前さん、いい夢をな。また縁があったら会おうぜ。じゃーな。

 

 ……………………。


            ◆◇◆


「今の方、私のこの店に通っていただいて馴染みの方なんですが……」

 

 マスターが貴方に言う。

 

「普段は無口な方なんですけれど………今日は全く別人みたいに饒舌でしたね」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 惜しむらくはただ一ヶ所の誤字報告。 メリーゴーランドの部分で、 予想【異常→以上】 [一言] こうして犠牲者は増えていく……?
[良い点] オチが効いてる。 [一言] いろいろと想像させられる怪奇譚ですね。 真実・真相・闇の中……。
[良い点] 全部のアトラクションを使って綺麗にお話をまとめているところが圧巻です。淡々と進むようでいて登場人物たちの慌てた感じも伝わってきます。そして最後のオチが最高でこれぞホラー!と言う感じ。とても…
2017/07/21 21:33 退会済み
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