愛嬌のある、ブスは可愛い。
昼間の戦場のような忙しさは、どこにいったのか。
今は、午後3時。
飲食店ではいわゆるアイドルタイムと呼ばれる客の少ない時間になっている。
それに合わせて、バイトの人数も少なくなるわ。
さきほど、パートのおばさん達が帰っていった。
豚顔のおばさんも満面の笑みで、帰路についていた。
あのおばさん凄いのよね。
あんな豚顔なのにマスクを着けないで帰れてるのよね。
もちろん、中年だからそんなの気にしないっていえばそれまでかもしれないけど。
私には、この豚鼻を誰にでも晒すなんて、
自分の気持ちもそうだし周りのことも考えると、できないわ。
ふとキッチンの鏡を見ると、
そこには、
目は細いけどスタイルはいいし、
ひょっとしてマスクを外したら、
鼻がすらっとしていて口元も綺麗で、
目が細い以外は可愛い要素満載の女性がいるのかしらね。
なんて、想像してみた。
もちろん、これは私のことだけど(笑)
ホント、マスクを作った人って凄いと思うわ。
というか作った人以上に、マスクの用途を広めた人も凄いわね。
風邪を予防するという基本的な機能だけでなく、
私みたいな豚鼻のブスを隠せるという気づきの素晴らしさ。
時々、
マスクとスタイルで美人かなと近づいてきた失礼な男から頼まれて、
マスクを取ると、
「なんだよ、ふざけんな。豚じゃねーか!!」
と謎な理由で怒られたこともあったが、
そういうイレギュラーなことを除けば、
マスクというのはブスを隠すのにとても便利な道具よ。
「何を考えていたんですか?」
「え、マスクのことよ。」
「マスクの何について。」
「決まってるでしょ。私のブス隠しについてよ。」
「先輩、ブスじゃないけどなー。キュートな鼻してますよ。」
「本当、からかうんじゃないの。この豚みたいな鼻のどこがキュートなのよ。
そんなこと言うんだったら、あんたも豚鼻になる呪いかけるわよ。」
「それだけは勘弁してくださーい。」
この楽しい会話は、キッチンで一緒の男子高校生とだ。
アイドルタイムとはいえ勤務時間だから本来は推奨されないけど、
ピーク時の忙しさから解放され、店も適度に暇なことから、
仕事中とはいえ雑談していることが多いわ。
おっと高校生の説明の途中ね。
その高校生は私を先輩と呼んでいることからも推測される通り、
私が卒業した高校の後輩なわけ。
なかなか可愛らしい顔だちしてるのよ、
だからこういう雑談タイムが私にとっての癒しにはなってるわね。
そんな高校生と仲良く話してるんだから、
自分のことを散々ブスとか言っておきながら、
本当は人生を楽しんでいるんじゃないか、
ひょっとしてその高校生と恋愛関係とか?って
読んでいる人に思われるかもしれないけど、
残念ながら・・・それはないのよ。
この子は彼女がいるし、
それこそお人形さんみたいに可愛らしいのよ。
私みたいに、
養豚場から出荷される予定だった豚が、
なぜか人間になっちゃいましたってレベルの、
豚顔のブスではそんな感情は抱かれないわ。
その子とのデートの妄想とか、
したことがないといえば嘘になるけど、
でも無理な話だもん、こんな豚顔じゃ。
17時入りの生意気な高校生たちがバックヤードに入ってくる。
キッチンの豚肉の在庫が無くなったので、
取りに行くと、
高校生たちから、
「また、共食いですか?」
「共食いじゃないわよ。怒るわよ。」
と、キーッと睨みつける。
睨みつけた時の顔は、それこそ可愛げのない醜い豚顔になっているらしい。
「うわー、豚に喰われるぞー、逃げろー。」
となったが、これはいつも通りの寸劇である。
私の豚顔をネタにされているので最初はいい気分ではなかったが、
年下の高校生達にこんな豚顔でも楽しさを与えられると思うと、
それも幸せよねって思えてきてる。
私が上がる時間と同時に、生意気な高校生たちがバイトの始まりの時間となる。
上がり際、
高校生達から、
「今日もマスク取って、戦場に行く僕たちを癒してください!!」
その期待に応えて、私はマスクを取る。
「おぉおおおお!! 今日も見事な豚鼻ですね。
ホント、鼻の穴がキュート。これで僕らは頑張れます。ありがとう!」
褒められていないことは百も承知で、
からかわれている、
これが中学時代とか高校時代に同級生から言われているとかだったら
確実にいじめよねと思えることではあるが、
私は、
私が豚みたいな顔したブスでも笑いをとって、
みんなを一瞬でも喜ばせられて嬉しいと思っているわ。
ブスは人を喜ばせてなんぼよ。
私も思春期の時とか、
ブスだからって閉じこもっている時期もないことはなかったけど、
でもそれじゃあ意味ないしね。
この考え方を続けていけば、素敵なパートナーに出会える可能性も高くなるだろうし。
家に着くと、
何だか急に眠くなった。
家事の手伝いと思いながらも、
「ごめん、おかあさん、30分だけ。」
と仮眠をとることとした。
夢の中で、私はなぜか男だった。
ただ、私だという意識はあるが、豚顔の私とは似ても似つかないフツメン男子である。
そしてデートしているのは、あの可愛らしい男の子の彼女とだった。
どういうこと?? これも深層心理かしら。
そして起きて、鏡を見てみるが、
いつもの豚顔である。
安心したわ。
でも、最近のって本当に何なのかしら。
私、男になんてなりたいと思ったことないわよ。
何かもう、豚みたいな顔したブスの話を書いてるだけで、
作者自身、豚顔が好きなブス専ということもあり、
凄く楽しく書けています。
このまま、以前はフツメン男子だったという設定がなくてもいいのかなと思い始めてもきていますが、
どうでしょう。
マイペースにやっていきます。
ブス最高! 豚顔の女の子、最高!!