面倒事を抱える気持ち
ここはマドレ街のとある建物内
そこには二人の少年少女とその二人を見張るように三人の男共がいた。
「兄様……怖いです…」
「大丈夫だよ必ずここから出してあげるから」
兄様と呼ばれる少年は見張りに聞かれないくらいの声で勇気づけるようにハッキリと言った。
しかしその少年には脱出する術など思い付かず自分でも絶望していた。
「おい、これで本当に身代金が手に入るんだろうな?」
「あぁそのはずだ、何しろこいつらはソロガス王国の王子と姫なんだからな」
「無駄な心配だ気にすんな気にすんなハッハッハ!!」
「そうだな」
三人は呑気に騒ぎ立てる、その結果身代金どころか命すら失う事になると知らずに。
〜〜〜
「ん?」
「どした?」
「いや、普段ならここら辺で話し声が聞こえるはずはないんだが……何かいるな」
イガラシは足を止めると物騒な事を言い始めた。
「おいおい、勘弁してくれよ」
「しっ、こういう時は静かに冷静にだ。相手に情報を与えずに仕留めるべき相手なら仕留める、無視してもいいなら存在すら気づかせずに立ち去る」
「さっすが暗殺者」
「お、俺は情報屋だゾ?」
「ごめん、言ってる事が完全に暗殺者の類だったからな」
俺の放った言葉はイガラシに刺さった様だ、目が獲物を追う猫以上に動いていた。
「ととと、とにかく俺は情報屋だ!!だ、断じて暗殺者なんかじゃない!!」
「はいはい、くノ一ですかね?」
「おい、お前その名前どこで聞いた」
くノ一と聞いた瞬間イガラシの声のトーンが低くなった。
地雷踏んだか?確かイガラシは真実と嘘を持っていたから嘘は通じない、どう切り替えそうか……
「こ、昔俺の故郷にそういう職業の奴がいたんだよ。そいつらは忍者って中の女に部類されていて暗殺とかやっていたらしい」
本当のところどうなのか分からないが俺はそう考えているから嘘ではない……はず。
「嘘は言っていないのか………。なあ」
「は、はい?」
「お前は魔族をどう思う?」
「どう思うって?」
「例えば、悪い奴とか、恐ろしいとか」
「そりゃあ思わないだろ、人だって何だって悪がいて善もいる。その一分が悪いだけで魔族自体が悪い訳じゃない。何だったら魔族だろうと何だろうと友達にだって家族にだってなれるだろ」
「そう、か。そうだよな。そんなことを言ってくれたのは君が初めてだ……」
イガラシは下を向き黙って胸に顔をうずめた。
「お、おい」
「グスッ」
戸惑うアガナに静かにするようジェスチャーするとイガラシの頭に手を乗せ優しく撫でてやる。
「う、うぅう……ぅ」
昔魔族であるために酷い仕打ちでも受けたのだろう。
俺に出来ることは黙って胸を貸してやることだけだ。
暫くするとイガラシが泣き止み目を紅くさせ顔を向けてきた。
「もし君はもし私が魔族だとしたらどうするんです?」
「別に?お前はお前、良い奴だし恐れる要素なんてどこにもない」
「これを見てもですか?」
イガラシが被っているフードを下ろし今まで隠されていた顔を明かした。
その目には紅く怪しい十字の瞳孔?があり額にはルビーを彷彿とさせる物が埋め込まれている。
しかし、その不思議な瞳にファルに引きを取らないほどの顔立ち、そしてギラっと輝く紅色の短髪。
それを見て俺は素直な意見を言う事にした。
「髪も瞳も全部綺麗だと思うけど?アガナこれってそんなに恐ろしいか?」
「ぁぁぁ……嘘だろ……なんで紅族がいるんだよ……」
うん、問答無用に拳骨だな。
「普通はあんな反応です」
「この世界の奴らは頭おかしいんでねぇのか?」
「この世界?」
「あぁえっと。てか今頃だが声ってどうしたんだ?」
「有耶無耶にしようとし━━」
「もういいから早く声の事について解決しよう」
「は、はい………で、ここら辺は普通声なんてしない場所なんだよ。でも何故か声がするの」
「どこだ?」
「あの家から」
「あいよ」
━━ドン!!
俺はイガラシに返事をすると同時にその建物の扉に体当たりをぶちかます。
「突撃隣の昼ごはーん!!」
晩ごはんが良かっただろうけど今は昼だからね
「なぁ!?」
「んだこいつ?!」
「んぁ?」
本当はこれで有耶無耶にして誤魔化してしまおうと思ったのだが入ったそこは修羅場であった、子供二人が縛られていてそれを男三人が囲んでいた。
「あっらー私お邪魔でしたかね?」
「お前これを見たからには分かってんだろうな?」
「いやー嫌なことから逃げたらその先には面倒事と来た。付いてねーな俺」
「何をごちゃごちゃ言ってんだ!!」
扉に一番近い男がタガーを振り上げ襲い掛かる。
「テンペスト!!」
イガラシの声が裏路地に響いたと同時に暴風が三人の男を襲った。
「うおっ?!」
「これが紅族の魔法か!!」
アガナが声を大きくして叫ぶ。
更に暴風が吹き荒れた後赤い閃光が走り三人の男を切り裂き男達は糸の切れたあやつり人形のように力無く倒れた。
「俊敏134でこれか、慣れれば俺にもできるかな?」
「何ごちゃごちゃ言ってんだ?」
「何でもねぇ」
これが暗殺者の本気か、敵に回らなくて良かったな。
「おねーちゃん凄い!!」
「あぁ紅族だ……近づいちゃ駄目だ!!」
少年の言葉にイガラシの顔が微かに歪んだ。
「お、おいイガラシ」
「いいんですよ普通私はどうせ………ん?今イガラシって」
「おいガキ共、命の恩人になんて扱いしてんだ」
「完璧な無視?!」
危ない危ない思いっきり名前呼んじゃったよ。
しかし、なんで俺はこんなに変な事にばっか巻き込まれんだ?
多分こいつら誘拐された感じだろうし、ネスとかルスとか俺はお守りじゃねぇんだぞ?!
「だって紅族は悪党だって…」
「助けてもらった相手に悪党って」
「だ、だってお父様が」
「このお姉さんは私たちを助けてくれたのに酷いこと言っちゃダメです」
「マリー、でも紅族は━「お姉さんは悪くないです!!」
兄妹のやり取りに水を指すようにドアが開く音がした。
皆驚きそちらに目を向けると一人の男が立っていた。
「そいつらをやったのはてめぇらか?」
「あらお仲間さん?」
「何ふざけてんだこの糞男は」
「ほぉ、うちの若いもん共を良くやってくれたな?」
「こりゃどうも」
「死ね!!」
男は耳の痛くなる程の大声を上げ腰に下げていた剣を抜き放った。
それによりルアンの首が飛んだ━━




