虹と少女と姉御
洞窟から出ると群青の青天井が広がっていた。
その晴れ渡る空には神の呪縛から解き放たれたアスを祝福するかのように大きな弧を描いて虹がかかっている。
「空にある綺麗な物は何ですか?」
「虹って言うんだよ、まるで君を祝福しているようだね」
「この気持ちは何でしょうかとても高揚した気分です」
「それは嬉しいって言うんだよ」
オドオドしているアスに微笑みかけながらそう言う。
「嬉しい…ですか。私はこの世界に生まれて嬉しいです、私は感情があって嬉しいです、私はマスターに会えて嬉しいです」
アスはその言葉と共に先程までの戦いで疲れた心を一瞬で癒す笑顔を俺にかけてくれる。
「うんうん、いい事だね」
『私は蚊帳の外ですかぁ?』
「あぁ、ごめんなファル。ファルにも早く回復してもらってみんなで一緒に冒険に行きたいよ」
その言葉でファルの顔が瞬く間に輝かしい笑顔に変わる
俺以外の奴が見たらその笑顔は太陽のようだ、と答えただろう
だが俺には太陽ではなく月のように見えた、何故月のように見えたのかは分からない。だが決して譲れないものが俺の中にはあった。
『早く回復できるように頑張ります!!』
『いやいや、それ頑張るもんじゃないから』
「それと……アスさん?そろそろ離れて頂けません?」
「ごめんマスター。でも、嫌だ街に着くまで離れない」
ファルさんの視線━実際には見られていないのだが━が痛いですからやめてくだしぃや
『別にそんな目で見てませんけど?』
ファルさんかなりの負のオーラが出てますよ〜って痛い!!いや、痛くはないがやめて!!なんか精神削られるから!!何これ新手の精神攻撃?!
気が済んだのかファルが頬を膨らませそっぽを向く。プンプンという効果音が似合いそうな怒り方だな。
『可愛い怒り方だな』
『っ?!』
ファルは今度は耳まで真っ赤に染まった顔で俯く
にしてもコロコロと表情を変えて少し面白いな。
「さて、帰りましょうかマスター」
「ん?あぁ、そうだな」
『私の怒り方って可愛いんですかね……』
そう言いながらファルは頬に両手を当ててどこかを見ている。
『ん?そういやシファーは?』
『あぁ……さっき活動限界です。とか言って行っちゃいましたよ?』
『うーんお礼くらい言いたかったんだかな。また今度来た時にするか』
『んもう!ずるいです私にも言うこと無いですか?』
『はいはい、ありがとうねファル』
「今度こそ本当に帰ろうか」
「はいマスター」
『はい!!』
街に帰ろうと歩いていると馬車が止まっているのが見えた
馬車に近寄ってみるとその馬車はどうやら車輪が外れているようだ。
「どうしたんだ?人手が欲しいなら手伝うぞ?」
「手伝うぞ?」
アスさん、なぜ復唱したのさ。
「ああ手伝ってくれお願いだ」
返事をしたのはこの中のリーダーであろう。
見た目や口調からして姉御とか呼ばれてそうだな
「わかった」
姉御━勝手に呼んでいるだけ━に指示をもらい手伝うことになった
この一行は俺達の街まで行こうとして途中で車輪が外れてしまったらしい
「あの街に何しに行くんだ?」
「あぁ私達は商人なんだ、ここまで言えばわかるだろう?」
「なるほどあの街で商売しようってのか」
「その通りさ」
「だったらどうしてもこの馬車ごと街に行かないとな。俺はルアンだ、よろしく。こっちの無表情娘がアスだ」
「アスですよろしく。ちなみに私はゴーレむぐ!?」
「最後の方が聞こえなかったんだがなんて言ったんだい?」
「ごごごゴーレムの墓場であったんですよ」
『マスター何故私がゴーレムだということを隠すのですか』
『アスがゴーレムってことがバレると色々と不味いんだよ』
「ほほぅ、ゴーレムの墓場ねぇゴーレムでも漁ってたのかい?」
「いいえクエストがあったのでいました」
「ゴーレムの墓場でクエストねぇ…怪しすぎやしないかい?」
痛いとこついてくるな姉御。
「まぁ偽のクエストだったんですけどね…」
俺が必死の思いで笑顔を作り言うと姉御はしょうが無い、というような表情で
「ならこの馬車を街まで無事運んでくれたら報酬を出すよ」
と笑いながら言う。
「本当ですか?!」
「マスター大喜び〜?」
「マスター?何だいそりゃあ」
おっと、どうしようか………そうだ!
「あの………言い難いのですがこの子前に奴隷に似た扱いをされていたらしく、主人をマスターという呼び方で呼んでいたのでその名残だと思います」
「そういう話なら首を突っ込まないでおくよ」
「そうしてくれると助かります」
『マスター私奴隷じゃない』
知っているでもこの世にはこういう嘘をつかないと駄目な時もあるんだよ。
俺のいたところでは嘘も方便って言葉もあるんだよ。
『ほおぉぉ……わからない』
『デスヨネー』
「んじゃ野郎共!!気合い入れて運ぶよ!!」
「サーイエスサー!!」
「おいそれ男に言うやつだろ!!」
「さーいえすさー」
「アスさん?!こんな言葉復唱しないで?!しかも使い方としては間違ってるから!!」
あぁ、不安だ……




