二人の襲撃者
熱い、痛い、弾丸を撃ち込まれた場所が燃え盛り痛みを脳へ伝達する。
あまりの痛さに全身から油汗が滝のように流れてくる。
「ルアン落ち着け、落ち着くのだ。これは彼奴の特殊な決して消えないと自負する炎魔術なのだ」
「この炎が消えないとわかっていてどう落ち着けと!?」
そう俺がパニックに陥っているとアウルが両手で挟むように━━パンと音を立て頬を叩く。
その小さな痛みと大きな音に焦りを忘れアウルをポカンと見つめる。
「ルアン、奴の炎は消えないが消滅させることは出来る」
消えないのに消滅させることは出来る?な、何を言ってるんだ…………消えないから消滅させることが出来ないんじゃないのか?
「奴の炎は薪以外に必要なのものが無くても自然現象の様に消えるということは無いのだ、しかしその炎は対象を燃やし尽せば消える、つまり消すには薪…………つまり燃やす対象を無くせばいいのだ」
は?どういう事だ?
俺は痛みをと熱さで冷静な判断が出来ない、それにも関わらず小難しい事を言われては尚のことだ。
「どういう事だ?どういう事なんだ!?分からない、分からない!!」
再びパニックになった俺に複数の手が差し伸べられた。
ファル、アス、フィル、イガラシ、ケト、メア、アウル全員が俺の体に手を当て落ち着かせようとしてくれる。
だがそれでも痛みはこくこくと神経をすり減らし精神も肉体もかなり疲労しきってきた。
そんな中アスが耳元でひとつのことを囁いた。
「アス、お前…………何か変なものでも食べたか?」
「もうマスターなんかしらない」
俺の言葉にアスはプイッとそっぽを向くが口元は緩み少し安心したような表情になる。
アスの言葉を聞き光明が見えて来た俺はふざけた事が言えるまで心が安定した。
「みんなありがとな、情けないところ見せちゃったけどもう大丈夫」
はぁ、こんな簡単にパニックになってたらこの先どうなる事か…………でも、あの世界ならパニックになったらこのまま失敗してた。
それが今はこんな風に助けてくれる人がいる、その事に自分の内側から何かにヒビが入った音がした。
「マスターはいつもなさけないところみせてる」
「なんだとぅ?!まぁいい、ちょっとあいつに拳の一つや二つぶち込んでくるわ」
俺はそうアスに言い返すと足の炎を身体の燃えている部分を次空間に入れる事で消し痛む足を無理やり動かす。
「なんだ、本当に簡単な事だったのか…………アウル」
「了解したのだ」
━━━パチン
その音が響いた瞬間そこは先程の廊下だった。
「よぉ、待たせたな」
俺の声に顔は見えないが驚いた様子のあいつは俺の燃えていない足を見るととても不愉快、そして不思議そうにしていた。
「てめぇ、どうやって俺の炎を解いた?」
「おっと、そりゃ企業秘密なんで見せられませんねぇ?それに━━」
『時の無視』
効くとは思ってないが効いたら最良、効かなくても殴る。
時の無視をある程度の実力者に発動したことにより通常の三倍の魔力消費量だが奴の動きは興奮したカブトムシ程度まで遅くなっている。
「あれぇ?君止まってて良いのかなぁ?」
俺は奴に聞こえるようにゆっくり喋ると普通に歩き腹に拳を三発に蹴りを入れる。
そこで『時の無視』を解除すると奴は猛スピードの軽トラに跳ねられたように飛んで行き壁と衝突する。
いっでぇ、傷口からめっちゃ血出てき始めたし……ちょっと止血しとかないと。
俺は袖を破り足にきつく巻き付けると男の方を向く。
うん?意外と弱かったな、もう気絶してるし。
「はぁ、これだから無能は困るんだよぉ……私に馬鹿とか言ってるくせにのされちゃってぇ」
そう言い奴に寄っていく女性が一人いた。
その女性は眠そうな重いまぶたにモコモコっとした服をまとい左右に湾曲した羊の角がついていた。
「これは私がやるしかないなぁ」
羊のような女性が面倒くさそうに欠伸をすると突然恐ろしい眠気が襲ってきた。
「メッメッメッメ、おやすみなさい。永遠に」
口を三日月の様に吊り上げた顔を最後に俺の意識は飛んでいった。




