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鳴高市の悪役事情  作者: 十六夜
14/21

鳴高市の悪役事情⑭

 それは、放課後のこと。各々が時間を自由に使う中、一際テンションを上げていたのが祭だった。それもそのはず、今日は、祭が標的とするジョーカー伯爵が現れる金曜日だからだ。それは同時に、俺が仕事をする日でもある。先週があんな悲惨だった以上、今日こそはしっかりと決めなくてはならない。

「祭、今日はどの辺りに行くつもりなんだ?」

 もちろん、この後の待機場所の確認も怠らない。

「ふふふ、今日も先週の金曜日と同じ場所に行くつもりです。ジョーカー伯爵も、僕がもう一度同じ場所にいるとは思わないはず。罠にハマったところを、質問責めにしてやるのです。前回はうまく難を逃れましたが、今回はそうはいきませんよ?」

 してやったり、とばかりに凹凸のない胸を張る。なんだか、色々と残念だ。悪いが、その罠は、仕掛ける前から不発だぞ。

「あ、今日こそは一緒にどうです、善斗くん?」

「悪いな。今回もパス」

「相変わらず付き合いが悪いですね、善斗くん」

「ほっとけ」

 体が二つあったら、いつだって付き合ってやるさ。

「あ、永倉さんはどうです、僕と一緒に――」

「ごめんなさい、今日は予定があるから」

「あ、そう、ですか……」

 俺に断わられたことなど、最初から予定の内とばかりに、今度は伊月へと声をかけ、張り込みに誘う祭。だが、伊月は教科書を鞄にしまいながら、即座にそれを断った。

 その反応に、しばらく曖昧な笑みを浮かべていた祭だったが、やがて意を決したように伊月へと歩み寄っていく。

「あの、余計なお世話かもしれませんが……、なにかありましたか、永倉さん?」

「え?」

直球でそう切り出され、思わず顔を上げる伊月。その顔は、どことなく浮かない。

「ここ最近と、なんだか落ち込んでいるみたいで。先週とはまるで別人みたいですよ?」

 祭が言いづらそうに指摘したことを、少なからず俺も感じていた。俺や祭に、というよりは、クラス全体に馴染もうとする気が感じられず、むしろ避けている気すらした。話しかけても曖昧な返答しかなく、授業中も完全に上の空。

わずか数日の付き合いとはいえ、伊月の様子が転校初日とは明らかに違いすぎて、違和感を抱かざるを得ない程だ。

「なにかあったなら話してください。僕達、もう友達じゃないですか!」

 伊月の手を強く握った祭は、そう熱弁した。なにかを言いかけようと口を開きかけた伊月だが、俺と目が合うや否や、またも顔を俯かせてしまう。

 どうやら、伊月がああなったのは、俺のせいらしい。とすれば、十中八九、伯爵絡みか。……思い当たることが多過ぎて、どれが真実なのか分からないな。

「そう言ってくれて嬉しいわ。でも、これは私の問題だから……」

 ふわりと優しく、それでいてはっきりと断りを入れられたことで、祭の勢いは絶たれて。しまった。強く握っていた手からも力が失せ、行き場を失っている。

「そ、そうでしたか。あはは、すみません、僕ったらまた余計なお節介を……」

 そんな状況でも、祭は健気に笑いかけ、努めて明るく振る舞っていた。自分の机の上から鞄を引っ手繰るように掴み、肩にかけるとわざとらしく時計を見て、大袈裟に驚いた。

「あ、もうこんな時間です。急いで行って、待ち伏せしなくちゃ! それでは、善斗くん、永倉さん、また月曜日に!」

 大きく手を振り、くるりと背中を向けた祭の目尻にうっすらと水っぽいものが見えた気がするな。あれでいて祭も結構打たれ弱いところがあるし、後でなにかしら連絡を入れてみるか。

「……急ぐって言っても、まだ三時を少し回っただけじゃないか。わざとらしいよ、な?」

二人きりになった気まずさを紛らすべく、俺は思わずそう呟いていた。

 案の定というべきか、反応はない。んー、これは困った。

「……ねぇ、善斗くん」

「ひゃ、ひゃい」

 気まずい空気の中、不意討ち同然に名前を呼ばれ、思わず裏返った声で返事をした俺を見て、伊月は目を丸くした。

「なによ、どうかした?」

「い、いや、なんでもない」

「そう。……あ、この後、少しでもいいから付き合ってくれない?」

「え、この後?」

 突然の誘いだった。おかしいな、この後予定があるんじゃないのか。

「善斗くんに、話したいことがあるの」

 話したいこと、と言われて、恥ずかしながら、心臓が大きく跳ねた。絶対にあり得ないとは思いながらも、変に期待してしまう俺は、夢を見過ぎているのだろうか。

 いけないとは分かっていた。今日はジョーカー伯爵として活動する日だ。本来なら、早めにおっちゃんの店に行き、この前の不甲斐ない失態を取り返すための準備をしておくべきだろう。

 断るんだ。断らなくちゃいけない。

 断れ。今日は無理。今日は無理だとはっきり言え、十代善斗。

「す、少しだけならいいけど?」

 気がついた時には、俺の首は縦に動いていた。それも、ポケットに手を入れて、ちょっとばかり格好をつけながら。

 なにをしているんだ、俺。今ならまだ間に合う。やっぱりダメだと、早急に断れ。

 俺の中の、わずかに残った理性が必死に囁く。

「本当に? 良かった。じゃ、行きましょう?」

 嬉しそうにはにかんだ伊月の笑顔。それは、俺の最後の砦を陥落させるには十分過ぎる程の武力を有していた。


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