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第一話第一幕

本当は危険な本棚


高校に入学したばかりで何も知らない僕は、この世の中の歩き方を学ぶ為図書委員に入った。


図書委員は、一つのクラスから二人選出される。

一人は僕だ。もう一人は西野さんになった。


僕はこの人選に一抹の不安を覚えた。

何故なら西野さんは三日で学校に来なくなったからだ。


僕は早くもこの世の中で一人ぼっちになった。


ただ西野さんとは誰なのかを僕は少し知っている。

中学のクラスが三年間一緒だったからだ。


中高一貫校だから、三日で学校に来なくなった原因はその前の三年間にあるはずだ。


西野さんの交友関係は良く知らない。

そういうことだから目立たない生徒だったことは間違いない。


委員として最初の仕事。

図書委員会の担当で、中二の頃の担任である阿部先生に命じられ、彼女の家に行くことになった。

全然図書委員と関係無いじゃないか。


全く知らない人じゃないために、どんな顔をして会いに行けばいいのか。


答えを求めて僕は図書館へ逃げ込んだ。

「子どもの発達と教育」

「説得術」

「幸せになる占い学」

「いじめ 〜集団からはぐれること〜」

といった今まで特に興味の無かった背表紙が僕に語りかける。


不安もあった。

でもこの感覚は嫌いじゃない。


ストレスをうまくコントロールする。

時間を持て余し始めたら自分に足りないものを探す。

逆に気持ちに余裕が無くなったら、やらなくていいことを切り捨てる。


僕には何かできる。

それが何なのかは分からないけれど。


連絡は担任が付けたらしい。


西野さんの母親に出迎えられた僕は、ダイニングで彼女を待つことになった。


正直なところ、彼女に作業をさせるよう説得するくらいだったら、自分で作業をした方が良いと思う。

僕は自分の意志で図書委員になったが彼女はくじ引きで負けたのだ。

だから僕は彼女に学校に戻ってきてほしいとは思わない。


組織におけるあらゆる問題は、上司ほど熱心な部下が存在し得ないことに起因する。


そして彼女は少し遅れてやってきた。

寝癖にパジャマ姿で出現した彼女と僕は対面し、早くも面喰らった。

西野さんってこんな顔だったっけ。


僕は西野さんに、だらしない姿を晒してもいい人間だと思われている。

ううむ。

どうでもいい奴だと思われるのはやはり悔しい。

しかしその方が相手は警戒していないということだ。


僕はここから引っくり返したいと思った。


いつも何をしているの?

今は楽しいの?

ずっとこのままでいるの?

これからどうするの?

どれもイマイチだ。


「西野さんは」

第一印象がどうであろうと構わない。

「好きな色は何色?」

距離を縮めることに全てを尽くす。


「……なんだろう」

西野さんはこういう時、即答しない。

それは計算済みである。


「そうだ。ちょっと一瞬だけ部屋を見てもいいかな。僕は見れば分かるんだ。三秒でいいから。入らないからさ」

「……うん、それならいいよ」

僕は西野さんの部屋のドアを開けた。

そして言った通りすぐに閉めた。


「西野さんは白が似合うと思う。純粋とか無限というイメージがある」

面と向かって否定してはこなかったが、西野さんは少し顔を曇らせた。

しくじった。

内向的な人は意外と自分の引込思案に対するコンプレックスが強い。

モノトーンは無感動・地味のイメージと直結している。

そして表情豊かな人と比較されては大人に嫌われていく。


「白は彩度の高い色と相性が良いんだ。青とか赤とか。家具を買う時の参考にでもしてみたらどうかな。目立つと思うよ」

かなり適当である。

知らないことは適宜補完する。


「横田君はなんで来たの?」

こういう質問をするのは、きっと敵意からではない。

警戒しているんだ。

「阿部先生に言われて来た。ちょっと様子を見てきてくれって」

「阿部先生。懐かしい」


学校に戻ってきて欲しいと言った話はしない。

交渉術の基本。

相手から拒否権を奪うと、どんな内容にせよ必ず反発される。


大体、僕は西野さんに学校に戻ってきてほしいという思いは無い。


なんだか西野さんと話すのは疲れる。

西野さんは意見は言わないが、嫌な気持ちを比較的ストレートに顔に出す。

その日はプリントを渡して帰った。


僕は学校へ行く。

西野さんは勿論休んでいる。


西野さんの現状を知りたい人はそれなりにいる。

皆不登校児が何をしているのかが気になるらしい。


「なんで西野は学校に来なくなったの?」

新しい校舎・新しいクラスで新しく話すようになった人とそんな話をする。

「それが良く分からないんだよ。やっぱり色々人間の汚いところが露わになるとか、そういうの嫌だったんじゃないかな」


どこもそうだと思うが、中学校は居心地の良い場所ではない。

争いは多い。

そしてそれに敗れた人間の姿は見るのは痛々しい。


阿部先生とも話した。

「おい横田、西野は元気そうだったか?」

「まあまあですね」

「そうか」


次の週にもう一度西野さんの家に行くことになった。

そして西野さんにも皆の話をした。


「僕は西野さんはクラスで七番目に可愛いと思う」

「そ、そっか……」


西野さんは次の言葉を発することが出来ない様子で、「一番は?」とも「八番は?」とも聞いてこなかった。


「一番が桜庭さん。二番が島津さん。三番が筒井さん。四番が鎌田さん。五番が伊藤さん。六番が原さん。そして七番が西野さん」

「桜庭さんは可愛いもんね……」

西野さんは目を開いた様子で言った。


「最近男子のアンケートがあったんだよ。西野さんをトップ5に入れていた男子は樹原君、山崎君、氷川君とか」

「そ、そんなものが……」

これは嘘ではない。

中三の修学旅行でに実際に行われたアンケートの結果である。


なんでわざわざそれを本人に伝えようと思ったか?

相手の心を開くには自分の心を開かなければならないと本に書いてあったからだ。

本に書いてあることは試したくなる。


「一番になりたいとは思わないの?」

「実際無理だって分かってるでしょ」

まともな事を言う人だなあ。


そこで会話は途切れたように見えたが、十秒ほどした後に西野さんが口を開いた。

「私的には横田くんは」

「いや僕のことはいいんだ」

「そう……」

「いや、やっぱり聞く。僕は本当のことを知りたいんだ」

「四番だよ」

「ほ、ほう……」


「でもさ、僕は桜庭さんの顔以外は何も認めていないからね」

学校の噂話をする。

すると西野さんもたんまりと悪口を言う。

悪口を言い飽きたところで僕は帰った。


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