奴隷商人と犬と悪魔女とお人形の旅立ち
「それで、この世界……と言うか、この国は内戦状態にあると?」
「はい。正確には十年前に討伐された魔族の王、魔王の軍にいた残党と国軍の延長戦のような形で戦闘が続いています。……中でも、魔王因子を持つ者は多額の賞金首が掛けられているのでご注意を」
「ふーん。なるほどね」
顎に手をあてて思案しているぼくにファーレンが補足説明をしてくれた。
ちなみに、今はファーレンもロザリアさんも……あと、イケ男君も服を着せている。
みんな、お利口になったからね。
ぼくは、お利口な子には優しいんだ♪
「……その、魔王因子ってのを持っているのは、ぼくだけじゃないんだ」
「ああ。普通は、もっと名の売れた大物が持っているのだが、希にシュンヤ殿のようなイレギュラーが現れることがあるんだ」
ロザリアさんが胸に下げている銀色の首飾りを弄りながら教えてくれた。
あの首飾りは、ロザリアさんたち冒険者の証みたいなものだそうだ。
あの後、お利口になったロザリアさんには服を着せてしっかり優しくして可愛がって上げたら、すぐに本調子に戻った。
「ちょっと、御主人様に対する敬意がなってないんじゃないの?」
ロザリアさんの相変わらずの態度にファーレンが眉をしかめるが、別に構わないからストップをかける。
「いいよー別に。このロザリアさんも結構可愛いからね。ツンデレってやつ?」
「つ、ツンデレ……?ま、まあ、可愛いと言ってくれるのは嬉しいぞ?わたしは、シュンヤ殿のお人形なのだからな」
顔を朱に染めてモジモジと内股を擦るロザリアさん。やっば可愛いなぁ。
(それにしても……)
ぼくは、並んで立っているファーレンとロザリアさんを見つめる。
(ホントに似てるよなぁ、あの二人に)
ファーレンは、皐月と同じ黒髪。それにヤギのような角が生えていて人間離れした容貌をしているが、他人を踏みにじる顔と言い、強者に媚びる顔と言い、やはり内面的にも皐月に似ている。
ロザリアさんは、髪型や髪の色は、違うし喋り方も似てないが、どことなくツンデレな所や裏切る所など志穂に似ている。
二人とも向こうの世界では、ぼくを虐げた女だ。
皐月には、復讐したし今でも恋心めいたものを持っているが、それ以外の女。志穂を始めとしたぼくを侮辱したクラスメートどもには今になっても深い憎悪を抱いている。
(そうだ♪)
そこでぼくは、あることを思い付いた。向こうでぼくを侮辱した皐月と志穂に似た女には、こっちで腹いせに痛め付けてやった。
この世界に来てしまった以上、向こうの世界にいる奴等に復讐は出来ない。
なら、こっちであいつ等に似た奴を見つけて踏みにじってやろう。
そうだ、それがいい。
「御主人様……?」
「ん?ああ、ごめん。ちょっとぼうっとしてた」
そう言って、ぼくはファーレンたちに向き合う。
「それで、ぼくはこれからどうすれば言いと思う?やっぱり異世界に来たから冒険者……かな」
向こうでよく読んだライトノベルやネット小説を思い出してぼくは呟いた。
ところが、今度はロザリアさんが首を横に振った。
「いや、シュンヤ殿は魔王因子をお持ちだから、あまりギルドには近寄らない方が懸命だろう。それに、種族がハーフオークですから……」
ああ、成る程とぼくは納得して頷く。
「やっぱ、嫌われてるんだ。たしか、下等なゴミ……だっけ?」
ニヤリと笑ってファーレンを見ると、面白いくらいに顔を可愛らしく真っ青にしてガクガクと震え出したファーレンが頭を下げてきた。
「す、すいません。御主人様。あれは、そんなつもりじゃ……」
「あははっ、いいよー別に」
一頻りファーレンのリアクションを楽しんだ後に、ぼくは再び問いかける。
「じゃあ、どういう身分だったら良いのかな?」
その問いに答えてくれたのは、ファーレンだった。
「奴隷商人が良いかと思います。短期で金を稼げますし、裏の世界なら種族なんてささやかな問題ですから」
「成る程、それは良いね。……これも、どうしようか迷ってたところだし」
ファーレンの足元に犬のような姿勢で待機しているイケ男君に目を向ける。
服とか返して上げたけど、どうやらファーレンに与えられた快楽とロザリアさんを裏切った背徳感で完全に壊れちゃったみたいだ。
「顔は、いいから奴隷として売れるかな?」
そう思い、ぼくは、足に力を込めて立ち上がる。
「この辺りで一番近い街ってどこ?」
「セイルヴェーンの街だ。わたしが案内しよう」
ロザリアさんが言ってきた。
さあ、出発だ。
ぼくらは、森の西の方角に向けて歩き出した。