イケ男君とガチバトル
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「ああ。危険だ。魔王因子を宿したハーフオークだぞ?今のうちに殺しておかねば」
夜のとばりが降りた森のなかでロザリアさんのそんな声が聞こえていた。
どうやら、ほかにも誰かいるようだ。
木に縛り付けていたファーレンが体の傷の痛みに震えながら眠りに落ちたところで、ロザリアさんが突然起き上がって、茂みの中に入っていった。
なにかと思って後をつけていったところ、ロザリアさんが誰かに話しかけているのを見たのだ。
「第3階位の魔族を瞬殺だぞ?魔王因子所有者の中でもかなりの上位に位置するはずだ。油断している今しか、チャンスはない」
切羽詰まったような口調のロザリアに対して相手の男は、幾分か落ち着いていた。
「いや、危険だ。そのレベルなら、例え不意打ちでも俺たちで対処できるものじゃない」
「っ!だが、今仕留めねばーー」
「それに……それに、俺は、お前を危険な目に会わせたくない……」
「なっ!?ルミオ……」
「なあ……ロザリア。頼む。お前を失いたくないんだ。だから、俺たちで挑むなんてことはしないで、ギルドに報告しよう」
……………。
わお。
随分とお熱いな。
「……っぅ!分かった。わたしも……わたしも、お前を失うなんて………嫌だ」
ロザリアさんの圧し殺すような声を聞いて、相手の男も安心したようなため息をする。
「良かった。よし、じゃあ、早速出発しよう。今から行けば夜明けには街につくはずだ。そこでギルドに報告して、討伐隊の編成を依頼しよう。なんとしても、そのハーフオークを討伐しーー」
「誰を討伐するって?」
男が言い終わらないうちにぼくは、木の影から姿を表した。
「「っ!!!」」
見ていて面白いくらい驚愕に歪む二人の顔。
今気づいたが、ロザリアの相手の男はかなりの美形だった。
……うん。いかにも、リア充らしい顔つきだ。
「しゅ、シュンヤ……殿。な、なぜここに?」
顔を真っ青にしてこっちを指差すロザリアさん。
「いやあ、夜中に突然起き上がるから何かと思ったらこんなところで男の人と逢い引きして、ぼくの殺害計画とか………いけない娘だね?」
「っっっ!!?」
さらに顔を青くするロザリアさん。
まあ、さっきのぼくとファーレンのやり取りを見てたら当然そうなるか。
そこで、初めて男の方が声を上げた。
「こ、コイツが魔王因子のハーフオークかっ!?」
凄まじい殺気を露にして剣をこちらに向けてくる。
「へえ。戦う気?っと、その前に一つ聞きたいことがあったんだ。さっきから、言ってるその魔王因子ってなんなの?」
ぼくの問いを聞いた男は、一瞬キョトンとした顔になったが、すぐに表情を戻した。
「ふんっ!そんなことも知らないのか?さすが、ハーフオークだな。魔王因子っては、かつてこの世界を支配していた王、魔王の体の一部のことだ。それを宿している奴のことを魔王因子所有者と呼ぶ。魔王因子所有者は、断片的にだが魔王の力を使える。ただ、それだけだ。どうだ?下等なハーフオークには、もったいかい情報だっだろう?」
得意そうにいい放つイケメン男(以下:イケ男)。
「ふーん?ご丁寧にどうも。でもさあ………ちょっと言い方がムカつくなあ?」
顎をしゃくって見下すように言ったぼくの言葉に顔を赤くして激昂するイケ男。
「ほざけっ!」
ブゥンッ!
いきなり、剣投げてきたよ。
「おっと」
まあ、遅すぎて当たるわけないけどね。
「ねえ、そこのイケ男君?」
「あ?俺か?」
「そうそう君のこと。ぼく今、きみに結構ムカついてるんだ。でもね、言い方はどうであれ、ぼくに情報をくれたのは確かだ」
ぼくは、恩を仇で返すのは嫌いだからね。
皐月なんか、酷いものだった。せっかくぼくが花を買ってプレゼントしたのに、その場で投げ捨てちゃうんだもの……おっと、話が脱線したね。
「だからさ、もし今すぐ土下座して謝って、そこのロザリアさんを置いていったら許してあげるよ?」
ブチッ。
あっ。言っちゃいけないこと言っちゃった?
「貴様ぁ!誰が!誰が貴様なんかにロザリアを渡すものかっ!!!下等なハーフオークめっ!今すぐぶっ殺してやるっ!!!」
「なっ!?る、ルミオ!待てっ!」
ぼくの戦闘力を知っているロザリアさんが止めに入るが無駄だった。
怒りにすべてを委ねたイケ男君は、背中に提げていたもう一本の剣を抜き放ち、一直線にこっちに斬りかかってきた。
「やれやれ。分からずやさんだなあ。魔龍爆誕」
馬鹿正直に突っ込んでくるイケ男君に向けて黒き龍を召喚して迎撃させる。
しかしーー。
「はあっ!」
さすが、歴戦の戦士(多分)。華麗なステップで龍を回避してこっちに向かってきた。
破壊力抜群の魔龍爆誕も当たらなければ意味がない。
「死ねぇ!」
凄まじい形相で飛びかかってくるイケ男君。
その時。
『新たな呪文が追加されました』
視界の端にそんな文字が写った。
「新しい呪文……?」
素早くメニューウィンドウを開いて確認する。
そこにあったのは、魔龍爆誕の下に記載されていた新たな項目。
殺神邪毒。
「発動っ!」
ほぼ、条件反射で新たに習得した魔術を発動させる。
次の瞬間、右手に出現した魔方陣から放たれる黄色いスライム状の液体。
それが、イケ男君に襲いかかる。
「ぐあぁっ!?」
顔面に黄色いスライムが直撃して倒れこむイケ男君。
そして、彼は自らの体に起きた異変に気づく。
「なっ!?体が……動かない?まさか、毒かっ!?」
驚愕に満ちた表情でこちらを見上げるイケ男君。
その先にあるのは、絶望の権化………まあ、ぼくのことだけどね。
~数時間後~
「くそっ!放せっ!」
イケ男君は、ファーレンを縛っていた木に縛り付けておいた。
ちなみにファーレンは、解放したよ。
だって、いい子になったし。
さて、今度は悪い子に……お仕置きかな?