血まみれの彼女
「もう、わたしにつきまとわないで!」
夜の公園のど真ん中で甲高い声が響き渡った。
金切り声を挙げているのは、今ぼくの目の前にいる黒髪長髪の女の子だ。
彼女の名は、北条皐月。成績優秀で運動神経抜群、おまけに長身で顔立ちも良くて、クラスで一番の美少女だ。まさに、ぼくとは正反対の人間と言えるだろう。
そして、ぼくにとって幼稚園の頃からずっと一緒の幼馴染みでもある。
昔は、とても仲が良かった。一緒に良く遊んだ。
でも、中学に上がった時からあまり話さなくなり、同じ高校に進学した今では全くと言って良いほど関わりが無くなった。
それが嫌で、もう一度仲良くなりたくて、ぼくは彼女に思いを伝えた。幼い頃からずっと思っていた気持ちを告白した。
けれど、結果は散々だった。
彼女の答えは短かった。ただ、「ごめん。わたし今、付き合ってる人いるから」だった。
その答えが納得できなくて、ついしつこく聞いてしまった。「なぜ、ぼくではダメなのか?」、と。
それは、彼女にとっては迷惑だったかもしれない。だけど、聞かずにはいられなかった。
それから1ヶ月経って、ぼくは彼女に呼び出された。昔、良く遊んだこの公園に。
やっと、ぼくの想いが届いたと思った。でも、どうやら違うようだ。
「何なのよ、あんた!?学校にいるときも、帰るときも、塾に行くときも!何度言えば分かるの!?わたしには、今好きな人が居るの!」
美しい顔を歪めて彼女は、ぼくに怒鳴り散らした。
「どう……して……?」
「『どうして?』ですって?」
かすれるような、ぼくの問いに彼女は更に顔を歪めた。
「決まってるでしょ!何であんたなんかと『彼』を比べなきゃいけないの!?『彼』の方が良いに決まってるでしょ!なんで、わたしがあんたみたいな冴えない男と付き合わないといけないわけ!?」
「でも……、でも……昔言ってくれたじゃないか。君みたいな人が好きだって……」
ぼくは、必死になって言葉を紡ぐ。だけど、この言葉は彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。
「はあ!?一体いつの話をしてるのよ!?それにあれは、ただあんたが面白いくらい言うこと聞いたからよ!毎日、拾った犬みたいに付きまとって来て、鬱陶しいのよっ!」
ひとしきり、ぼくに罵声を浴びせて彼女は、ハアハアと荒い息をついていた。
「じゃあ、君の彼氏じゃなくてもいいから、昔みたいに君の側にいるだけじゃダメ……?」
やっとの思いで、そう伝える。しかしーー。
「はあ?何言ってんの?」
彼女の顔に残酷そうな笑顔が浮かぶ。
「マジでやめてくれない?もう、いらないのよあんた。今までは、大人しかったからよかったけど、この前みたいに言い寄ってくるならホントに無理なんだけど?正直言って、あんたなんかに魅力なんて一つもないのよカス。キモいのよあんた。生きてる価値ないから」
彼女に全てを否定された。
その瞬間、ぼくの中で何かが弾けた。
彼女に一歩詰め寄る。
「何よ?それ以上近づかないで」
彼女が一歩下がりながら言い放つ。
だけど、ぼくは、それを無視して彼女に歩み寄る。
「ちょっと!近づかないでって言ったでしょ!叫ぶわよ!?」
全て無視する。
そして、彼女の目の前に立って彼女に向かって手を伸ばす。
「っ!ふざけないで!わたしに触らな……ガハッ!?」
気が付いたらぼくは、彼女の腹を殴っていた。
うずくまる彼女。
「……っ!最低……」
彼女から、ぼくを見上げて更に暴言を吐く。
だから、もう止まらなかった。
うずくまった彼女の顔を蹴る。倒れた彼女の豊かな胸に何度も蹴りを入れる。
「ち、ちょっと待って!ごめん……なさい。謝るから……許し……キャッ!」
涙を浮かべて彼女がぼくを見上げてくるが、ぼくはそれも無視する。
いい気分だった。さっきまで、あんなに偉そうだった彼女が態度を変えた。クラス1の美人の彼女がぼくに、従順になった。
「ハハッ、ハハハハハッ!」
ぼくは、笑いながらうずくまる彼女を蹴り続けた。
そして、数分後。
彼女は、冷たくなって死んでいた。
両手とスニーカーの先端は真っ赤に染まっていた。
「皐月……」
ぼくは、ボソリと呟くように彼女の名前を呼んだ。
その直後。
「動くな!」
背後で声がした。
振り返ってみると、そこには一台のパトカーと二人の警官がいた。
どうやら、見ていた誰かが通報したようだ。
「……ぼくも、おしまいか」
気持ちは、穏やかだった。
ここで、ぼくは逮捕されて人生はバッドエンドだろう。
だが、最後に話す相手が皐月で良かった。
ぼくは、静かに最後の時を待った。
だか、運命というのは相当ひねくれているようだ。
突然、ぼくの前に光が発生した。
その光は、ぼくの視界を真っ白に染め上げた。
そしてーー
「ここは……?」
気が付いたら、ぼくは森の中に立っていた。
つたない文章ですが、よろしくお願いいたします、