1話
そこは何もない広い草原でそこに俺は立っていた。
人も、動物も、木すらもないその草原を無心で歩いて行くと不気味な森が眼界に姿を現す。
ーこの森は一体なんなのだろうかー
ジリリリリリリリリリリリリッ。
自室に朝を知らせる目覚ましが鳴り響く。
毎日のように見る深い森の夢。
森に足を踏み入れようとするといつもそこで俺の夢は幕を閉じる。
そして、俺の不愉快で退屈でつまんない一日が始まるのだ。
俺は生まれた時から何不自由なく生きてきた。
欲しい物はすぐ手に入る。すべて金で解決できる。すべて俺の手の中にあった。
ただ、一つを除いては・・・。
「ぼっちゃま、御召替えを致します」
「ああ」
「ぼっちゃま、学校にお遅刻なさいますよ」
「今行く」
「ぼっちゃま、お夕食が終わりましたらヴァイオリンのレッスン。そしてその後は家庭教師の先生がお見えになられます」
「わかった」
俺には自由なんてものは微塵も存在しなかった。
決められた人生。決められた生活。決められた婚約者。
ただ抗うことなく親の敷いたレールを走り続ける。そんな人生に俺はうんざりしていた。
俺と同じ歳の奴らは友達と遊び、好きな時に勉強して好きな時間に趣味を堪能して毎日を自由に楽しそうに過ごしている。
なぜ俺は箱の中の鳥にならねばならない。
あいつら見たく自由にどこまでも飛んで行きたい。
そんなこと無理なの事ぐらい知っているのに。
俺の両親は昔から俺に同じ事しか言わなかった。
「人を羨んではいけません。それは庶民のただの悪あがきです。あなたにはほかの人とは違う未来がある。それを忘れずに誇りをもって我が家の名に恥じぬ生き方をなさい」
と。
庶民庶民と今を楽しそうに生きてる人達を蔑む両親が嫌いだった。
一体俺にどんな未来があるというのか。
一体俺は何に誇りをもてばいいのか。
まるでこの家は牢獄だ。
固い鉄格子の窓。分厚いドア。外界を遮断した壁。
本当の自由は一体どこにある。
俺は俺の自由を見つけたくて俺の自由とはなんなのか知りたくて家を飛び出した。
警備体制が万全な我が家でも唯一手薄になるお昼時俺は門をよじ登りこの監獄から脱獄したのだ。
今頃、家は大騒ぎだろうか。
そんな事知ったことじゃない。
輝いて見えた。
空とはこんなにも明るかったのか。
花とはこんなにも美しく咲くのか。
見るものすべてが輝いて見えた。
これが自由か。
瞬間。
俺の体は宙に浮いてどん。と鈍い音を立て固く冷たいアスファルトに投げ出された。
同時に俺は車に引かれたのだなと理解した。
ー俺は死ぬのか。これが俺の求めていた自由かー
薄れゆく意識の中そう自分に言い聞かせ俺は意識を手放した。