恋人
事務所に着くと、僕は学生服を脱ぐ。
アクは煙草に火を付けると、厨房に立ちフライパンに油をしく。
「…今日の夕飯何?」
「ちょっとは手伝えよな。特に何の変哲もない、ただの炒飯だよ」
またか、いい加減にしろと言いたいのをグッとこらえて僕は一眠りしようとする。今日飲んだ珈琲のせいか、なかなか寝付けない。
川沿いに走るシュラを追い掛けながら、僕は笑っている。貝殻を沢山集めてこいつにプレゼントするつもり。
「ガキは何か将来の夢とかあるのー?」
「特に無いけど…出来たらシュラとずっと一緒にいたい事かな」
「へぇー俺の夢はねー外国に行くことかなー日本なんか狭っ苦しくて、俺たち警察の世話になって、やんなっちゃうよね」
テトラポットの向かい側からアクが迎えに来るまで、まだ時間がある。
シュラには不思議な魅力がある。それは声かもしれないし、目線を外すタイミングかも知れない。
「帰ったらボウリング場に行こうぜ。スコアが200点超えないのが悔しいんだ」
「おーい、そろそろ帰るぞー」
アクが向こうから呼んでいる。
そろそろ夕刻だ。
「先に帰っててよ。シュラ。僕まだ少しやりたいことがあるんだ」
そのまま二人が遠ざかるのを見ながら、僕は貝殻を集めて、綺麗なものにより分ける。
本当はそんな事してる場合じゃなかった。
その帰り、シュラは事故に巻き込まれて死んでしまったのだから。