(3)
深き深い記憶の奥に…
透き通る一つの雫…
「……っ…」
ツーッ…とノエルの頬をつたう涙。
「…ぁ…」
そんなノエルの側にいたリオンが声を漏らす。
「……泣いてるの…?」
そっとノエルの目から溢れる涙を拭うリオン。
「……はやく帰りたいよね…」
そっとノエルの髪を撫でながら呟くリオン。
リオンにも辛い過去はある。
悲しい悲しい過去。
リオンの父親は"英雄ガーロン"と呼ばれる国の英雄だった。
悪し悪鬼を退治し、恐怖対象である吸血鬼と、無条件で和解したこともあったのだ。
英雄なのに…優しく明るい、皆の憧れだったはずだった…のに…
ある日、国の暗殺者に父親を殺されかけ、一命はとりとめたものの、弱り、そこへ吸血鬼の中でも最強最悪だといわれる指名手配中だった吸血鬼フェーリオンに襲われ、父親、姉を殺され、母親は性的に襲われ殺され…
普通なら吸血鬼を憎み忌み嫌うはずのリオン…。
しかしノエルは憎むことなどなかった。
逆に吸血鬼のことを調べ、どんどん興味を持つようになった。
国の中ではリオンのことを変人と言う者がいるが、気にすることなどない。
リオンは優しい心の持ち主なのだ。
「……」
リオンは微笑むと下へ降りて行く。
リオンが部屋を出ると同時に目を開けるノエル。
「……なんなんだよ…」
〈…目を閉じてても分かった。
自分の涙以外にも……〉
リオンも泣いていた。
「…なんで…なんで…。
俺は…憎むべき存在なのに…」
〈分からない…どうすればいい…〉
「………起きたかい?」
「…っ!」
気づくと側にローズが立っていた。
「…リオンはいいこだよ。」
「…なんでそんなこと…」
「……リオンだってね、アンタと一緒さ。
吸血鬼を憎んでも当たり前なんだよ。」
「…え……」
目を見開くノエル。
「あの子の父親も、姉も、母親も…
…家族全員吸血鬼に殺されたのさ。」
「…そんな……」
「憎んでも当たり前だろ?
でも、リオンはそうしないんだ。
本当に、いいこだよ…」
優しい色を瞳に過ぎらせるローズ。
「……」
「…あの子に、少しだけでもいいから…
心を開いてやったらどうだい?
あの子も仲良くしたいと思ってるよ。」
それだけ言うと、ローズは出て行く。
「……。」
戸惑いの色を瞳に浮かべながらまた、眠りにつくのだった。
「ノエルくーん!」
気持ちの良い朝。
バンッと部屋の扉を勢いよく開くリオン。
店員服に着替えており、片手のお盆にはパンとトマトスープ、ワインが乗っている。