食パン女(A面)
通勤途中、コンビニの角を曲がったところで、胸の辺りに軽い衝撃を感じた。
「にゃう?」
誰かにぶつかった? 弾き飛ばされそうになったそいつを、とっさに右腕で抱えると、近くの中学校の制服を着た女生徒が目を回していた。ずいぶんと背が低く、少女の頭は丁度俺の鳩尾の辺りにあった。前は見ていたつもりだっが、もしかして、少女がちっちゃくて目に入ってなかったのかもしれない。
「すまない、大丈夫か?」
腕の中の女子中学生に声をかけると、少女は数度瞬きをして、それから「きゃ、きゃあ?」ってなぜか疑問系の悲鳴を口にした。それから、おずおずと俺の胸に手を当てて、んーと押しのけるようにしたので「立てるか?」と、少女を支えていた右腕を離したら、俺の胸をに手を当てて突っ張っていたものだから、少女は勢いあまってそのままころん、と両足を上にして尻餅をついた。見ようと思っていたわけではないが、魔法少女ものキャラクターがプリントされた下着が目の前に晒されて、見た目どおりガキだなと内心思ったものの、何も見なかった振りをして、真っ赤な顔の少女に手を差し伸べた。
「うー……」
なんか唸りながらも、少女は俺の手を取って立ち上がり、ぱたぱた制服の埃を払ってから、俺の顔を見て、べぇ~っと舌を出した。それからぺこりと一度お辞儀をして、それからとててと軽い足音をさせて立ち去ってしまった。変わった娘だな、と思った。
ふと気がついたら、俺の背広に、マーガリンとイチゴジャムがっべっとりと塗られたトーストが、べたりと張り付いていた。やべぇ、これじゃ会社いけねぇ。
妖怪:食パン女
通勤・通学途中の主に男性の前に現れる。
食パンやトーストなどを口にくわえた、近隣の学校の女子生徒の姿をとることが多い。
曲がり角など、対象から視認しにくい場所に待機していて、
不意に対象の前に飛び出してぶつかってくる。
(注:この際に下着を対象の前に晒すことが多い)
ぶつかったことに対する慰謝料や謝罪を要求することがあり、
また下着を晒されたことを理由に暴力を振るってくることもあるので注意。
この妖怪に出会った時の対処法として、まずは可能な限りぶつからないようにすること。
ただし避けた結果、食パン女が転んでしまったには手を差し伸べてあげること。
ぶつかってしまった場合の対処として、最善なのは相手が倒れないように支えてあげること。
(この際に胸などに触れてしまわないように注意すること!)
次点としては下着を晒された場合などに、顔をそむけて見なかったと主張すること。
また、倒れてしまった食パン女には必ず紳士的に手を差し伸べてあげること。
無視してそのまま逃げてしまうのは最低の行為です。
また特記事項として対象が学生の場合、妖怪・謎の転校生(女)として
再び対象の前に姿を現すことも多いので覚悟しておくこと。




