第八節
森の中を、植物の選定をしながら歩き回ってみる。
薪や枯葉もまだまだ必要になる。
往復しつつ地道に集めていった。
長めで真っ直ぐな木の棒を用意する。
まずは防衛対策が必要だ。
棒の先をツールナイフで徐々に削って行く。
ナイフに負荷を掛けて壊しては元も子もない。
軽く、地道に削っていった。
2時間半ほど掛けて二本の木の槍が完成した。
一本は太めで短目の防衛用。
もう一本は細くて鋭く、そして長くした魚取り用だ。
水の抵抗と射程距離を考えて、この形にしてみた。
さっそく実践に向かってみる。
静かに水際へと近づいて槍を突いてみるが
すり抜けるように逃げられてしまう。
なかなか一筋縄には行かないものだ。
その時、岩場の影でジッとしている魚が横目に入ってきた。
気付かれないように、そして素早く槍を突く。
お……当たった……
魚は、かなり暴れている。
このまま引き上げれば逃げられてしまいそうだ。
槍を押さえながら、片手で靴を脱いで軽く後ろに投げる。
靴下も脱いで靴の方向に投げた。
シーンズを膝まで捲り上げる。
おもむろに水の中に入っていって、槍を垂直に立てる。
力の入る所までくると、そのまま槍を水の底に押し付けた。
2度、3度と力を込めると魚の動きが静かになった。
片手を水に突っ込んで槍の先端を確認すると、しっかりと刺さっているようだ。
その先端を持ちながら水から引き上げると
槍に貫通した魚がグッタリとしていた。
何とか小物を一匹確保できたが、これはしばらく課題になりそうだ。
魚を逃がさないように上手く射程距離まで近づく方法を
編み出さなければいけない。
川原に魚を置き、エラの奥にツールナイフを突き刺す。
ビクっ! と動いて魚は静かになった。
ちょっと可哀想だが、すでに食料になってもらう事は確定している。
躊躇無く、脊髄を切断させてもらった。
次に尻尾の付近に切り目をつけて、水の中に魚の頭を沈めながら左右に動かした。
魚から溢れ出した血で手元の水が赤くなる。
しばらく動かしていると血も少なくなっていった。
このサイズなら血抜きはしなくても良いかもしれないが、
調理法が丸焼きしか出来ない。
最低限の臭みは消しておきたい。
次に魚を洗って、腹をツールナイフで切っていく。
内蔵とエラを指で掻き出した。
焼いてしまえば丸ごと食べる事は出来るだろうが、
もし、内蔵に何かが寄生していたら危険すぎる。
これは排除しておいた方が無難だろう。
生の内蔵の柔らかい感触が指に伝わる。
まぁ、気持ちの良いものではないな……
売り物のような姿になった魚を洞窟に持ち帰った。
暖炉の炭を薪で突付きながら少し並べなおして
平らになるように調整する。
その中に、手の平程の大きさがある
若干波打った平らな石を素早く置いてみた。
素手であっても瞬間ならば火傷はしない。
まぁ、それでも十分に熱いのだが……
分厚い手袋か、トングのような長い道具が欲しい所である。
木で突付いてみると、置いた石は安定しているようだ。
まぁ、何とかなりそうだ。
石が熱くなったのを確認して魚を置いてみた。
「ジュっ!」と蒸発するような音が響く。
今は串になりそうな木が無い。
箸の代わりになりそうな物は用意したが
串を作るには、全く適していない。
集めた木は適度に乾燥していて、火には滅法弱そうだ。
長い時間を炎に晒されれば、あっさり燃え尽きて
暖炉の中で燃える炭のようになってしまうだろう。
そしてその中に落ちてしまったら、せっかくの食料が汚れてしまうし
熱い炎の中に、手を入れて回収するのは至難の業だ。
ここは、やはり石焼が無難だろう。
これで上手く焼けてくれると良いが……
やがてパチパチと音がしてきた。
どうやら、焼けてきているようだ。
箸で魚をひっくり返してみると綺麗とは言えないが焼き目が付いている。
焼き上がるのを見届けると、拾ってあった厚めの葉の上に移動した。
植物の葉が皿代わりなので少し悲しいが、贅沢が言える状況ではない。
多分、焼けてるよな……
ツンツン突付いてから、魚を解してみると中は白くなっていて
身が簡単に剥がれた。
おもむろに、食べてみた……
「っ!」
おもわず、声にならない声を上げてしまう。
美味い……美味すぎる……
塩気は全然無いが、そんな事は関係無いくらいに美味い。
さすがは取れたて……
いや、私が空腹なだけなのだろう……
まぁ、そんな事はどうでも良い。
私は夢中で魚に喰らい付いた。