第七節
夜空が白み始めて、やがて静かに朝日が森を照らして行く。
鳥の鳴き声が耳に心地よい。
夜が明けるとともに炎の勢いを落としていった暖炉は
なかなか良い感じに炭になっている。
まだ少し燻っているが、あえてこのまま放置する。
これが消し炭のようになり、次の点火が楽になるのだ。
さて、水を探しに行くか……
まずは洞窟の横から少し高台に登り、森を見渡してみる。
右の方に木が少ない部分を見つけた。
森に線を引いたような状態である。
多分、あそこに川があるはずだ。
距離も大した事はなさそうだ。
まずは向かってみよう。
森を抜けて行くと、水音が聞こえてくる。
やがて開けた視界に川が見えた。
小さめだが、とても綺麗な川である。
下流の方では、鹿のような動物が水を飲んでいた。
足場を確認しながら慎重に川原へと降りていく。
水際まで来るとさらに慎重に水の状態を見てみる。
とりあえず鹿が飲んでいるのだから人間も飲める可能性は高い。
だが、まだ素直に安心は出来ない。
この川自体が何かに汚染されている可能性もあるのだ。
しかし水質検査ができるような素材は持っていない。
煮沸すればすぐにでも飲めそうな雰囲気だが、今は鍋が無い。
その材料に出来そうな物もまだ見つかっていない。
昨日の今日だ、こればかりは仕方が無い……
私は水を手ですくい上げ、少しだけ唇を湿らせた。
今日の水分補給はここまで。
もし危ない菌が居れば、これだけでも十分に危険だ。
発熱や下痢などの症状が出るだろう。
運が悪ければ死ぬかもしれない。
だが、これで明日になって問題が出なければ、
そのまま飲める水である確立が跳ね上がるのだ。
3日ほど掛けて摂取量を増やして行く予定である。
良く見ると、ちらほらと川の中に魚影が見える。
なんとか捕獲したいが、さすがに手掴みは厳しいだろう……
これも方法を考えなければいけない。
川原の石を静かに持ち上げてみる。そして、もう1つ。また1つ。
5個目の石を持ち上げると、やはり居た……
沢蟹である。
すばやく逃げようとするが、石で頭を叩いた。
本当は生け捕りが望ましいのだが、今は捕まえても入れる物が無い。
そして、せっかく見つけた食料に逃げられては困る。
蟹には申し訳ないが静かになってもらうしかなかった。
とりあえず5匹捕まえて洞窟へ戻る。
まだ燻っている薪の中に蟹を放り込んだ。
消え欠けと言っても、火力はまだ十分に残っている。
黒っぽい体が徐々に赤くなってくると、
香ばしい臭いが立ち込めて来た。
本来は油で揚げたい所だが、残念ながら今は丸焼きにしか出来ない。
比較的、川の蟹は甲羅が柔らかい。
何とか食べる事が出来るだろう。
しっかりと焼きあがった蟹を食べてみる……
うん……なかなか美味い。
さすが蟹だけの事はある。
だが、比較的柔らかいと言ってもやはり甲羅。
丸ごと食べるには、さすがに硬かった……
仕方が無いので、歯で分解しつつ中身を食べた。
とりあえず、緊急時の食料を確保できただけでも良しとしよう。
緊急時の食料と言えば、
昆虫や幼虫と言った選択肢も
あるには……あるのだが……
いや……それは、辞めておこう……
それこそ、究極の選択に迫られなければ口に入れようとは思わない……