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第三節

 これは……参ったな……


 目の前に広がる大自然に思わず放心してしまう。

だがその時、私の中で何かがざわめいた。


 これまで、かなりハードな環境だった事もあるが

この能力に気が付いたのは、ひき逃げに遭った後だ。


 何か嫌な感じがする……

そう思う時は必ず何かが起きる。

その嫌な感覚を無視して、その日の予定を優先した結果が

この右足だ。

あの時に良く判った。

それまでも、その手の勘はあったのだが

あまり気にしていなかった。

だが、改めてその勘を気にして動いてみると。

危ない所で回避という現象が多々起きるようになる。

バイクで細い道を走っていた時が良い例だ。

前の信号が青だったので、そのまま進行しようとした時に

嫌な勘が全身を過った。

慌てて減速すると目の前を信号無視した車が

とんでもなく偉い勢いで通過していった。

もし、あのままの速度で走っていたら

思い切り吹っ飛ばされて死んでいたかもしれない。

生きていたとしても、かなりヤバい事態に陥っただろう。

そんな事を何度も繰り返すうちに

自然と勘に頼るような習性が付いていって、

いつしか、この危険回避能力は私にとって無くてはならない物となっている。

その第六感が今現在、全身で大騒ぎしているのだ。

それは交通事故のような一時的な危険ではない。

長期に渡って命が危険に晒される事を物語っていた。


 とにかくこのままでは危ない事は確か。

心を冷静に保って、今出来る事を整理した。




 まず、一番にやらなければならない事は

安全に眠れる場所の確保だ。

それは雨風に耐え、尚且つ温度変化にも耐える場所でなければ意味がない。

できる事なら、ある程度の防衛対策もかねた場所がいい。

これを明るいうちに確保できなければ死を意味する。

夜の野外は人が予想する以上に寒い。

そして、夜行性の獣は基本的に獰猛だ。

人間の目は闇の中では使い物にならない。

そんな時に敵を確認出来ないまま襲われれば

何の抵抗も出来ずに食い殺されるだろう。

今は、安全の確保が最優先事項なのだ。

現状、他の事は後回しにしても一向に構わない。

食事など、一週間は食べなくとも十分な体力を維持して生きていける。

最悪、水は4日以内に確保すれば何とかなる。

そして水さえ確保できれば、例え食べ物が無くとも3ヶ月は生きていられる。

人間は、飢餓状態を超えた時に空腹を忘れる。

そして、己の脂肪を栄養源にして生きる望みを繋げるのだ。

これはサバイバル時代に実証済みである。

私は森の中を歩き出した。


 その時に、何か足に違和感があった。

なんだ?

そこには、普通の右足があった。

しかし、それは私にとって異常事態。

ありえない事なのだ。


 私は15歳の時にひき逃げに遭って、

ゾンビのように変わり果てた右足と付き合っていた。

一時は切断を仄めかされたほど重症。

踵から指先にかけては粉砕骨折。

スネの後ろからは骨が飛び出て、大腿骨も折れていた。

折れていない骨は、親指のラインの一部だけ。

右足の9割は、複雑骨折の状態であった。

そして一度バラバラになってしまった骨は、

元通りにはならない。

2年半は松葉杖にお世話になる日々だった。

だが3年目には激痛はある物の自分の足で立つことが出来て一本杖になり、

今では意識すれば健常者に見える程度には誤魔化す事が出来る。

だが、何かと右足を引きずり気味になるのは普通の出来事。

痛みは、あれからずっと残っているのだ。

簡単に言えば身体障害者である。

だが、この中途半端な治りかたのお陰で、障害手帳を申請しても

行政は認めてくれなかった。

足が半端に機能してしまうと、重症であっても申請は通らないそうだ。

自主的なリハビリを行った為に、基準以上の角度まで動いてしまう。

粉砕して間接が存在しないはずの指は微妙に動く。

足の短縮も総合計で2.5㎝、等級の基準は3cmからであった。

激しい痛みはあっても、確実に足として機能してしまっている。

どこの等級基準にも引っかからない微妙な重症。

切断にならず、足が残っているだけマシなのかもしれないが……

全く、この足のお陰でずいぶんと嫌な思いをしたものだ。


 だが、今の右足はどうだ?

何故、痛みがない?

恐る恐るジーンズを捲り上げると

そこには左足と見勘違うような普通の右足があった。

どうなっているのだ?

カクカクと動かしてみるが、それはやはり普通の右足であった。

まぁ、今は判らない事ばかりだ。

深く考えるのはやめよう。

この深い森の中、普通に動けるのはむしろ有難い。

太陽を見れば、すでにかなり傾いてきている。多分、午後二時頃だろう。

一応、携帯電話で時間を確認してみたが00:56になっている。

そう、本来なら今は深夜のはずだ。

だが、このまま悩み続けて居られる余裕は無い。

あと4時間もすれば辺りは闇に包まれる。

夜の森の中でたった一人の状況は危険以外の何物でもない。

とにかく今は急ごう。

手頃な棒を拾って覆いかぶさる植物を避けながらひたすらに進んでいった。













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