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第二十五節

 竹槍を持って、森の様子を見に来ていた時の事だ。

狩りに来たらしき老人と遭遇した。

それは激しく驚かれた。

だが言葉が、まるで通じない。

困った……さらに弓か……

場合によっては厄介だな……

老人はなかなか立派な弓を携えていた。

風体からして、間違いなくハンターだ。

腕は確かなのだろう……

そして、背中には矢筒が掛けてある。

しかし困った……

何を言っても通じない状態で、相手は腕の良さそうなアーチャー……

危なすぎる……

とりあえず敵意が無い事だけは必死にアピールしているつもりだが

今一歩、通じていない様子だ。

非常に困った状態である。

その時、老人の指が背中へとスッと伸びる。

私の全身がざわついた。

殺される……

私は条件反射で竹槍を老人の目の前に突き付けた。

その攻撃態勢のまま動きを止めた。

私は老人の目を見つめたまま、僅かに首を振る。

思いの他早かったであろう私の行動に

目を見開いたままの老人は静かに頷いた。

やがて、矢に伸びた腕が静かに下りた。

私も静かに竹槍を下して、構えを解いた。

とにかく付いてきて貰おう……

誤解を解くには、もはやそれしかない。

私はわざと背中を見せて、さらに敵意が無い事を見せ付ける。

洞窟の方角を指差して歩き出した。

老人は私の後を付いて来ている。

後ろから攻撃されなくて、本当に良かった……


 私の住む洞窟に到着すると、老人は驚いた顔をしている。

まずは入り口で待ってもらう。

黒猫を呼ぶと、私の所に走ってきた。

とりあえず、抱きかかえて老人に見せる。

微笑んでいるところを見ると、これで黒猫が攻撃される事は無いだろう。

暖炉の炎を調節してから、中に招き入れた。

私は大きな溜め息の後に、大げさに両手を上げて首を振ってみた。

これで判らなければ、もう仕方が無い……




 老人は、私の寝床に駆け寄った。

狼の毛皮を手にして震えている。

なんだ?

目を丸くして毛皮と私を見比べて何か言っている。

「お前がやったのか?」と聞いているのかな?

まぁ、信じられないだろうなぁ……

私は竹槍と狼の毛皮を持ち、突き刺した時の穴に当てた。

そして、洞窟入り口に黒く残った跡を指差す。

老人は、唸りながら何度も頷いた。

どう解釈したのだろうか?

別に武勇伝のつもりは無いのだが……


 どうも老人は、私の作った道具に興味を引かれているようだ。

色々な道具を一つ一つ手にしながら唸っている。

そして、それ等を指差して私を指差す。

多分だが、

「お前が作ったのか?」と聞いているのだろう。

私は素直に頷く。

老人も妙に頷いている。

本当に通じているのだろうか?

今度は、何やら土鍋を興味津々に見ている。

それを指差しながら、突然に私を見た。

一体、何が聞きたいのだろう……作り方だろうか?

私は残りの粘土を指差した。すると、また唸り声を上げている。

とりあえずは、納得してくれているようだ。

老人はおもむろに石斧を手にして、さらに石刃の部分を指差した。

私は川原の方角を指差した。

なんだか老人は、行く気が満々なようだ。

仕方が無い……

川原へ案内すると、砥石代わりの岩に竹槍を擦りつける様なジェスチャーを送った。

それに目を丸くして頷いている。

まぁ、ここは何かしら実践するのが一番良いだろう。

静かに水際まで来た私は、岩陰近い水面に竹槍を一気に投げ付けた。

川底に竹槍を押し付けてから引き上げると、そこには魚を刺さっている。

「Oh!……」とアメリカ人のような声を漏らした。

その場で魚をさばいて私は洞窟に歩き始める。


 そのまま洞窟まで戻ると、竹串に波状に魚を差して暖炉へと突っ込んだ。

今は、炎が少し強い。

焦げないように加減しながら、しっかりと焼き上げた。

私はそれを老人へ差し出す。

「どうぞ、食べてください」

通じたかどうか判らないが、老人は素直に魚を頬張った。

目を丸くして、何度も頷いている。

はたして、美味かったのだろうか?

塩が無いから、味は薄いはずなのだが……

まぁ喜んでくれているようだから今は良しとしよう。


 食べ終わって、しばらく満足そうにしていた老人だったが

つい先程、何とも言えない視線を注がれてしまった。

今は視線をずらし、何やら勝手に思いにふけっている。

完全に自分の世界に入ってしまった様だ。

まぁ、しばらく放って置くしかないか……


 私の状況は、誰にもどうにも出来ないだろう。

そんな事は良く判っているつもりだ……

下手に関われば、相手に迷惑を掛けてしまう可能性は高い。

とりあえず、顔見知りのレベルにはなれたはずだが、

友人にはなれないかもしれない。

何しろ簡単な単語でさえ判らないのだ。

言葉の壁とは本当に大きい物なのだ。


 老人が、いきなり立ち上がった。

突然だったので驚いたが、荷物を纏めている。

帰るのかな?

何やら私に向けて話しているが、それは全く判らない。

これでは、下手に頷く事も出来ない。

やがて、両手で握手をされてしまった。

老人は何故か真顔だ。

これは、困った……

こう言う時は、どういうリアクションをしたら良いのだろう?

そして私に笑顔で手を振った。

多分、別れの挨拶だろう……

せめて、ここくらいは合わせて良いだろうか?

私も小さく手を振った。













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