第二十四節
あの狼の襲撃以来、新しいお客様は訪れては居ない。
毛皮の布団もあるので、なかなか快適な睡眠が取れている。
だいぶ、ここの生活も落ち着いて来た。
さて、そろそろ作るか……
おもむろに、太い竹を手にする。
かなり大きなサイズなのだが、真っ二つに割れてしまっていた物だ。
だが、これはこれで使い道があるだろうと拾っておいた。
私は、地道に加工を始めた。
先端をノコ代わりの石で三角に削り取り、
30㎝ほど後の左右に切り目を入れてから後方の長い方を一気に割る。
握れる程度に太さにしたら、それを持って川原に向かった。
いつもの砥石代わりの岩で、ささくれた所を削っていく。
綺麗に仕上がった部分を、手を滑らせて確認する。
後は、先端の研ぎだ。
今回は、竹槍ほどの鋭さは必要ない。
薄すぎれば、かえって使い物にならないだろう。
適当な所まで削っていった。
これで簡易スコップの完成だ。
竹が分厚いので、なかなか丈夫である。
切り目の部分に足を掛ければ、かなり深くまで掘れるはずだ。
もう、竹の子狩りの時のような苦労はしたくない。
今回は、あの失敗を十分に反映させたつもりだ。
スコップを持ち帰ると、洞窟の一番奥を掘り出した。
思いの他、相当の勢いで掘れている。
とりあえず成功だが、この手の作業はハードだ。
そして洞窟の奥は、風が通らない為に意外に暑い。
簡単には作業が進まない。
しかし、この場所が最適であろう。
汗だくになりながら、土を堀続けた。
ようやくの思いで、1メートル近い穴が開いた。
ひとまず外に出て、風に当たる。
汗に風が当たる度に、涼しさが増していく。
大きな溜め息をつきながら青空を見ると、以前の事を思いだした。
何だか、ガテン系のバイトでこんな雰囲気があったなぁ……
今思えば、懐かしい……
こんな時は缶コーヒーが無いのが少し悲しいが、こればかりは仕方が無い。
竹コップの水を飲み干すと、勢い良く立ち上がった。
さぁて……切りの良い所まで一気に行くか……
底の深い土器を用意する。
野焼きをした時に、これを想定して作っておいた物だ。
闇に目を慣らし、慎重に探し当てた骨を土器の中に1つづつ丁寧に入れていく。
これで全部かな?
最後に頭蓋骨を静かに乗せた。
手を合わせて、黙祷する。
ピッタリではないが、それに合わせて作った蓋を被せた。
これが、骨壷代わりだ。
長い木の棒と、その半分程度の棒を用意する。
今回の材料は竹では無い。
とても良い薪になりそうな素材なのだが、ここは最良の材料を提供したい。
二つの木に切り込みを入れていく。
こういう時はノミが欲しい所だが、そんな物は無い。
石を代わりにして、慎重に彫っていく。
それなりの形が付いたら、二つの木を組み合わせて一気に石で叩き込んだ。
甲高い綺麗な音がして、しっかりと食い込んだ。
これで十字架の完成だ。
まぁ、意外に良く出来たと思う。
十字架ではなく石でも良かったのだが、何となくこの形にしてしまった。
何の効果があるか判らないが、不思議とこれが良いと思ったのだから仕方が無い。
なんだが縄文式土器に十字架と、和と洋が入り混じってしまったが問題は無かろう。
これが、今の私に出来る精一杯だ。
上から石で叩いてしっかりと十字架を据え付ける。
次に、骨壷を穴の中に入れる。
ここで割ってしまっては、何の意味も無い。
慎重に壷を移動した。
その上に、掘った土を被せたら軽く慣らして作業は終了だ。
竹コップに水を入れて十字架の前に置いた。
これで、ようやく約束を果たせた……
墓の前で手を合わせて、静かに黙祷した。
「やっと墓が出来ました、安らかに眠ってください」
黒猫は、それを隣で静かに見守っていた。