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第十七節

 雨の間、わざと土の上に転がしておいた1本の薪を拾って様子を伺ってみる。

何とか、乾ききったかな?

ならば、薪になりそうな木も乾いてきた頃だろう。

そろそろ補充しなければいけなかったが、湿気た薪は極端に火が付きにくい。

わざわざ拾いに行って、薪が湿気ていたら洒落にならない。

それだけは勘弁である。

ずっと、自然乾燥するのを待っていた。

とりあえず、まだ一週間程度の在庫は用意してあるが漠然と安心は出来ない。

また雨でも降ろうものなら、もうお手上げである。

集める時に集めておかなければならない。

今日は、薪探しに費やそう。

おじいさんは山へ柴刈りに……

おじいさんじゃね~よ!

……

う~ん……虚し過ぎる……

暇つぶしも、ある程度レベルを考えなければなるまい……


 何度か往復しているうちに、猫を発見した。

いや、猫だと思う……

山猫だろうか?

少し、小高い所で座ってウトウトしている。

日向ぼっこだろうか?

しかし、こんな所に黒猫か……

毛艶が良さげで整った顔立ちからして、とても野生猫には見えない。

距離があるから何とも言えないが、どちらかと言うと小柄な猫だ。

あれで、生きていけるのだろうか?

まぁ、森に居るのだからしっかりと生きているのだろう……

山猫はガッチリした柄付きが多いと思っていたが、それは間違っているのかもしれない。

先入観とは、恐ろしい物だ。


 薪を洞窟に持ち帰り、また森へと回収に行くと

やはり、そこに猫がいる。

そして今度は、何故か私を見ている……

また、愛嬌のある丸い目だ。

まぁ、少なくとも猫を食べる予定は無い。

とりあえず、無視だ……

しかし、また森に戻ってくると、今度は微妙に接近している。

ような気がする……

だが、この辺りはとても良い薪が落ちている。

私にとって、絶好の薪ポイントなのだ。

あと数回は来なければなるまい。


 そして、次の往復で確信した。

何の目的かは知らないが、奴は明らかに寄って来ている。

しかし、アイツは一体なんだ?

警戒すると言う事を知らないのだろうか?

そして、さらに次の往復で遂に目の前まで来てしまった……

いったい、なんだんだ……コイツは……


 どう見ても普通の可愛い黒猫なのだが、素直に信じてはいけない。

ここは都会ではない。

もしかしたら、この可愛さで安心させて襲い掛かるつもりなのかもしれないのだ。

とりあえず、竹槍を向けて警戒してみる。

油断は禁物だ。

しかし奴はまるで警戒していないように、甘い鳴き声を上げて足に纏わり付いてきた。

だが、まだ油断してはいけない……

槍の先を向けて、いつでも刺し殺せるように構える。

私は無表情を装い様子を伺っているが、本当にどういうつもりなのか……

足元で甘えるそれを見ると、本当に小柄なのが良く判る。

以前に猫を飼っていたが、それよりも遥かに小さい。

多分、体重は3キロも無いはずだ。


 足に纏わり付いて、はや数分が経過した。

ゴロゴロと喉を鳴らして、ひたすらに顔を擦り付けてくる……

どうやら、完全に懐いているらしい……

これは、困った……


 もし、このまま猫を連れて行ったとして、それからどうする……

現状どう考えても、この猫を養う力は持ち合わせていない。

今の生活は、不確定要素に羽が生えて飛び回っているくらいに不安定な状態だ。

実際、数日後に私一人でさえ食べていられるのかも判らないのだ。

私は、猫を振り払うように背を向けて歩き出した。


 これは参った……付いて来やがった……


 ひたすらに洞窟へと向かっているが、確実に付いて来ている。

振り返らなくても、そのくらいは判る。

確かに、猫は嫌いではない。

だが、状況が悪すぎるだろう……

下手したら、共倒れだぞ……


 私は洞窟の入り口で、大きく溜め息をついた。

黒猫はキョトンとした顔で私を見つめている。

元の場所に帰る気は、一向に無いらしい……

そして、この洞窟は出入り自由なフリー空間。

猫を遮る扉など存在しない。

来る者は拒まずと良く言うが、今は去る者は追わずを優先したい……

「あのさぁ……言っておくが、お前を食わせていけないぞ?」

それに反応するように鳴き声を上げる。

本当に、判ってるのかよ……


 猫には、餌をあげない事にする。

これで諦めてくれれば、それで良い。

こういう時は、下手に期待させてはいけないのだ。


 日も傾いてきた頃に、何時しか猫が見当たらなくなった。

もしや、帰ったか?

実の所を言えば、私は猫が大好きだ。

飼えるものなら、今すぐに飼いたい。

だが、私は……



 あれは、母が亡くなってすぐ後の事。

一緒に暮らしていた、猫の様子が何かおかしい。

すぐに動物病院に連れて行き、必死に看病した。

しかし、日を追うごとにみるみる悪化して行き

五日後には寝たきりになってしまった。

動物病院で、何か治療法は無いのかと問いただしてみるが

医者は首を振るばかりだった。

そして、私の腕の中で静かに息を引き取った。

私にとって、猫は家族同然の存在であり……

いや……今更、説明など要らないだろう。

私は……最後の家族を失ってしまったのだ……

その痛手は、あまりに大きかった。

また、何も出来なかった……

もはや、二度と立ち直れそうに無いくらいに落ち込んだ。

いわゆる、ペットロス症候群と言う奴だと思う。

そんな私が、とても自分から進んで飼おうなどとは考えられなかった。


 これで諦めてくれれば、それでいい。

「そう……それで、いいのだ……」

自分に、言い聞かせるように呟いた。














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