第十六節
雨が降り出して丸二日が経ち、厄介な雨雲はようやく去って行った。
青空を見ると、何故か安心する。
ひとまず雨は上がったが、まだ動くには早い。
食料や薪も、まだ十分にある。
私は地面が乾くまで待った。
それから丸1日の時間を置くと、やっと地面も乾いてきた。
これで、やっと動ける……
さっそく水の補給だ。
私は竹のバケツを持ち、川原へと向かった。
川の水を汲んでいると、下流で水を飲む鹿のような動物がとても気になる。
そこで私は、静かに呟く。
「とても、美味そうだ……」
何とか仕留めたい所だが、今は大物狙いの狩猟道具が無い。
洞窟へ戻ると、何とか奴を仕留める物は無いかと想いを巡らせていた。
まぁ、基本は古典的な道具になってしまうのだが……
悩んだ挙句、私はカイリー(キラースティック)を製作してみることにした。
ブーメランに似た物だが、全く次元の違うものだ。
ブーメランとは、投げたら自分の所に戻ってくる事こそが全て。
基本的に軽量で威力は無い。どちらかというと競技である。
飛行中は上空に向かって大きな円軌道を描いて行くので、
獲物に狙いをつけるのは至難の業。
もしブーメランで狩りをしたという記述があるとしたら、
それは余程の達人だったのだろう。
だが、カイリーの場合は直線的に獲物を狙って投げる。
別名キラースティックと言われるだけに、それは間違いなく武器だ。
全長は1メートルほどの、木の塊。
手元に戻って来る事など、全く考えていない。
完全に行ったきりである。
さらにブーメランは縦に投げるのが基本だが、
カイリーは横投げだ。
簡単に言えば、巨大なフリスビーみたいな感じだ。
への字に近い形状は、漠然と直線飛距離を稼ぐ事のみを追求したスタイル。
回転方向に対して飛行機の羽のような形状になっているので
回し投げる事で揚力が発生して、より遠くへ飛んでいく仕組みだ。
大きな木の塊が威力を落とさずに、真っ直ぐ飛んでくるのは正に脅威である。
確かこの武器の発祥は、オーストラリアだったと思う。
カンガルーなどを狩る為に使っていたと聞いている。
ウサギ等の小動物を狙うには全く向いていない武器だ。
小鳥の集団に投げ込むなら少しはいけるかもしれないが、
基本は大物狙い。鹿の確保には最適である。
さぁ、今度は一撃必中だ。
今回は、ミスが許されない。
失敗すれば、その鹿は二度とその場所に訪れないだろう。
あの鹿が水を飲んでいる下流までは、かなりの距離がある。
見通しは良いが、まともに狙えるのだろうか?
森に隠れて、忍び寄ってから狙うにしても
警戒心が高い鹿の事だ、簡単に逃げられてしまうだろう。
どちらにしても練習が必要だ。
私は見通しの良い場所で、確実に的に当てる為に特訓に入った。
やはり、予想通りだ。
カイリーは少し傾くだけで軌道が大きく逸れてしまう。
真っ直ぐに投げるのが、当面の課題だ。
しかし、なかなか難しい……
どうやら、フリスビーよりも繊細らしい。
まぁ、構造上仕方が無いが……
その場を行ったり来たり50投ほど投げると、
ようやく軌道が安定してきた。
なるほどね……
ようやく全身運動と水平維持の感覚が一致してきた。
まだまだ練習が必要だな……
いつしか、すっかり日が傾いている。
これは、いかん……
急いで川原へと向かい、二匹の魚を捕獲してきた。
今日は、これで凌ごう。
とりあえず、鹿は後の楽しみだ。