表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

第十節

 今日は、川と反対側の地域を探索中である。

しばらく森を歩いて行くと、見慣れた木が落ちている。

これは……

どう見ても竹のようだ。

もしや、近くに竹林があるのか?

もしこれが存在するなら、ぜひとも手に入れたい。

この状況で、竹ほど頼りになる存在は無い。

辺りを慎重に探索すると急斜面の上に竹林が見えた。

ここから直接は登れないようだ……

回りこむようにそこに近づくと、かなりの量の竹が生えていた。

細い物もあれば立派に成長して太い物もある。

これは本当にありがたい。


 さっそく石斧を取りに戻って、採取を始める。

木こりの様に生木に斧を当て数本倒して行くが、

横たわった竹でも使えそうなものは沢山ある。

色々な太さの竹を洞窟に持ち帰った。



 まずは、竹槍を作ろうと思う。

やはり防御は欠かせない。

ちなみに竹槍で一番に浮かぶのは、大戦時代の日本だろう。

古い資料の中に、女性が整列して

竹槍の訓練をしている画像を何回か見た事がある。

だが不思議な事に、その槍はやたらに太い。


 あれでは明らかにオーバーサイズで、

特に女性には無理がありすぎる。

まぁ突きをしている所しか見た事が無いので、

一撃に全てを賭けているのだろう。

重ければ確かに威力はあるだろうが、的を外せば間違いなくよろけるだろう。

その隙を補おうと足掻いても足元がふら付いてしまって、

どう頑張っても隙だらけだ。

一発勝負しか出来ないのは現実的ではない。

実践では、お話にならないだろう。


 私は少し細めの竹を選んだ。

竹刀の握りよりは太めだろうか?

このくらいの方が、小回りが効いて都合が良い。


 斜めに加工するのは意外に苦戦した。

ノコギリが無いのがかなり厳しい。

細くて目の粗い石を探してきて、それをノコの代わりにした。

一気には切断できないので、周りに線を付けていくように

徐々に擦っていって、弱くなった所を石斧で割るような感じで整形した。

最初は上手く行かなくて二本も割ってしまった。

まぁ、その竹は他の用途に使う事にしよう。


 切断面が粗いので、川原の砥石で慣らして

ツールナイフで最終仕上げをした。

なんとか形になって良かった……


 野外用に長めの物を2本と、

洞窟内で使えるように短めの物3本作った。

短いといっても1メートルは超えている。

まぁ、簡単に言えば枕槍だが、

あまりに短いと、槍の利点は発揮されない。

それは、さすがに考え物である。


 とりあえず軽く振ってみよう。

まずは長い槍からだ。

竹槍を持って、おもむろに洞窟の外へ出た。


 ちなみに私は、道場で武道を習った事は無い。

だが、自主的な打ち込みなどは日頃から行っていた。

完全に独学であるが……

それでも剣道経験のある友人に、冷や汗を欠かせるくらいは十分に出来た。

今となっては懐かしい話だが、それをするには訳がある。

友人の剣はあくまで剣道。その打ち込みは鋭いが、基本は当てるのが目的。

どちらかというと、スポーツの要素が強い。

だが、私が独学で覚えたのは剣術である。

居合いと斬撃が織り交ざったような感じだ。

竹刀での手合わせであったが、私は相手を叩き切るつもりで打ち込んでいく。

上段から繰り出すのは剣道の面ではない。

これまで彼が見た事も無いであろう、渾身の袈裟懸け。

一歩下がって回避するが、相手の耳元で風切り音を唸らせて竹刀が通過する。

その勢いのまま正眼に構えた彼の竹刀を腕ごと弾き飛ばした。

段違いな威力に青ざめた友人の動きには、もはや切れが無くなっていた。

気迫で押された時点で、すでに勝負はついている。

一見、隙だらけに思える私に気付いて

彼は慌てて面を取りに来るが、時すでに遅し……

さらに踏み込み逆袈裟斬りが唸りを上げる。

「必殺、ツバメ返しもどき!」

竹刀が彼の胴へと食い込み、その体重諸共強引に跳ね上げた。

これ、まさに殺人剣。

威力が少ない竹刀の一撃でさえ、友人は唸り声を上げて座り込んでしまった。

実は足への攻撃もあって試してみたかったのだが、

「剣道のルールが崩壊する」と主張されて禁じ手にされてしまった。

「薙刀には足払いがある。実戦を想定し備えるべきだ」と言い返してみたが、

彼の頭には、異なる武具と対戦すると言った発想は存在しないようだ。

非常に残念である……

しかし、あの一撃を撃ち込んで以来、

「殺す気か……」と言われて

私を避けるようになってしまったのは確かなのだが……


 色々と独学が好きな私は、当然槍の打ち込みも行っていた。

どう転んでも基本は突きなのだが、

少しでも小回りが効くように

棒術を合わせたような中国拳法の動きを参考にした。

戦いの中で、槍のリーチは明らかに有利である。

他の武具よりも多く振っていたので、槍は比較的に得意な方だった。


 さっそく突いてみると、なかなか良い感じだ。

次に振り回してみる。

風を切る音が凄い……

外周に遠心力が加わり、先端はかなりの速度が出ているようだ。

だが、その長さ故に狭いところでは厳しくなる。

やはり外でしか使えそうに無いな……


 次は短い竹槍に持ち替えてみる。

やはり短いだけに射程は下がる。

しかし、取り回し速度が速い分、先端の速度はさほど劣っていない。

これは意外だった。

振り回すほどに、実感が湧いてくる。

こっちの方が、使いやすいかもしれない……

もしかすると短い方がメインの武器になりそうだ。






 さて、次の物を作ろう。

竹を節の所で切断を試みる。

これは大変だ……

さすがに一番、硬い場所である。

だが、割れてしまっては意味が無い。

深い傷をつけるように地道に削って切断した。

一箇所竹の節を残す事でコップ代わりになる。

これも何かの時の為に、予備も作った。

太い竹を使って、バケツ代わりになるものも作った。

何やら節の中が汚れているので、後で洗いに行こう。

なんとか6箇所の切断が終わったが、

さすがに結構疲れてきた……


 だが、まだ作りたいものがあった。

使い捨てになるが、竹は火にかけることも可能だ。

一個辺りの大きさは確かに小さいが、鍋が無い今

これは本当に貴重な素材である。

かなりの疲労があるが、力を振り絞って

形の違う物をいくつか作った。

これは、これから必需品となるだろう。

遂に、念願の水の煮沸が可能になるのだ。


 さらに工夫すれば、食べ物を煮る事だって出来る。

蒸し焼きだって出来る。

生のままではキツイ臭いを放つ植物も

簡単な調理が可能になる。

それ以外にも、応用はいくらでも利くだろう。

これは偉大なる進歩である。

今は小さな一歩であるが……

いや、やめておこう……

そこまで大げさな話ではない。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ