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追放された新人剣士ですが、元仲間の逮捕を命じられました。

作者: よみなぎ
掲載日:2026/11/01

「エリス。お前をこのパーティーから追放する」


 冒険者レオンハルトは、宿屋の食堂でそう宣言した。


「理由を聞いてもいいですか?」


「実力不足だ。三週間も面倒を見てやったが、まるで成長しない。これ以上、お前の世話をする義理はない」


 魔法使いのマリーナが、呆れたように肩をすくめた。


「新人育成の依頼だから我慢していたけれど、限界よ。戦闘中も後ろでうろうろしているだけだもの」


 斥候のガルドも笑った。


「お前、魔物を一匹でも倒したか?」


「いいえ」


「だろ? もう少し才能がある奴を寄越してもらわないとな」


 私は三人の顔を見た。


 レオンハルトは腕を組み、マリーナは退屈そうに爪を眺め、ガルドは酒を飲んでいる。三人とも、私を完全に足手まといだと思っているらしい。


「わかりました。ギルドには、育成依頼の途中終了として報告します」


「ああ。俺たちの評価が下がるようなことは書くなよ」


「事実だけ報告します」


 荷物をまとめて席を立つと、レオンハルトが鼻で笑った。


「次のパーティーでは、もう少し役に立つようになれよ」


「ご指導、ありがとうございました」


 私は頭を下げ、宿屋を出た。


 扉が閉まったところで、ようやく息を吐く。


「……三週間か。もう少し調べたかったんだけど」


 私は冒険者ギルドへ向かった。


 正面玄関を通り過ぎ、建物の裏手へ回る。職員専用の通用口を開けると、受付の青年が立ち上がった。


「お帰りなさい、エリス捜査官」


「ただいま。潜入捜査は終了よ」


「何かあったんですか?」


「追放されたの」


「……はい?」


「実力不足ですって」


 青年は口を開けたまま固まった。


 無理もない。


 私は冒険者ギルド監察局所属の一等捜査官。冒険者による犯罪を捜査し、必要なら武力で逮捕するのが仕事だ。


 三週間前、私は新人剣士としてレオンハルトたちのパーティーに配属された。


 表向きは、ギルドが上級冒険者に割り当てる新人育成依頼。実際には、監察局が仕組んだ潜入捜査だった。


     ◇


「それで、何かわかったか?」


 監察局長グレゴールは、私の報告を聞きながら書類をめくった。


「決定的な証拠はありません。ただ、気になることが」


「言ってみろ」


「三人は、この三週間、依頼掲示板を頻繁に確認していました」


「冒険者なら当然だろう」


「ええ。でも、見ていたのは商隊の護衛募集ばかりです」


 私は手帳を開いた。


「北街道を通る毛皮商。西の山道を使う薬品商。王都へ向かう宝石商。出発日と経路を何度も確認していました」


「護衛を引き受けたのか?」


「いいえ。一件も」


 局長の手が止まった。


「……なるほど」


 レオンハルトたちには、以前から疑惑があった。


 この半年間で、三度。街道で盗賊に襲われた商隊を、偶然通りかかった彼らが救出していた。


 いずれも商人たちは無事。ただし、積荷の一部は盗賊に奪われていた。


 商人たちは命の恩人であるレオンハルトたちに感謝し、謝礼を支払った。彼らの評判も上がった。


 ところが、三度とも同じパーティーが偶然居合わせたとなれば、話は別だ。


 監察局は盗賊団との共謀を疑っていた。だが、証拠がない。商人たちは全員、彼らを英雄だと証言している。


「護衛募集を見て、襲撃する商隊を選んでいた可能性があります」


「あり得るな。しかし、それだけでは動けん」


「承知しています」


「ほかには?」


「ガルドが二度、夜中に宿を抜け出しています。尾行しようとしましたが、警戒が強く、途中で断念しました」


「接触相手は不明か」


「はい」


 局長は椅子にもたれた。


「それで、追放の理由は?」


「実力不足です」


「……お前が?」


「潜入中ですから」


 局長は額を押さえた。


「腕前を隠しすぎたんじゃないか?」


「否定できません」


 私は苦笑した。


 戦闘中は極力目立たず、魔物にとどめを刺す役目も譲っていた。おかげで三人は、私を完全に足手まといだと思っている。


「ただ、追放の時期が気になります」


「なぜだ?」


「昨日、レオンハルトが宝石商の護衛募集を長い時間眺めていました。そして今朝、突然追放を言い渡されたんです」


「次の仕事に連れていきたくなかった、ということか」


「可能性はあります」


 局長は立ち上がった。


「よし。三つの商隊、すべてに監視をつけよう」


「私も参加します」


「どこへ行く?」


「宝石商です。三つの中では、最も積荷が高価ですから」


「わかった。ただし、商隊の安全が最優先だ。証拠をつかむために被害を出すな」


「了解しました」


     ◇


 翌朝。


 宝石商オルセンの商隊が、王都へ向けて出発した。


 馬車は二台。護衛の冒険者は四人。


 私は監察局の隊員二人とともに、街道から離れた林の中を進んでいた。


 商隊には監察局から事前に警告を出してある。護衛にも事情を説明し、襲撃があれば積荷より人命を優先するよう指示していた。


「エリス捜査官。本当に襲撃されるのでしょうか?」


 若い隊員が尋ねた。


「わからないわ。ただ、レオンハルトたちが狙っているなら、この先が怪しい」


「なぜです?」


「街道が谷を通るでしょう。あそこは馬車が逃げにくい。しかも両側が林だから、盗賊が隠れる場所も多い」


 私は地図を指さした。


「ガルドは以前、あの谷を『待ち伏せには最高だ』と言っていたの」


 隊員が顔をしかめる。


「物騒なことを言う冒険者ですね」


「斥候としては正しい見方よ」


 私たちは谷を見下ろす斜面へ回り、木々の間に身を潜めた。


 しばらくして、商隊が谷へ入ってくる。


 そのときだった。


「……来た」


 林から、覆面をした男たちが飛び出した。


 十人ほど。剣と弓を構え、馬車を取り囲む。


「盗賊だ!」


 護衛の一人が叫んだ。


 私は隊員たちに合図した。


「弓兵を監視して。商人に矢を向けさせないで」


「了解!」


 護衛たちは馬車の前に立ち、商人を守った。


 盗賊の一人が怒鳴る。


「命が惜しけりゃ荷物を置いていけ!」


 護衛の隊長が剣を構えた。


「商人には手を出すな! 荷物なら渡す!」


 盗賊たちは宝石の入った箱を二つ奪い取った。


 その直後。


「そこまでだ、盗賊ども!」


 谷の反対側から、聞き覚えのある声が響いた。


 レオンハルトだった。マリーナとガルドもいる。


 三人は堂々と姿を現し、盗賊たちに向かって武器を構えた。


「商人たちに手を出すな! 俺たちが相手だ!」


 盗賊の一人が叫んだ。


「ちっ、冒険者か! 引き上げるぞ!」


 盗賊たちは奪った箱を抱えて林へ逃げ込んでいく。


 レオンハルトは追わなかった。代わりに、馬車へ駆け寄る。


「大丈夫か! 怪我人はいないか!」


 商人たちが歓声を上げた。


「ありがとうございます! 助かりました!」


「なんとお礼を申し上げれば……!」


 私は斜面の途中で立ち止まった。


 間違いない。これが、彼らの手口だ。


 盗賊に積荷の一部を奪わせ、絶妙なタイミングで救出に現れる。盗賊は逃げ、商人は助かる。誰も彼らを疑わない。


 だが、今回は違う。


「商隊の安全を確認して。私は盗賊を追う」


「レオンハルトたちは?」


「今は泳がせる。盗賊とのつながりを押さえるわ」


 私は林へ駆け込んだ。


     ◇


 盗賊たちは、街道から離れた廃屋に集まっていた。


 木の上から様子を窺うと、男たちは覆面を外し、奪った宝石を確認している。


「今回も楽な仕事だったな」


「あの冒険者ども、演技だけは上手いぜ」


 共謀は間違いない。だが、盗賊の会話だけでは三人を逮捕する証拠として弱い。


 私は木を降り、待機していた監察局の隊員たちと合流した。


「盗賊は十人。レオンハルトたちはまだ来ていません」


「応援の八人も到着しています」


「よし。廃屋を包囲して。合図があるまで動かないで」


 隊員たちが散開する。私は裏手の窓から中を覗いた。


 やがて、レオンハルトたちが現れた。


「待たせたな」


 盗賊の頭目が宝石の入った袋を差し出す。


「今回の取り分だ。約束どおり、半分な」


「おう。なかなかの稼ぎだ」


 レオンハルトが笑った。


「宝石商を選んで正解だったな」


「護衛募集を見つけたときは、当たりだと思ったぜ」


 ガルドも満足そうだ。


「商人たちも感謝していたわ。謝礼もたっぷりもらえそうね」


 マリーナの言葉に、盗賊たちが笑った。


 十分だ。盗品の分配と、襲撃計画への関与を確認できた。別の窓から監視していた隊員たちも証人になる。


 私は合図を送った。


 弓兵とマリーナを最初に制圧し、出入口を封鎖する。奇襲の手順はすでに決めてある。


「……開始」


     ◇


 廃屋の窓が一斉に砕けた。


「なっ!?」


 盗賊たちが振り向くと同時に、監察局の隊員たちが突入する。弓兵は武器を構える間もなく取り押さえられた。


 マリーナが杖を振り上げる。


 私は背後から踏み込み、その手首を打った。


「きゃあっ!」


 杖が落ちる。腕をねじり上げ、床に押さえつけた。


「エリス!? 何でここに……!」


「冒険者ギルド監察局です。武装強盗と共謀の容疑で逮捕します」


「……は?」


 マリーナが呆然としている間にも、隊員たちは盗賊を次々に制圧していた。


 出入口は封鎖され、弓兵も魔法使いも無力化されている。頭目が剣を抜いて突進してきたが、一撃を受け流して足を払うと、あっさり武器を捨てた。


「エリス!」


 レオンハルトが怒鳴りながら斬りかかってきた。


「お前、何をしている!」


「逮捕よ」


「ふざけるな!」


 上段から振り下ろされる剣を半歩横へ動いてかわし、すれ違いざまに手首を打つ。


「ぐあっ!」


 剣が落ちた。


「右肩が上がったら、必ず上段から斬り込むでしょう? 三週間、見ていたもの」


「ガルド!」


 背後から足音が近づく。


 私は振り向かずに身を沈めた。短剣が頭上を通過する。


「何っ!?」


 ガルドの足を払い、転倒したところを押さえつけた。


「奇襲するときは、必ず相手の左後ろに回る。それも三週間で覚えたわ」


「な、なんで……!」


 手錠をかけると、ガルドがレオンハルトへ叫んだ。


「助けてくれ!」


 だが、レオンハルトは落とした剣も拾わず、裏口へ走っていた。


「知るか! 俺は逃げる!」


 扉を蹴破って飛び出す。


「動くな!」


 外には監察局の隊員たちが待ち構えていた。槍の穂先が一斉に向けられる。


「……なっ!?」


 前方には武装した隊員たち。背後には私。逃げ道はない。


「終わりよ、レオンハルト。投降して」


「ふざけるな……!」


 彼は腰の短剣を抜いた。


「俺は上級冒険者だぞ! お前みたいな新人に負けるわけがない!」


「私は新人じゃないわ」


「黙れ!」


 レオンハルトが突進してきた。


 今度は上段から斬り込まない。横薙ぎから突き、さらに足元を狙う低い斬撃。私は一歩下がって受け流した。


「どうだ! さっきのは俺の癖を知っていただけだろう!」


 確かに、先ほどより厄介だ。


 私は剣を構え直した。


「……あなた、強いのね」


「今さら気づいたか!」


「ええ。だからこそ、もったいないと思う」


「何がだ!」


「その腕があれば、真面目に冒険者を続けるだけで十分に稼げたでしょうに」


「説教するな!」


 レオンハルトが踏み込む。


 私は正面から迎え撃った。剣と短剣がぶつかる。一度、二度、三度。


 四度目の打ち合いで、私は彼の短剣を外側へ押し流した。体勢が崩れたところへ踏み込み、剣の柄を胸に叩き込む。


「ぐっ……!」


 レオンハルトが膝をついた。手首を打つと、短剣が地面に落ちる。


 私はその首元に刃を向けた。


「終わりよ」


 レオンハルトは荒い息を繰り返しながら、私を睨んだ。


「……何でだ。何で、お前みたいな奴に……」


「潜入中は実力を隠していたからよ」


「……最初から、俺たちを騙していたのか」


「ええ。あなたたちの犯罪を調べるために」


 私は彼の両手に手錠をかけた。


「冒険者レオンハルト。武装強盗、盗賊団との共謀、公務執行妨害の容疑で逮捕します」


     ◇


 翌日、監察局の執務室で報告書を提出した。


「よくやった。盗賊団と冒険者パーティー、全員を逮捕。奪われた宝石も回収できた」


 局長は満足そうに頷いた。


「盗賊の一人が取引の記録を持っていました。過去三件の事件も立証できそうです」


「十分だな。それにしても、お前を追放したのは、犯行の邪魔になると思ったからか」


「おそらく。私を連れていけば、救出劇の裏側を見られる危険がありますから」


「だが、追放したせいで自由に動けるようになったわけだ」


「そうですね」


 局長は苦笑した。


「もし追放されなかったら、どうするつもりだった?」


「もちろん、犯行を確認した時点で逮捕しました」


「結局、どちらにせよ捕まっていたのか」


「はい。ただ、三週間の潜入は無駄ではありませんでした。三人の戦い方も、性格も、よくわかっていましたから」


 局長は報告書を閉じた。


「任務完了だ。しばらく休暇を取れ」


「ありがとうございます」


 私は敬礼し、執務室を出た。


 廊下では、受付の青年が待っていた。


「エリスさん、お疲れさまでした! それにしても、そんなに強いのに、どうして追放されたんですか?」


 私は少し考え、答えた。


「……演技が上手すぎたのかしら」


 青年が笑った。私も笑った。


 こうして、三週間にわたる潜入捜査は幕を閉じた。


 追放された私が次に受けた依頼は、元仲間の討伐。


 ずいぶん皮肉な仕事だったけれど、無事に終わって何よりだ。

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