第十話 合否
試験から一週間。
ゼノンの手元には、国立ビクトリア魔法学園の紋章が刻印された、ずっしりと重い封筒が届いていた。
「……ふん。余を不合格にするなどという不条理、この世界にあってはならんことだ。当然の報せを読みに行くとしよう」
強気な言葉とは裏腹に、ゼノンの指先はわずかに震えていた。
彼は約束通り、あの「忌々しき聖女の像」がそびえ立つ噴水広場へと向かった。
「ゼノン様ー! こちらですっ!」
遠くから、ちぎれんばかりに手を振るモニカの姿があった。
彼女もまた、自分の封筒を大事そうに抱えている。
「……お主、その顔は既に結果を見たようじゃな」
「はいっ! 当然の合格です! 学園を内側から爆破……じゃなくて、改革する準備は整いました! さあ、ゼノン様も早く!」
ゼノンは一つ深呼吸をし、意を決して封筒を破り、中の厚手の紙を引き抜いた。
そこには、無慈悲なほど大きく、太いフォントでこう記されていた。
【 不 合 格 】
「…………」
ゼノンの思考が停止した。
視界が白黒に反転し、心が割れた気がした。
「……ノンちゃん、さらばじゃ。プレス機の感触が心地よいことを祈っておるぞ……」
「ゼ、ゼノン様!? しっかりしてください! 何かの間違いですって、そんな、世紀の大魔法使い様が落ちるなんて……!」
膝から崩れ落ち、虚空を見つめるゼノン。
あまりの絶望ぶりに、モニカも「ビクトリアの呪いでしょうか……」と顔を青くして同情の言葉を投げかける。
その時、ゼノンが力なく取り落とした封筒から、ひらりと一枚の別紙が舞い落ちた。
「……ん? ゼノン様、何かまだ入ってますよ」
モニカがその紙を拾い上げ、目を細めて内容を読み上げる。
「えーと……『不合格――と言いたいところですが、歴史学における異常なまでの知識量と、実技試験での計測不能な魔力密度を鑑み、今年度より新設された【特別客員枠】としての入学を許可します』……ですって!!」
「……何?」
「ゼノン様! 合格……合格ですよ! 『歩く歴史資料』兼『魔力発電機』みたいな扱いっぽいですけど、とにかく入学許可ですっ!」
ゼノンはガバッと跳ね起きると、モニカが持つ書類をひったくるようにして凝視した。
「ほ、本当か!? おお……おおお! 当然だ! やはりこの時代の連中も、余という真理を切り捨てる勇気はなかったようだな!」
「すごいですゼノン様! これで一緒に学園へ通えますね!」
「うむ! これでお主も余の背中を見て学ぶが良い。借金も、ビクトリアの汚名も、すべてまとめて余が粉砕してくれよう!」
春の陽光が降り注ぐ中、噴水広場で手を取り合って喜んだ。
背後にそびえるビクトリア像が、どこか呆れたように二人を見下ろしているようだったが、今のゼノンの耳には、ノンちゃんが救われた歓喜のファンファーレしか聞こえていなかった。




