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リンドベルの裏方たち【本編完結済】  作者: 染舞
元冒険者講師ロッカの未来
9/9

最終話「岩肌は若者たちを導き、未来へ通す」

 空気が震えていた。


 いつだって穏やかな空気が漂っていたリンドベルの街が、緊迫した空気に包まれ、あちこちで論争が起きていた。

 それは警備隊と冒険者の間柄でよく起きる誤解や摩擦ではなく、もっとこの街の根幹に纏わる話であり、答えが出ないものだった。


 ロッカもまだ、迷っている。しかし、ギルバートの立場についた。どうせ迷うなら、この男について行こうとそう思ったのだ。


 久しぶりに向かう冒険への想いを寄せつつ、彼女はヴァレリオ、レイヴン、フィンを振り返る。



挿絵(By みてみん)



「しかし、ヴァレリオとレイヴンはともかく……フィン、お前まで連れて行くことになろうとはな」

 そう。今回の冒険には非戦闘員であるフィンもついて来る。むしろ彼がメインであり、ロッカたちは彼を無事に送り届けるのが目的だ。

 フィンは「ふん」と鼻で笑った。いつものように。なんてことないように。――かすかに指先を震わせながら、彼は笑ってみせた。


「僕が行かなきゃ、誰が行くって言うんだ」

「それは……そうなんだが、危険だぞ?」

 ヴァレリオは心配そうにフィンを見た。レイヴンも無言ながら、その明るい水色の瞳に心配の色を浮かべている。


「まぁまぁ、我等が守ればいいだけだ」

「ロッカ様……ですが、情報が少なすぎます。やはり私たちだけでっ」

「レイヴン、その話は十分に話し合っただろうっ? 僕は行くからな」


 話し合った。そう。ロッカたちは話し合った。だがそれが十分であったかは、ロッカには分からなかった。

 足りない気がした。

 しかし、時間も足りなかった。それに何より、話し合いを続けたところで、全員が納得する答えなど見つけられなかっただろう。


(きっとこの答えに正解など無いのだろう)


 ロッカは思いながら、結界樹を見上げた。600年、この街を見守り続けた樹は、青々とした葉をたくさん茂らせていたが、その一部が枯れ始めていた。

 その結界樹の姿に、この街出身ではないロッカですら、心が痛む。この街で生まれ育ったフィンはなおのことだろう。


 結界樹は、リンドベルに住む者たちの魂だ。


 そんな結界樹にロッカたちは、近づいていく。――覚悟を決めろ。


「さぁ、行こう」

 ロッカは仲間たちを振り返り告げる。その目にもう迷いはない。たとえその先に必ず喪失があるとしても、彼女はそれを受け入れると決めた。


 ただ前へ進む。

 時折魔物と戦いながら、常に気を張りつつ、未知の場所をどの方角が正解かもわからぬままに進んでいくのは、ストレスだ。


「ぐるぎゃあああああっ」


 どこからともなく襲いかかる魔物は、見知ったものもあればまったく見知らぬ姿のものもあった。知らないと言うだけで、なんと恐ろしいことか。


 焦りそうになる心をロッカは抑え、仲間を振り返る。彼らの顔に隠しきれない疲れと焦りを見て、ギルバートが彼女をこのパーティに加えた意味を痛感する。

 タイムリミットが迫る中で、ゴールのわからない迷路を進むのは、冷静さを奪う。ロッカですらそうなのだ。まだ経験の浅い彼らはなおのこと。


(落ち着け。我まで焦るわけには行かぬ)

 喉が……渇く。ロッカは水筒から水を一口飲んだ。そして彼女は笑って見せる。フィンが恐怖を見せぬように笑ったように、力強く笑う。


「なあに、安心しろ。もし我等が失敗しても、外にはギルがおる。やつがいれば街は大丈夫だ」


 ロッカがそう言うと、明らかに三人は少し肩の力を抜いた。


「そうですね。ギルバート様がいれば」

「はい……」

「……別に、あいつのことなんてどうでもいい」


 三者三様。しかし、空気は良い感じに緩んだ。


「そうだ。我等は生きて帰ることだけ考えれば良い。帰って、やつらにこの経験を語ってやろうじゃないか。

 きっとあやつは悔しがるぞ」


 さらにロッカが言い募れば、クソっと悔しそうにするギルバートの姿が思い浮かんだ三人はくすりと笑った。


(そうだ。ギルバートが我に言ったのは『三人を頼む』だ……『街を頼む』ではなかったな)


 ロッカはただ、この三人の若者の『未来』を守れば良いのだ。


 そう思うと彼女は気が軽くなり、今度は心から笑った。三人が心から笑える未来は、きっともう少し先の話。



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