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リンドベルの裏方たち【本編完結済】  作者: 染舞
農家ドルゴの小言
4/9

第1話「ニンジン嫌いとくすり嫌い」

 リンドベルの気候はとても穏やかで、周囲には広々とした平原が広がっている。

 そんな街の外には、これまた広々とした農地もあった。


「よいせっと……ほっほっ、良い色のニンジンじゃな。美味そうじゃ」

 畑の主だろうか。低い身長ながらどっしりとした体躯のドワーフの老爺が、畑から収穫したばかりのニンジンを見て満足げに笑う。


「……どこが美味そうなんだか」


 そんな彼の背中から、なんとも嫌そうな声がした。

 日を浴びていない白い肌に、やつれた顔と目の下にクマを刻んだ青年、フィンだ。



挿絵(By みてみん)



 老爺は彼を見て白い髭を撫で、笑う。


「フィン坊か。なんじゃ、まだニンジン嫌いは治らんのか」

「別に治す必要もないよ。病気じゃないんだから」

 フィンはふいっと灰銀の目をそらす。ニンジンのことを話題に出したくないらしい。

 代わりにゴソゴソとカバンを探り、瓶を取り出す。今度顔をしかめたのは老爺の方だ。


「そんなことより、ドル爺。ほら。いつもの薬持ってきた」

「……むぅ。薬などいらんと言うておるのに」

「何言ってるんだ。最近咳が出るって言ってただろ。ほら」


 ドル爺――ドルゴ=ファーマンは嫌そうにしつつも、フィンの瞳の奥にある心配そうな輝きに、渋々と薬を受け取る。


「前、苦いの嫌だって言ったから、苦くないようにした。今度はちゃんと飲んでよ」

 フィンは気だるそうに言った。仕方なくそうした、というような口調だったが、そのためにはきっと労力を重ねたはずだ。しかし、そんなことは表にはまるで出さない。


(まったく。この偏屈なところは誰に似たんだか)

 ドルゴは、素直ではないこの孫のような錬金術師に肩をすくめつつ、仕方ないからちゃんと薬を飲もうと決める――嫌だが。


「最近はどいつもこいつも、ワシを年寄り扱いしよって。ワシはまだまだ現役じゃ」

「……この前、腰痛めたって聞いたけど」

「腰を痛めるなんて若かろうとするじゃろが!」

「冬になると節々が痛むって」

「ドワーフは寒いのが苦手なんじゃ!」


 ワシだけじゃないっと胸を張るドルゴに、フィンも最後は「……そう」と言葉を終わらせた。納得したわけではないのは、呆れた顔が語っている。

 そしてやはり納得できずにフィンはぼやく。


「屁理屈ジジイ」

「なんじゃ、偏屈坊や。まったく年寄りを敬わんとは。育てた親の顔を見てみたいわ!」

「……爺ちゃんじゃん」


 フィンのジト目を受けても、ドルゴは自信満々だ。


「ワシの教えだけを聞いておったらもっと素直になるはずじゃ。ギル坊たちの悪い教えのせいに違いないわい!」

「…………」

 とうとう完全にフィンは黙った。代わりに彼はため息を付いた。それが昔からの二人の関係を物語る。


「もう分かったから。とにかく、その薬ちゃんと飲んで。食後に。分量は中に書いてあるからちゃんと守って。

 ……前みたいに『飲めば良いだろ』とか言ってがぶ飲みしないでよ」


 まるで子供に言い聞かせるようなフィンに、ドルゴは「むう。飲めばいいだろうに」と文句を言いつつも、さらに強くなるフィンの目線にさすがに負けて「わかった、わかった」と頷く。


「ほれ、話は終わりじゃろ。せっかく来たんじゃ。作物収穫体験でもしていけ」

「それ……ただの手伝いじゃん」

「まったく! 家にこもりっきりでひょろひょろしてからに。働かんか」

「僕は爺ちゃんと違って頭脳労働してるんだよ」

「口を動かさんと、手を動かさんか! おー、腰が痛い。痛いのぉ。孫は手伝ってくれんし」

「年寄扱いするなって言うくせにこういう時だけ……もうっ分かったって。手伝うよ!

 うへぇ、ニンジン……」


 珍しくやや声を張って頷いたフィンに、ドルゴは「ほっほっほ」とヒゲを撫でるのだった。



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