探索と解読
フリーズ・ファンタジーの世界には、多くの古代遺跡がある。
現れる魔物を倒して経験値稼ぎをしたり、そこでしか手に入らないお宝を獲得するために存在していた。
原作では遺跡そのものは、ストーリー自体には絡まなかった。単なるレベル上げの場所、と割り切って差し支えない。
だが僕にとって、こういった場所は特別な意味を持っている。壁という壁に書かれた古代文字が、暗い中で輝いて見える。
フリーズ・ファンタジーという世界のことを、僕は知り尽くしたつもりだった。
しかし実際には、こうした隠し要素がいくつもある。
薄暗い通路を進みながら、壁に書かれた字を読み解いていく。
ずっと苦労して苦労して、大昔の文献を漁って得た知識で解読を続けていた。
僕は前世では、ゲームの次に歴史が好きだった。
どういった過程を経て何が起こったか、偉人達が生まれ落ちて死ぬまでに、何を成したのか。
生み出されていった文化の数々。好奇心が疼き、知りたくてたまらない。
そして解読という作業が楽しい。
こうして遺跡に潜るのは、もう十五回くらいはしているだろう。この大陸——シルヴァーナ大陸という——だけではなく、近場の島にも出向いている。
実は、ほとんどの遺跡は初見である。原作では存在していなかった遺跡が、この世界には沢山ある。
それが逆に面白かった。好きだったゲームの世界に、実は知らないダンジョンがあったのだから、楽しみで仕方がない。
「そうか。ここに海の書を残したのか」
こうして古代の壁文字を読める人が、世界にどれくらいいるだろうか。残念ながらまだ出会っていない。
僕は読み進めながら、いかにこの遺跡に大変な宝が眠っているか、事実を知って胸が高鳴った。
フリーズ・ファンタジーには、すでに滅び去った古代文明が存在する。
そこには現在では獲得することができない、さまざまな文化とお宝が眠っているのだ。
僕はそのうちの幾つかを、すでに手に入れていた。代表的なものとして、天の書と呼ばれる魔導書がある。
そこには飛行の魔法をはじめとして、数々の風や空を利用した魔法が載っていた。
夢中になって読み漁り、実際にいくつかの魔法を習得している。
そしてここでも一つ、魔導書を手に入れることができるかもしれない。
ワクワクしながら、壁に沿って暗い通路を進んだ。懐から取り出した小さな杖を前に向け、竜陽光と呼ばれる光魔法を使っている。
懐中電灯のような光が杖から発せられ、目視がしやすくなった。さらに風我で杖を浮かび上がらせたので、僕の両手は自由になっている。
「おっと、これは面白い」
道中にも宝箱があり、そこには騎士を思わせる姿をした人形があった。槍を背中に背負って、剣と盾までついている。
このくらいの深さなら、過去にやってきた人はいそうだけど。持ち出さなかったのか。
恐らくは大した物じゃないと思ったのだろうか。
でも、古代遺跡にある物は相応の価値があるはずだ。僕はこの人形をはじめ、とにかく沢山の拾い物をしながら進む。
しばらく進むと地下へと続く階段があった。降りていった先は、まるで迷路のように入り組んでいる。
「正しい道のみを選べ……か」
階段の前にある壁に、大きく書かれたこの文字が堪らない。
そんなことを考えつつ、慎重に迷路を進んでみる。三回ほど突き当たりを右に曲がった時だった。
「おお」
ちょっと感心してしまった。最初の階段の位置に戻ってきたからだ。そういうことを、三度ほど繰り返して理解できた。
つまりこの通路は、正しい道を選ばなければやり直しになる。
何とも不思議だが、フリーズ・ファンタジーでは中盤以降のダンジョンで何度かあったので、自然と納得はできる。
問題は通路の至るところから、骨だけになった剣士や、死んで体を腐らせた連中が近づいてくることだ。
「まあ、これも納得はできる」
世界には危険がつきものだ。特に魔物という存在が、人間をいつも危機に陥れてしまう。
でも、こちらもそれなりの準備はしてある。いくつか覚えている攻撃魔法の一つを、ここで使うことにした。
どうやら相手はゾンビ系と呼ばれる、死んだはずの連中ばかりらしい。ならば相応の歓迎がある。
僕は魔物達が崩壊した体を引き摺りながら迫ってくる姿を、どこか哀れに思いつつ、脳内だけで魔法の準備を終わらせる。
魔法というものは、発動するまでに時間がかかると思われがちだ。詠唱という準備操作が必要なので、半分は当たっている。
だが、僕の扱う魔法にとって、そういった事前準備はほとんど必要ない。
ただ魔力を体から放出させながら、使いたい魔法の操作ができれば良い。
この事実を知った時は驚いた。原作には登場していない大昔の魔法技術のようだが、なぜこんな真似ができるのか不思議だ。
魔導書とは読んで使うものではなく、そこに書かれた魔力の動かし方を、脳に焼き付けるための書物かもしれない。
実はややこしいことに、魔力操作の仕方を補助してくれる魔法も存在している。
つまり魔法によって魔法を習得するという、一般人には意味不明なことを僕は繰り返していた。
以前裏庭で魔法の練習に明け暮れた時など、父と母から臭いものを見るような視線を受けたこともある。
まあ、理解されない虚しさを嘆いても始まらない。迫りくる十を超える魔物達。彼らの足場を僕は指差した。
「神光聖域」
声を発した後、床全体が真っ白く輝き出した。聖なる力が通路上に広がり、腐敗した肉は清らかな光に焼かれ、骨だけの体は煙と共に消え去っていく。
ここの魔物に大したやつはいない。ついでなので、聖なる魔法をフロア全体に使っておくことにする。
神光聖域と呼ばれた魔法は、その範囲を広げることができる。
遺跡の作りはまだ完全に分かっていないが、建物である以上、恐らくここまでの広さはないだろう、という距離を想定し魔法の範囲を広げていった。
遠くからゾンビと思わしき存在の呻く声が聞こえる。ここにはどうやら大勢いたようだが、一度の魔法があれば事足りる相手だった。
ちなみに古代魔法の名前は、前世でいう東洋に馴染みのあるようなネーミングが多い。
当て字のような名前もあり、法則性がよく分からないが、それもこれから解明する予定だ。
ちなみに今まで見せた魔法については、普通に音読みである。
とにかくしばらくの間、この遺跡は静寂を取り戻すだろう。
僕は気を取り直して、遺跡の奥へと進むことにした。




