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コミュ症裏ボス悪役令嬢は分かってくれない!〜魔力が無限で、世界で一人だけ幻の古代魔法を使えても、モブはやっぱりモブなんです〜  作者: コータ


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もう一度会いたい

 魔法で空を飛びながら、どうして二度目のお見合いが決まったのかを考えてみる。


 でも、やっぱり分からない。謎はこの手紙を開いた時に解けるのか、それとも……。


 とにかく手紙の中身が気になっていたが、今日はなるべく急いで向かいたい場所がある。


 大陸の東にある広大な森の上までやってきて、僕はゆっくりと降下を始めた。


 森の周囲に三つの巨大な岩が見えた。その中心にあたる箇所に用がある。


 ちなみに、その三つの岩もまた古代文字がびっしりと書かれていた。この世界にかつてあった文明は、さまざまな爪痕を今も残したままである。


 でも、世の人々はほとんどの場合、滅び去った文明については無頓着なようだ。分からないことは分からないままでいい、という考えである。


 ただ、僕はどうしても無関心ではいられない。静かに着地し、目的の場所へと歩き続ける。


 鬱蒼と生い茂る森の中は、魔物の匂いが漂っている。そればかりではなく、危険な虫やお尋ね者、賊連中も隠れ住んでいる可能性があった。


 とにかく森というのは危険だが、磨いた魔法の腕があれば特に問題はない。この場所については以前から知っていたが、魔物が強いので慎重な準備が必要だった。


 念の為周囲を警戒しつつ、地面の茂みを調べていく。


 二、三分ほどして見つかったそれは、あまり大きいとは言えない石で作られた魔法陣だった。手を翳し、小さくつぶやいてみる。


「黄金の鍵」


 これは鍵の開閉が行える古代魔法だ。どんな扉でも可能なため、この魔法を覚えて以来僕には鍵が必要なくなった。


 掌が輝き、呼応するように魔法陣も光り出す。そしてぐるぐると五芒星が回転し始めたかと思うと、そのまま真っ直ぐ上に浮上してきた。


 煙突のような形状の側面に、一つだけ扉がある。中に入ると自然に閉まり、エレベーターのように下へと下がっていく。


 どれほど地下へ降りただろうか。少し経ってから開かれた先にあったのは、趣あふれる書斎だった。


 主のいなくなった部屋は、なぜか埃も溜まらず清潔な状態を維持している。不思議な空間に足を踏み入れ、周囲を探ってみた。


 沢山の書物が並んでいる。しかしここにある書物は、大抵の人には理解できないだろう。


 本を手に取ってみると、現代の文字でも古代文字でもない、日本語で書かれた文字ばかりが視界に広がる。


 本来なら、誰も足を踏み入れることができない場所だ。半信半疑だったが、本当にあったとは。


 ここはかつて、フリーズ・ファンタジーの裏技特集で紹介されていた、ゲームの内部データが保存されている部屋である。


 プレイヤーが入れないはずの場所だが、バグにより偶然入室する方法が見つかり、当時ネットではけっこうな騒ぎになっていた。


 本棚の資料には、魔物データやシナリオ、キャラクターデータなどが詳細に書かれている。


 僕にとってはほとんどが知っている情報ではあったけれど、やはり資料室でなければ得られないこともあるはずだ。


 とりあえず本を片っ端から手に取ってみる。


 魔法について、魔物について、シナリオについて、衣装について、世界観について、開発スケジュールについて、とにかくさまざまな資料が置いてある。


 でも、どこまで探しても古代文明についてや、古代魔法についての詳細な情報はなかった。


 古代文明が存在していたことや、その文明にだけ存在していた魔法についての記載はあるけれど、詳細を書いていない。せいぜいそういうものがあった、という程度だった。


 それでもやはり、ここに入れたことは大きな収穫だと思う。


 一つは作中で登場するミッションの存在だ。主人公達がこなしていくものの一つにミッションがある。


 これは大抵の場合、誰かにお願いされて困ったことを解決してあげることで、お礼として様々な報酬をもらえるというもの。


 僕はこのミッションについては、ゲーム中でほぼ全て達成している。ただ、ミッションの数は楽に三桁に超えるため、全て記憶にあるわけではない。


 どうしてもミッションの内容について、細かく調べておきたかった。そのうちのいくつかは、前もって僕が潰しておきたいのである。


 なぜそんなことをするのか、という理由はさておいて、しばらく調べ物をした後、休憩がてら近くにあったソファに腰を下ろした。


「さて、何が書いてあるかな」


 ここで彼女の手紙を読むことにする。封をナイフで切って、前世でいえばA4サイズほどの紙に目を通してみた。


 手紙の内容は、こんな感じのものだ。


 =====

 拝啓


 親愛なるキース・ツー・イグナシオ様


 先日は私とお見合いしていただき、本当にありがとうございました。

 とっても緊張してしまって、嫌な気持ちにさせてしまったかも、と心配です。


 あなたのお話はどれも面白くって、もっと知りたいという気持ちが今から膨らんで、どんな感じでお伝えして良いか分からないくらいです。


 でも、実際にお会いしたら、またちゃんとお話することができないかもしれません。

 ごめんなさい※泣いている絵※


 古代魔法の話も、遺跡の話もとっても面白かったです。特に爆破魔法のくだりとか、想像しただけでおかしくって。


 よろしければまた、お会いしたいです※笑っている絵※


 敬具


 997年不死鳥の月13日


 イグナシオ家五男、キース様


 アリス・フォン・ローゼシア

 =====


 僕は唖然とした。


 これは一体どうしたことだろうか。あの無表情でクール感しかなかった娘が、こんな感情豊かな手紙を本当に書いたというのか。


 貴族というより、普通の女子が好意的な手紙を送ってくれたという感じである。


 おかしい、これはおかしい。僕が知る冷酷で容赦のない悪役令嬢とは、似ても似つかない手紙ではないか。


 しかもあの時、アリスはそんなに楽しそうにしていたかな?


 記憶にある彼女は、氷のように無表情でしかなかった。例えば遺跡トークの中で、「聞きたい」とか「私に知識があれば」とかサラッと相槌っぽく返されたことがある。


 よくよく考えてみると、あの返し方は変だ。だがあまりに遺跡の話に熱が入ってしまった僕は、その返しに深く考えることもないまま、さらにトークを続行していた。


「聞きたい……聞きたい……そうか」


 この時、ふと一つの推測が生まれた。彼女は言いたいことがなかなか言葉にできず、ああして断片的になるのではないかと。


 つまり、「聞きたい」と言っていたのは、「あなたの話は本当に面白くて興味が尽きないので、もっと詳しく聞かせてほしい」と言っていたのかもしれない。


 また、「私に知識があれば」というのは、「今はあまり理解できていないけれど、私にもう少しだけ知識があればちゃんと分かると思うので、気にしないで続けてほしい」と伝えようとしたのかもしれない。


 この推測が当たっているとしたら、彼女はなんと口下手な人なんだろう。


 しかし、原作では多くの人々を手玉に取っていたアリスが、ここまで不器用だろうか。それに、こんなに普通の女の子をしているだろうか。


 どうもおかしい。しかし僕は、関わってはいけない彼女に、いつしか危険な魅力を感じ始めていた。


 その魅力とは、彼女の発言がわかりづらいことで、むしろ解析してみたいという気持ちにさせられたことだった。


 またしても自分の趣味が疼いている。しかしもう関わるべきではない……僕は誰にも知られることなく、一人葛藤していたのだった。

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